19 ˩˨˧˦˥ 大きな唇
「ね、ミオリコ、ボクとちゅうしよう」
いきなりそう言ったロㇰペㇾタㇻの巨大な顔はこっちに近づいてきた。
「えっ? へぇ!? ちゅう? キス? ちょっと、ロㇰペㇾタㇻ、待ってよ。心の準備が……」
先に報告したものの、ロㇰペㇾタㇻが返事を待たずにすぐ行動してしまって、あまり心が整うほどの時間なんて与えたくれなかった。それに今私はセㇷ゚チㇱレㇺの谷間の中に挟まれたままだから動いても抜け出せそうになくて逃げ場なんてない。
『ミオリコ、嫌なの?』
「キャッ!」
ロㇰペㇾタㇻの口が目の前の50センチくらい(実際は人間サイズ換算で0.5センチくらいだけど)の距離で止まって、その口が開いたと同時に暴風と轟音が出てきた。彼女は普通に喋るつもりのようだけど、この接近距離だと彼女から発した気流はいっぱい私の顔に当たって声も息も有害なものになってしまいそうだ。
「ごめん! わざとじゃない……」
私が困ったと察してくれたか、ロㇰペㇾタㇻは少し顔を遠のいてから謝ってきた。
実は以前、真逆のことは起きたことがある。あれは出会ったばかりの時に私が小人のコㇿポックㇽたちに対する扱いがまだ慣れていなかった時ね。まさか今自分の方が小さくなってやり返されるとはな。
でもロㇰペㇾタㇻもこんなことを誰よりもよくわかっているから、今自分が何のミスをしたかすぐわかったようだ。自分がされて嫌になることは人にもしたくないというのは当然のことだよね。
そんな反省してしょんぼりした顔は、今大きく見えるけど相変わらず可愛い。
「やっぱり、ボクは自重してちゅうはやめよう」
「ちょ、ちょっと、なんでこうなるの!? それは困っ……あっ」
今もうキスしてもらえなくなって寂しくて残念に感じてしまった自分がいると気づいてしまった。こんな失態……。あんなでかい唇と接触するのは怖くて嫌だと考えているのに、もしかして実は私が……。
セㇷ゚チㇱレㇺも「あらあら」って呟いて、私の反応を見て考えることは見通しみたい。
「ごほんっ。ね、ロㇰペㇾタㇻ、もししたいなら別に私は構わないけど、ちゃんと力加減してね。いつも私がするように。いい?」
とりあえず私は「キスくらい許して上げてもいいよ」という「上の立場」っぽい態度を取って話を進めることにした。
「わかった。ボクは気をつける」
そしてロㇰペㇾタㇻの顔はまた私に近づいてきて、彼女の巨大な唇は私の視界を占めていく。私の頭をまるごと吸い込めそうくらい大きい口は閉じているから呑み込まれる心配はなくて安心できるもののやっぱりまだ怖くて落ち着かない。いつもロㇰペㇾタㇻはこんな感じで私の唇と向き合っていたの? まあ、ロㇰペㇾタㇻは能天気だから今の私みたいに深く考えなく怖く感じるなんてないだろうけど。
やがてその巨大な柔らかい唇は私の顔に当たった。ただ……ロㇰペㇾタㇻは私の唇にキスするつもりだろうけど、この大きさの違いだと私の顔全体が彼女の唇に包まれそう。これも微妙な感覚で悪くない気もするけど、なんか違う。
やっぱりロㇰペㇾタㇻからは小さな私の唇を正しく当てるのは難しい。私から動かないと話にならないかも。いつもなら小さなロㇰペㇾタㇻから私の唇に近づいて自分から唇を当てたのだから。どうやらこのサイズ差のキスなら小さい方がリードした方が上手くいけるみたい。
そう考えて私は彼女の下唇に自分の唇を置いて口づけをして体重をかけてしばらくそのままにした。こうやってキスは成立した……? と言っていいんだよね? あまりにも普通の人間同士がやるのと違いすぎて実感は薄くてはっきりとしないかもしれないけど。
それでも私はすごくドキドキして興奮してしまった。いっぱいロㇰペㇾタㇻを感じたのだ。
「大好きよ。ロㇰペㇾタㇻ」
私は自分しか聞こえないくらい小さい声でそう囁いた。今こんな行為をして感情が昂ぶってつい普段自分が言うはずがないことを言ってしまったけど、どうせ今の声は小さすぎて誰も聞こえないから別に大丈夫だろう。と、思っていたが……。
「ボクもミオリコのこと大好きだぞ」
と、ロㇰペㇾタㇻが私から少し距離を取ってから囁くような声でそう言ってきた。
「え? へぇ!!! もしかして今わたしの言葉聞こえたの?」
「うん、ボクのこと大好きって言ったよね? なんかミオリコの口から初めてこんなこと聞いて意外だ。嬉しいぞ」
「やっぱり聞こえられた!? なんで!?」
今私はこんなにもちっちゃいのに。しかもすごく小さい声で言ったつもりだったのに。
「えへへ、澪梨子お姉ちゃん、今牧星菜の魔法の効果のこと忘れてない?」
今の声はさっきからずっと黙っていて私たちを見守っていた一番巨大な牧星菜ちゃんから。もちろん、じっとしていても彼女の大きな存在感は無視できないものだ。
「魔法って? あっ!」
そういえばさっき私の声は小さくてもはっきり聞こえるようにって……。そういう魔法を発動させているって言ったね? まさかそれで囁く声まで……!?
「あ、ミオリコ、顔真っ赤だぞ」
「ふ、不覚だ……」
「ミオリコったら、天の邪鬼なんだから。まったく、なんでいつもこんなに素直になれないのかしらね。うふふ」
「うっ……」
そう言われてもね……。もう、顔を合わせたくない。今穴があったら入りたい……。と思ったら自分が今セㇷ゚チㇱレㇺの襟のところにいて下半身はすでに彼女の着物の中に埋まっていることに気づいた。
だったらそのまま全部埋もれればいい、と思って私は勢いでセㇷ゚チㇱレㇺの着物の中に潜り込んだ。
「ちょっと、やだ~。ミオリコのエッチ~。大胆~」
私の突然な行動に驚きながら嬉しそうなセㇷ゚チㇱレㇺの声が響いてきた。
っていうか今私、何をやっているんだ!?