14 ˥˦˧˨˩ 10分の1
「どうしたの、澪梨子お姉ちゃん? もしかして牧星菜の手に乗りたくないの?」
牧星菜ちゃんは今しゃがんで右手のひらを仰向けに開いて私が乗るのを待っているけど、私はこの巨大な手を見てつい戸惑ってしまっている。だってなんか怖いから。自分を簡単に押し潰せそうな大きい手を。それに手相や血管が意外とくっきり見えるのもなんかおっかなく感じてしまった。これがいつも小さくて可愛い牧星菜ちゃんの手だとわかっているはずなのに。
「いや、その……。どう乗ればいいかわからなくて……」
怖いという理由ももちろんあるけど、それより更なる問題は実際に乗り方に自信がないから。当然だけど、人間の手に乗る経験なんてあるはずがない。
今私の足元の近くに牧星菜ちゃんの右腕の指4本が置いてあるけど、どの指に足を踏めばいいの? どれもすべすべで柔らかそうで踏み台として不安定になりそうで簡単に転んでしまうかも。と、そんなことも心配している。
いつもコㇿポックㇽたちが簡単に自分の手のひらに乗るところを見ていたけど、いざ自分が乗る側になると意外と考察することがあって難しいものだ。
「ではあたしが手本を見せてあげるわ。こうやって」
セㇷ゚チㇱレㇺはそう言ってすぐ牧星菜ちゃんの手のひらを踏んで上に乗った。彼女に取って人の手のひらに乗ることは日常的で朝飯前だろうね。
「さ、来て。不安ならあたしの手を握ってもいいわ」
そう言いながらセㇷ゚チㇱレㇺはこっちに手を伸ばした。
「うん、ありがとう」
セㇷ゚チㇱレㇺの手伝いでようやく私も牧星菜ちゃんの手のひらに乗ることができた。
「わ……やっぱり立ちにくい」
牧星菜ちゃんの手は柔らかすぎて踏んだら凹みが起きて不安定だ。セㇷ゚チㇱレㇺの支えがなければ私は転んでいるかも。
「大丈夫、あたしが付いているから」
「うん」
セㇷ゚チㇱレㇺも一緒に乗っていて私と手を繋いでいるから心強い。なんか本当に頼れそうなお姉さんだ。
でもなんか近すぎない? それは仕方ないか。この手のひらは10分の1サイズの小人が乗るにはちょうどくらいのサイズだから。乗れなくはないが、あまり余裕がない。お互いの顔の距離は今私の感覚では20センチくらい。(実際は2センチしかないだろうね)
私はセㇷ゚チㇱレㇺとロㇰペㇾタㇻを同時に手のひらに乗せたことがあるけど、その時彼女たちもこんな風にお互い寄せ合っていたらしい。
「では早速手を上げるの」
「わ……!」
牧星菜ちゃんがそう言ったら、私たちの乗っている手のひらはどんどん浮いていく。牧星菜ちゃんにとってただの『手を上げる』という行動だけど、私にとってエレベーターみたいに……かと思ったら多分そんな程度のものではない。だって早すぎるから。
たった1秒くらいで私の身長の何倍くらいの高さに上がった。こんな早いエレベーターは私が乗ったことない。
気がついたら動きすでに止まって安堵したが、下の方へ視線を向けたら……。
「高い……」
今私は牧星菜ちゃんの胸くらいの高さにいた。なんか高くて数階ビルにいるみたいな感覚だ。さっき4分の1サイズの時より更に地面からの距離を感じる。
「やっぱり怖いのね?」
「そ、それは……」
怖いだなんて素直に答えることはできないけど、どうせセㇷ゚チㇱレㇺにはバレバレだろうね。
「慣れたら意外と平気なはずよ」
「それはそうかもしれないけど」
私もいつもセㇷ゚チㇱレㇺとロㇰペㇾタㇻを手のひらに乗せたり持ち歩いたりしていたけど、彼女たちは困ったような様子はまったく見たことない。
「さ、マキセナの肩に乗ろう」
「ちょ……」
そう言ってセㇷ゚チㇱレㇺは私から離れて、牧星菜ちゃんの腕の上を歩いて登って一瞬で肩に辿り着いた。
「ミオリコも早く来て」
「はい?」
今の動きはセㇷ゚チㇱレㇺにとって簡単そうに見えるかもしれないけど、私にとってはやっぱり無理がある。
牧星菜ちゃんの細い腕を歩くなんて……。確かに今の私にとって牧星菜ちゃんの腕は自分の肩幅より広くて、着ている着物も摩擦力ありそうだけど、それでも吊り橋みたいな感じで不安定だ。
「澪梨子お姉ちゃん、牧星菜の肩に乗りたくないの?」
「え? そんなこと……ないけど……。わかった。頑張ってみる」
今牧星菜ちゃんの肩に乗ってその柔らかくて綺麗な銀髪に包まれて気持ちよさそうになっているセㇷ゚チㇱレㇺを見ながら私はそう答えた。私だってあんな風になってみたい! そのふわふわ感を目標として頑張ってみよう。
そう思って私も動き始めた。とはいうものの、さすがにただ両足で歩くほどの勇気がなくて、結局牧星菜ちゃんの袖の布を掴みながら這い蹲るという形で進んでいく。
肘の辺りに着いたら次は二の腕を登ることになる。高さは今の私の身長より少し高いくらいでそこまで難しくなくてよかった。
「着いたよ!」
やっと牧星菜ちゃんの肩に乗ることを成功した私はすぐ彼女のつやつやした銀髪の毛にしがみ付いてその柔らかさを堪能して癒やされた。やればできるじゃないか、私。なんかちょっと達成感があるかも。
とは言ってもセㇷ゚チㇱレㇺより何倍も時間を費やしたからあまり自慢できないよね。
いつも人の体のあっちこっちを簡単に登っているコㇿポックㇽたちには感服してしまったよ。




