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第80話 夢の途中




 カイルを残し、意気揚々と女性風呂の様子を見に行く。


 【ゆ】ののれんをくぐり、扉を開けた先に最初に見えるは脱衣所だ。


 ここでは、マリーが案内係を担当してくれている。


「衣類はこのカゴに入れて下さい。あ、石鹸はこちらの5種類からお一つ選んでくださ〜い」


 当初開発時、石鹸は3種類だった。一番人気のバラの香り、スタンダードなシャボンの香り、そしてミント。


 だが、今回大浴場の開放にあわせ、新たに2種類の石鹸をリリースした。


 バニラビーンズを練り込んだバニラの香りと、イチゴを練り込んだベリーの香り。


 どちらも前世では定番の香りだけど、この世界でもうけるだろうか?みんなの反応が楽しみだ。






 扉を開けて、お風呂の中に入ると、もうそこにはたくさんの人が。


「この雨、温かくて気持ちいいなぁ〜」

「見て、この石鹸からフワフワの泡ができたわ!しかも噂通りいい匂いがする!」



 みな口々に感想を述べているが、良い評価ばかり。ただ、もしこれが有料であったり、このお風呂に入るために、遠くの街から馬車を飛ばしてきたとかなら、「混みすぎ!お風呂に入るまで時間がかかる」とかのクレームがあったかもしれない。


 今後、観光客向けの入浴施設を作ることがあれば、もっとブラッシュアップする必要があるはず。







 まぁ今後の事は、頭の片隅に留めておいて、改めて中を見渡してみる。


 お風呂は、いくつかの種類を準備したが、一番人気は花風呂のようだ。


 案内係のカリンが、花風呂に花を浮かべると、他の風呂を楽しんでいた人も、なんだなんだと花風呂に集まってきてしまった。


 これは次回からは、一番大きなお風呂を花風呂にしてもいいかもしれない。



 そういえば、男性風呂には花風呂がないんだけど、何が一番人気だったんだろう?後で、男性風呂の案内係をしてくれたガッツとジャンに聞いてみよう。






 充分に温まった人から、脱衣所に戻っていくようだ。


 お風呂上がりは、受付で渡した、キヌさんお手製のタオルで髪と身体を拭いてもらう。


 家族風呂を利用した人から、床がびしょびしょだとの意見を貰ったので、今回は木のスノコを敷いてみた。身体を拭かずに脱衣所をウロウロするとか、よほどの事がない限り、床がびしょびしょでツルツル滑って危ないとかはないと思う。



 今回から導入したものでいうと、脱衣所の奥の、お風呂上がりの休憩スペースもそうだ。


 ここは、前世で行った施設を真似して、

 髪をとく木櫛

 ウォーターサーバー代わりのウォーターの魔道具

 ドライヤー代わりのウォームウィンドの魔道具

 を準備している。


 鏡があればもっと良かったんだけど、これらだって充分目新しい設備だから、満足してもらえるだろう。ただ鏡の製作は今後の課題だね。



 おっと、長居しすぎてしまった。カイルが待っているだろうし、そろそろ外に出ようかな。


「おまたせカイル」


「レオナ様、良かった。中はいかがでしたか?」


「うん!とっても好評だったよ」


「そのようですね」


 カイルがふんわり微笑みながら目配せをする。視線の先に顔を向けると、お風呂上がりであろう、顔が赤く上気した少女たち。


「お風呂、きっもち良かった〜!」

「ね!毎日入りたいよね!」


 なるほど。カイルはここでみんなの感想を耳にしていたんだね。


 一度に意識すると、今度は注意を向けなくても声が聞こえてくる。


「お母さん、花風呂で肌ツルツルになっちゃった」

「ほんとだ。良い匂い〜」


「俺初めて櫛使ったんだけど、なんか髪がいい感じになったんだよな」

「俺なんか、薬草風呂でなんか最近ヘマした時の傷が治ったんだよ!」

「アレいいよな!だが通の楽しみ方はこうだ。まず熱い風呂に入る。んで、限界っと思ったら水風呂に飛び込む!さっぱりしたらまた熱い風呂に入る。これだ。これがクセになるんだまた」



