15 ˥˦˧˨˩ 20分の2
「お疲れ様だぞ。ミオリコ」
私が牧星菜ちゃんの右肩に辿り着いたらそこで立って待っている小さなロㇰペㇾタㇻが声をかけてきた。
「ロㇰペㇾタㇻ? なんでここに? セㇷ゚チㇱレㇺと一緒ではないの?」
さっきまでロㇰペㇾタㇻはセㇷ゚チㇱレㇺの体に乗っていたのに、今セㇷ゚チㇱレㇺはどこに……? あ、あっちだ。いつの間にかセㇷ゚チㇱレㇺは牧星菜ちゃんの右肩から左肩に移った。まあ、そもそも牧星菜ちゃんの小さな肩はコㇿポックㇽ一人乗せるのは精いっぱいのようだから、もしセㇷ゚チㇱレㇺがあっちに移動していなければ私はここに乗れる余裕がないだろう。しかしなぜロㇰペㇾタㇻを置いて一人で行ったの?
「ボクはやっぱりミオリコと一緒にいたいぞ」
「そう? でも危ないでしょう。今のロㇰペㇾタㇻはちっちゃいから、私かセㇷ゚チㇱレㇺの体に乗らないと」
そう言ってロㇰペㇾタㇻを拾って自分の襟に入れた。
「ミオリコは過保護だな。でもやっぱりここは一番落ち着くぞ。ボクはセㇷ゚チㇱレㇺのここよりミオリコのここがいいぞ」
「本当?」
なんか嬉しいかも。やっぱりロㇰペㇾタㇻって私の体にくっつくことが好きだな。
「さ、ミオリコ、次は床に降りてみよう」
「え?」
セㇷ゚チㇱレㇺはそう言って牧星菜ちゃんの着物の布を掴みながら肩の上から下の方へ降りていって、数秒後床に足が付いた。
いつもコㇿポックㇽたちが自分の体から降りるところを見ていたけど、同じサイズの視点で見るとやっぱり感覚は違うね。人間の体は大きな木や崖っ縁のように見えてしまう。
「ほら、ミオリコも」
「まじかよ……」
私はまた床を見下ろした。やっぱり高くて怖い。落ちたらただでは済まなさそうって感じだ。
「ミオリコ、頑張って!」
下でセㇷ゚チㇱレㇺがこっちを見上げて応援している。
「わかったよ。やってみようではないか」
今更弱音を吐くわけにはいかない。ただの小学生の体の高さでビビるなんて情けなさすぎるでしょう。
「うっ……」
セㇷ゚チㇱレㇺがやっていたのと同じように、私は牧星菜ちゃんの着物の布を掴みながら体を降ろしていく。けど、意外と難しくて上手くいかない。セㇷ゚チㇱレㇺの時はあんなに簡単そうに見えるのに。
とりあえず、ちょっと遅いけどちゃんと下へ向かっていく。もう牧星菜ちゃんのお腹くらいかな? 着物の下だからはっきり言えないけどこの辺りに臍があるはず。
「あっ! 何をするの、牧星菜ちゃん?」
牧星菜ちゃんの巨大な指は私の背中を撫でている。
「必死に牧星菜の体にくっついている澪梨子お姉ちゃんは可愛すぎてつい……」
「もう……。こっちはそれどころではないのに」
私は牧星菜ちゃんを見上げながら文句を言った。
「そこまで大変なの?」
「それは……。まあ」
牧星菜ちゃんはなんで私がそこまで必死か理解できないみたいな顔だな。それは無理はないか。私だってコㇿポックㇽが自分の体を登っている時にただ見て可愛いなと思っただけであまりそれが大変なことだとは思ったことなかった。それにコㇿポックㇽたちは普段から慣れているからさっきのセㇷ゚チㇱレㇺみたいに大変さを感じないだろう。だけど今の私は違う。
牧星菜ちゃんにもこの大変さをわからせるために、後で逆に牧星菜ちゃんが縮んで私の体を登ってみてもらってもいいかもね?
