16 ˥˦˧˨˩ 50分の1
嫌な予感の通り、私の視線は更に低くなっていく。そばに立っているセㇷ゚チㇱレㇺの胸くらいに、更に腰に、膝に、そしてまだまだ……。
「ちょっと、どこまで小さくするつもりなの!?」
今までのサイズ変化は少しずつ小さくなるって感じだけど、今回は更に時間が長く、変化も著しい気がする。さっきの半分どころではない。
「ではこの辺にしておこうなの~」
そう聞いて私は少しでも一安心したけど……。
「何こりゃ!」
変化が落ち着いた時に私の目の前にはセㇷ゚チㇱレㇺの巨大な脹脛と、更に巨大な牧星菜ちゃんの趾先だった。
「えへへ、澪梨子お姉ちゃんを50分の1サイズにしたの」
「へぇ!!!」
何てことしたんだ、牧星菜ちゃん! それってつまり今の私って3.18センチしかないってこと? 私から見れば牧星菜ちゃんはもう70メートルの大巨人になっている! 小さな小人であるはずのセㇷ゚チㇱレㇺだって今は8.9メートルだ。なんかとんでもないことになっている。
目の前にあるセㇷ゚チㇱレㇺの脛はなんか迫力あるね。今蹴られたらただでは済まなさそう。そう考えたらなんか怖気付いてきた。だけどその同時によく見てみると白くていい形をして、これはいわゆる『美脚』ってもの? 今までコㇿポックㇽの脚どころか、人間の脚だってまともに見つめたことないけど、確かに意外と見どころがあるというか……。
「えへへ。ミオリコ、今あたしの脚をじっと見ているわね。やっぱり脚の美学をわかってくれたのね」
「あっ……。いや、その……。別に違うの。ただ目の前にあるからつい……」
なんか不覚だ。こんな風に脚を虎視眈々と見つめたら変態のセㇷ゚チㇱレㇺと同類ではないか!
「そのわりには結構エロそうな目で眺めているけど」
「そ、そんなことない!」
エロい目だなんて……どんな目だと言うの? ないはずだよね? 今のはどうせセㇷ゚チㇱレㇺの冗談だと思う。
「あたしの脚、触ってもいいわよ。ほら」
そう言ってセㇷ゚チㇱレㇺは脚を上げて見せびらかそうとした。
「要らない! てか危ないだろう!」
確かに魅力的な脚だと認めなくもないけど、それよりいきなりこんな巨大な脚が目の前まで浮いてきてこんな体勢だと蹴り飛ばされそうだから危機感を感じかねない。
「あ、ごめん。もしかしてミオリコ怖い?」
「うっ……」
本当に怖かった。だけどセㇷ゚チㇱレㇺのことが怖いだなんてさすがに口に出すのは抵抗感がある。きっと馬鹿にされる。
「怖がらせるお詫びとして、もうあたしはこの脚を動かさないから存分に嗅いだり抱きついたりしていいわよ」
「変態な自分と一緒にするな!」
そんなことをする意味はわからない。
「ならせめてあたしの脚を蹴ったり叩いたりしても」
「今のサイズでどうせセㇷ゚チㇱレㇺは何も感じないだろう!」
悔しいけどこんな小さくなった今の私はセㇷ゚チㇱレㇺの片脚にダメージを与えられる気はしない。
「そんなことない。何でもいいからあたしの脚を攻め込んできて……」
「しないってば! てか、これは最早お詫びなんかではなく、ただ自分の欲望だよね!?」
「そんなこと……あるけど。えへへ」
「もう……」
呆れた……。でもそんなセㇷ゚チㇱレㇺの態度のおかげでこんなサイズ差でも恐怖感を意識せずにいられているかも。
「あっ!」
セㇷ゚チㇱレㇺの戯れに夢中している間に、いきなり上の方から私と同じくらいサイズの円盤が降ってきた。
「これは……まさか500円玉!?」
この500円玉を挟んでいるのは巨大な2本の指。言うまでもないが、これの指の持ち主は牧星菜ちゃんだった。彼女は今とんでもなく巨大に見えて体全体を見ることはできず、その細くて可愛らしい指だけでも私の視界のほとんどを占めているけど。
「よし!」
その指によって500円玉は立てられた。
「ほー。500円玉より澪梨子お姉ちゃんの方がまだ大きいね」
立てられた500円玉は私の胸くらいの高さだった。勝ったな……って、勝ってどうするのよ!? 今私は500円玉と比べられているの? これって私なんか500円くらいしか価値がないほどちっぽけな存在だと言われるようなことになっていない? そんなのあんまりだよ。牧星菜ちゃん! なんちゃって。牧星菜ちゃんはそんなつもりあるわけないよね。
「こんなもの!」
ちょっと八つ当たり気分で私は500円玉を蹴った。
「きゃっ!」
蹴られた500円玉はこっちに倒れてきて……。
「重い……!」
私と同じくらいの大きさだけど金属だから当然私よりずっと重いだろう。このままではまずい。500円玉の所為で苦戦するなんて惨めすぎるだろう。自業自得だけど。
「澪梨子お姉ちゃん!」
もうすぐ倒れて500円玉の下敷きになったところを牧星菜ちゃんに救われた。私にとってすごく重い500円玉も、牧星菜ちゃんの巨大な指で操作もなく持ち上げられた。また力の差を実感した。
「大丈夫なの?」
「うん、助かったよ。ありがとう。牧星菜ちゃん」
「よかった……」
私の答えを聞いて牧星菜ちゃんは安堵した。
「そういえば牧星菜ちゃん、私の声が聞こえているの? こんなサイズなのに」
今の私は小さすぎて、私の声なんて牧星菜ちゃんの耳に届くはずがないとは思っているのだけど、なぜか今普通に会話ができるように見える。
「大丈夫なの。魔法で澪梨子お姉ちゃんの声を拡大させているの。だから特に叫ぶ必要もないの」
「すごい……。やっぱり魔法って便利だね……」
「えへん」
逆に牧星菜ちゃんの声はさっきより大きく聞こえるけど、彼女なりに今もすでに配慮して小さめな声にしているようだから耳を苦しめるほど音量ではない。
「ボクの声も? 聞こえてるかな?」
「うん、ロㇰペㇾタㇻちゃんの声も拡大させているの」
更に感心する。ロㇰペㇾタㇻは私より更に10分の1で、人間サイズの牧星菜ちゃんから見れば500分の1サイズ……つまり身長は3ミリしかないのに。
とりあえず話が通じないという心配はなさそうでよかった。
「うん、だからもっともっと小さくなっても問題ないの」
「そうだよね。あっ……」
その時私の体はまた光り始めた。
「またかよ!?」
この流れでやっぱりこういう展開か……。