 前世のアイデアを丸パクリしただけかもしれないが、それでも自分が設計した施設が好評なのは嬉しい。思わずニマニマした自分に気づき、またキュッと顔を引き締めた。



 それはさておき、どうやらお風呂を上がった人達が増えてきたみたいだ。


「カイル、そろそろ」


「僕の出番ですね」


 カイルの言葉にこっくりと頷く。




 

◆◇◆◇◆





「お風呂上がりに冷たいものはいかがですか?本日は、イチゴソースがけかき氷をご準備しています」 


 レオナとカイルが、声を上げながら休憩スペースに移動すると、冷たいものを求めて、ぞろぞろと集団が移動する。


 以前検討していた、営業初日だけの特別な出し物は、かき氷にすることにした。水魔法が使えるレオナと氷魔法が使えるカイルが手を合わせれば、手軽に作れるからだ。それに、冷たいかき氷は、お風呂上がりで火照った身体にはピッタリだろう。



 程よく形を残したイチゴを、おわんに乗せ、その上にカイルが氷削り機を使って削った氷をかぶせていく。


 さらにそのかき氷に、あらかじめカリンに作ってもらっていたイチゴシロップをかければ、もう完成だ。



「はいどうぞ。冷たくて美味しいよ」

 

 お盆に乗せて手を差し出すと、好奇心旺盛なちびっ子達から手に取っていく。


「冷たっ」

「この赤い液体は何?甘くて美味しい!」

「イチゴだよ。甘くて美味しいでしょ?」



 ちびっ子達の反応をみて、大人達も我先にと手を伸ばす。急に食べたせいで、【頭キーン】で悶絶している人も居るみたいだけど。


 その様子をクスクスと笑って見ていたら、気づけば目の前に行列が。


 それに気づいたカイルが、フルスロットルで氷を作って削っていく。レオナもそれに合わせて、イチゴとシロップをトッピングしていく。流れるような単純作業に、まるでライン工にでもなった気分だ。




「レオナ様、氷削り機の調子はいかがですか?」

「イチゴシロップはどうでしょう?」


 するとそこに、交代の時間なのか、氷削り機とイチゴシロップを作った、ガッツとカリンが様子を見に来た。


「ガッツ、貴方の作るものはいつだって完璧よ。カリンのシロップも予想通り大好評!」


「そうでしたか。安心しました。でもカイルが居ないと作れないのが惜しいですね」


「う〜ん、どうだろう?お母様にお願いして、アイスロックの魔道具を作ってみたらいつでも作れるんじゃない?」


「それは良案ですね!」


 言うが早いか、ガッツは足早にどこかに走って行ってしまった。早速お母様の所にお願いに行くのかな?


 一方カリンは、ここに残ってかき氷作りを手伝ってくれるらしい。


 日頃から料理をしていて、手が早いカリンが手伝ってくれるなら心強い。なんて思っていたら、カリンの手際の良さのおかげで、みるみる列が短くなった。さすがです。


 せっかくなので、この隙に順番に休憩を取ることに。


 最初の休憩はレオナから。


 自分が作ったかき氷を食べながら、ゆっくり館内を眺めていると、不意に誰かに呼び止められた。



 振り返ると、お風呂上がりのマリーとエリスだった。


「マリーにエリス!今日は手伝ってくれてありがとう!おかげで大繁盛よ!」


「そうみたいですね!私は受付に居たんですけど、引っ切り無しにお客様が来られましたよ。この調子だと、住民の半分は今日来るんじゃないですか?」


 半分!?でもそう感じるくらい、受付のエリスは忙しかったんだろうな。さっきもお礼を言ったけど、心の中でもエリスやみんなに感謝する。本当にありがとう。




「レ゛オ゛ナ゛さま!!」


 ビクっ

 耳元で大きな鼻声。


「え゛!?マリー、ちょっと大丈夫!?」


 声の主はまさかのマリー。


「レオナさま!マリーは嬉しいです!こんなに素晴らしい施設を立ち上げられるなんて・・・。本当、すっかりご立派になられて、マリーは、マリーは······!!!(泣)」