「よし、もう少し」
どれくらい時間かかったかわからないけど、ようやく床はもう近い。でも牧星菜ちゃんの着物はもうここまでだ。この先より下は素肌だから掴むのは無理ね。こうなると私は自分の身長くらいの高さを飛び降りなければならない。別にあり得ない高さではないし、さっきセㇷ゚チㇱレㇺも簡単に飛び降りたから大丈夫だと思うけど、私には経験がないからやっぱり着地を間違えたらどうなるかと心配してしまう。
真下には私の身長より長い足だ。子供らしく可愛らしい足のはずだけど、このサイズだとちょっと……。
足は手のひらより硬いだろうけど、部屋の床よりも柔らかそうだから、降りるなら床より足の方がいいのね。牧星菜ちゃんの足を踏むということになるけど。
よし、行くぞ。
「うわっ!」
私は飛び降りてちゃんと牧星菜ちゃんの足に着地しようとしたけど、足は平面ではなく斜めでしかも意外とすべすべだから私の足が付いた途端転んでしまった。
「うっ……」
転んだ私は牧星菜ちゃんの足をべったり抱きついているという体勢になってしまった。今なんかカッコ悪いかも。小学生の足にくっつくなんて、私って変な性癖を持つ変態かよ? もちろんわざとではないけど。
「あら、ミオリコもやっと足フェチに目覚めたかしら?」
そんな私を見てセㇷ゚チㇱレㇺは嬉しそうにツッコミを入れてきた。
「ち、違う! 今のは事故で。一緒にしないで!」
あんなフェチはそっちの方だろうが。私は別にそんな趣味はない。本当だよ。
「マキセナの足に気持ちよさそうにくっついている今のミオリコの姿はあまり説得力ないけど?」
「べ、べつにそんなこと……」
私はすぐ牧星菜ちゃんの足から降りて座り込んだ。
とにかく小学生の足で気持ちいいとかそんなこと絶対にないんだからね!
「もう、疲れた……」
散々だったけど、とにかく私は『牧星菜ちゃんの肩』という崖っ縁からやっと降りられてきて、また試練クリアして達成感がある。
「お疲れ様。よくやったわ」
さっきからずっと床で待っていたセㇷ゚チㇱレㇺは私の頭を撫でながら褒めてくれた。なんか子供扱いされているようだけど、意外と嫌ではない。こうやって見ると実際にセㇷ゚チㇱレㇺは頼れそうなお姉さんって感じだから。ちょっと変態なところを除けばね。
「では、次は登ってマキセナの肩まで戻ろう」
「えっ!?」
こんなに苦労して降りてきたのに、今回登らなければならないの? 降りるより登る方が大変そうだし。
「ミオリコのそんな嫌そうな顔はわかりやすいのね。うふふ。冗談よ。この辺にしておこう」
「もう……」
よかった。これ以上体が持たないかも。そもそも今日運動するつもりはなかったけど、いつの間にか冒険みたいなことになっちゃった。自分の部屋の中なのに。
「ね、やっぱり体が小さいと本当にいろいろ大変だな」
「まあね」
今はコㇿポックㇽの苦労を実感できた気がする。同時に自分がコㇿポックㇽではなく人間であることは嬉しく思ってしまった。
「澪梨子お姉ちゃん、どうなの? 今楽しかった?」
相変わらず巨大な牧星菜ちゃんはしゃがんで訊いてきた。さっきまで私はこの子の巨体を登ってきたのね。
「そうね。確かにいろいろ大変だったけど、やっぱり楽しかったよ」
私は立ち上がって元気を見せながら返事をした。
「それはよかったの」
牧星菜ちゃんは嬉しそう。私も楽しかったね。何より彼女のおかげでコㇿポックㇽになったみたいな体験ができたし。
でも私は所詮ただの人間だ。ずっとこのサイズのままだとやっぱり疲れすぎるからそろそろ元のサイズに戻してもらおうかな、と思ったけど……。
「でもまだこれで終わりではないの」
牧星菜ちゃんは微笑みながら言った。
「え?」
「では……」
そして私の体はまた光り始めた。
まさか……。また嫌な予感だ。