 マリーさんご乱心。侍女をしている時は、優しくてしっかりしているイメージだったから、正直ちょっと驚いた。


「ふふふっ。マリーさんったら、さっきからずっとこんな感じなんですよ。よっぽどレオナ様のご活躍に感動されたのでしょうね」


「マリー······」


 レオナが小さい頃から、世話をしてくれていたマリー。身体が動かなかったシャロンお母様の分も、たくさん可愛がってもらった。


 今日も忙しい中手伝いに来てくれて・・・。感謝しかない。


「う゛う゛〜」





 どうしても涙が止まらないマリーを連れて、エリスが袖に捌けていった。


 そんな二人と入れ替えに、シャロンお母様とアーサーお兄様、そしてテオが様子を見に来てくれた。


「レオナ、今日は大成功おめでとう」


「ありがとうございます、お母様」


「レオナおめでとう。やっと長年の夢が叶ったな。それにしてもかき氷か、よく考えたな。でも普通、謝肉祭とかやるんじゃないのか?」


 確かに。お兄様が言う通り、こういう時はお肉やお酒でパーっと派手にやりたいものだよね。でも、まだまだ家畜も少なくて、お酒作りに手が回っていない今のグライスナー領では、難易度が高かったのだ。まぁいずれは手を出す予定だけどね。だって、温泉宿で夕飯に飲むお酒って最高じゃない?



「まぁ、アーサーったら。これでいいのよ。これがグライスナー領の良いところなんだがら」


「それもそうか」




「そういえば先ほどガッツと、ロックアイスの魔道具を作れば、いつでもかき氷が食べられるねと話していたんですが、お母様お願いできますか?」


 かき氷が気に入ったらしいガッツのために、予め話を通しておく。


「もちろんよ、新しい魔道具、楽しみだわ」


「それは新しいな!その方法なら、グライスナー領に留まらず、トムに行商先で販売させたりもできるぞ······いやいっそ、州都にかき氷屋を出店してもいいかもしれない」


 思いの外、アーサーお兄様の食付きがいい。さすがは元商人。商魂たくましく、新たな財源確保の方法を考えついたみたい。


 前世でも、お祭りの時とかは必ず1つはかき氷の屋台があったし、やり方は追々詰める必要があるけど、かき氷屋っていうのはアリかもしれない。





 お母様とお兄様が、かき氷に夢を膨らませている間、テオがこっそりレオナの下にやってきた。


「レオナ様、念願の大浴場完成、おめでとうございます。やっとゆっくりできますね」


「ゆっくりなんて何の冗談?次は、国一番の温泉観光地を目指すんだから。まだまだこれからよ!」


「え〜!?」


 テオの悲鳴に、集まっていたみんなもこちらに目を向ける。


「そういうことだから、みんなこれからも、休む暇なんてない程、忙しくなるわよ」



 レオナが意気込んで宣言すると、ざわざわしていた空気がシンとなる。


 あれ?





「ははは」

「それでこそレオナ様だ!期待してるぜ!」

「うんうん。これからも楽しみね!」


 一瞬の沈黙の後、ドガッと笑いが起こった。


 あれ?私何かやっちゃったかな?


 考えても思い当たる節がない。


 ま、いっか。みんなが楽しいなら。


 


 釣られてレオナもニコリと笑う。笑いが伝染し、館内が暖かい微笑みに包まれていた。




◆◇◆◇◆





 私は砂漠に生まれた待望の水属性魔導士だった。


 過酷な環境ではあったけれど、前世の癒やしだったお風呂をもう一度楽しみたくて。水魔法や前世の知識を活用しながら、領地の水問題を解決する傍ら、入浴剤を作ったり、石鹸を作ったり、バスタオルを作ったりと、何かと奔走してきた。

 

 でも、それだけでは終わらない。 


 これからだって、観光客向けの温泉宿を作ったり、お土産開発したり。まだまだやることがいっぱいよ。


「あ、こんな魔法があれば、あれが作れるかも。いや、こういう魔法もいいかも」


 そのためには、もっと魔法の練習や開発が必要みたい。


 だから。


 これからも、

 スキルボードはサブスキルで埋め尽くす。


【完】



第1章、最後までお読みいただきありがとうございました!


処女作でもあり、拙い部分も多々あった本作品がひと区切りついたのは、ひとえに応援してくださる皆さんのおかげです。

(評価、ブックマークはもちろん、感想、いいね、の全てがモチベーションでした)

本当に感謝です(TT)


さて、今後についてですが、後程活動報告に書きますが、今のところ第2章も執筆予定です。故に、本作品が『面白かった』『続きが読みたい』と少しでも思っていただけましたら、下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いできますと執筆の励みになります!


また、まだの方は、是非ともブックマークもしていただけると嬉しいです。


水瀬潮

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