第78話 新スキル創造 side:テオ
生まれてこの方、腕っぷしの強さだけが取り柄だった。
剣術スキルを得てからも、それは変わらず、俺の戦い方は、基本は力でゴリ押し、スキルは奇襲に使う程度。
そんな俺は、バカの一つ覚えのように、毎日のように剣の鍛錬ばかりに明け暮れた。
だが、ここ最近は____
魔術訓練室に通い詰め、風魔法の練習をしている。
とんだ方向転換だが、言わずもがな、雇い主であるレオナ様のご指示だ。
何でも、レオナ様の肝入の公共事業、大浴場を開くには、俺の風魔法を使った魔道具が必須なんだとか。だが、たいして風魔法の練習をしてこなかった俺では、まだまだ風魔法のレベルが足りないらしく、「テオさん、ちょっと風魔法練習してみない?」と可愛らしくお願いされたものだから、お役に立てる良い機会だと思い、頑張ってみることにしたのだ。
「ウィンドカッター」
右手から放った風は、比較的大きな的の右端を僅かにかすった。
「なかなか難しいな」
頑張ってみようと想ったものの、思い描いた場所に魔法を飛ばすのは、想像以上に難しい。しかも、動かない的に対して、打ってこれなのだ。戦闘中に敵に当てるのは、それこそまぐれ当たりじゃないと無理だろう。
やっぱり、俺、風魔法の才能ないな。
「ウィンドカッター」
「ウィンドカッター」
「ウィンドカッター」
何だかんだ真面目な俺は、めげずに練習を続けたが、的には一向に当たらない。
やはり俺は、魔法より剣が合っている。レオナ様曰く、魔力量もそれほど多い訳では無いようだし。
「はぁ」
慣れない魔法と、上手くいかないもどかしさで、思った以上に疲労が溜まっていたようだ。ため息とともに、その場にしゃがみ込む。
ふと、部屋の隅にあった棒きれが目に入った。
(少しくらい、気分転換してもいいよな)
それを手に取り、少し振り回して強度を確認。ブンブン。びくともしないし、これなら折れないだろう。
「ハァー!回転斬り!」
気持ちいい!
久しぶりに剣術スキルを使ったけど、やっぱり爽快だ!
次はスラッシュのスキルを打とうか?そう思い構えたその瞬間、訓練室のドアがギィーっと開く。
誰か来た!まさか、レオナ様か?
「すみません、つい!」
慌てて謝ったが、中に入ってきたのは、剣士仲間のカイルだった。
「なんだカイルか」
「なんだって失礼な······。それはそうと、珍しいですね、こっちにいるの」
「レオナ様のお願いでちょっとな」
俺が魔法の訓練をしていたのがよっぽど意外だという表情で尋ねたカイルにそう答えると、彼は少しムッとした。
レオナ様と話すたびに、頬が赤く染まるコイツ。俺はてっきりレオナ様の事を好いているのだと思っていたが、問い詰めたところ、恋愛的な意味ではなく、あくまで親愛の情なんだとか。レオナ様のおかげで、父親であるガッツの収入が増え、生活が楽になったらしく、大げさだが、命の恩人?に近い感情らしい。
「ウィンドカッター」
そんなカイルは放っておいて、引き続き風魔法に取り組むが、やはり的には当たらない。
「テオさん、魔法を放つ瞬間に、腕をブンブン振り回し過ぎです。それじゃ軌道がそれて、どこか変なとこに飛んじゃいます。味方にあたったりなんかしたら·····。とにかく、腕は構えてから、魔法を放つまで固定しておいてください。こんな風に、「アイスバレット」」
カイルの魔法は、俺が何度やっても当てられなかった的の、ど真ん中に刺さった。
「凄いな」
「そうでもないですよ。僕はテオさんみたいに、剣の腕前が飛び抜けているわけではないので、氷魔法も剣術と同じくらい練習してるんです。それだけです」
「でも、世にも珍しい氷魔法だろ?ズルいよなぁ〜。俺の当たらない風魔法なんて、戦闘じゃ使えないだろ?」
「いやだから、当たるように練習しましょうよ。それに、風魔法だって充分強力です。砂を巻き上げて、目眩まししながら接近したり、身体にまとって移動スピードを上げたりとか出来るし。むしろ風魔法が、一番汎用性が高くて戦闘向きだと僕は思いますけど」
カイルの口からポンと出たアイデアは、俺からしたら目から鱗だった。
そうか、風魔法も使い方次第では戦いに生かせるのか。それなら、もう少し向き合っても損は無いのかもしれない。
◆◇◆◇◆
「テオいる〜?」
再びギィーと音を立てて開いたドアから現れたのは、今度こそレオナ様だった。
「あ、カイルも訓練中だったのね。お邪魔します」
レオナ様の登場で、急に無口になるカイルだが、今日という今日は、俺も身体が強張った。
「早速だけど、練習の成果を見せてよ」
キタ。そう言われると思った。だけど、今日はまだ一度も的に当たって無いんだよな。ここで的を外して、護衛としての力量に疑問を持たれたらどうしよう。でもこれは命令だ。やるしかない。
「いきますよ、ウィンドカッター」
覚悟を決め、放つ。
バンッ
「スゴイスゴイ!真ん中に大当たりだ!」
当たった。
カイルの真似をしたら、一発で的の中心に当たった。その場にへたり込みそうなのを何とか堪え、これくらい当然だという顔をしてみる。
「ここ数日で、この練度とは。流石ね。少し早いけど、テオのこの実力なら大丈夫かな。ねぇカイル、この桶の水を、魔法で凍らせてくれないかな?」
「お安い御用です。アイスロック」
カイルが魔法を展開すると、水が氷に変わる。
その様子に満足そうなレオナ様。だったのだが、どこから持ってきたのか、いつの間にか手にしていた木の板を、氷に向かって上下にあおぐ。
するとレオナ様が起こした風が、向いにいた俺の顔に当たる。氷を通過したせいか、ひんやり冷たくて気持ちいい。
「どう?冷たい風が来たでしょう?」
「はい、そうですね。ひんやり気持ちいいです」
「この冷たい風を、風魔法で出せるようにして欲しいの」
「は?そんなことが、出来るのですか?」
「出来ると思うよ。私だって、魔力水っていう新種のスキルを習得出来たんだし。テオだって新しいスキルを創造できるはず!」
レオナ様はともかく、俺が新しい魔法の創造なんて出来るのだろうか?
そんな疑問が頭をもたげるが、結局【コールドウィンド】とレオナ様が名付けた魔法の習得を目指すことになった。だが。
「魔力が尽きてしまったようです」
つい先ほどまで、鍛錬していた俺の魔力は、すぐにスッカラカンになってしまった。
「大丈夫大丈夫。そのために私が来たんだから」
レオナ様が胸を張る。そして、得意げにポーチから赤い液体を取り出した。
「それは?」
「ジャジャーン!魔力回復ポーションだよ」
その瞬間、レオナ様の思考が読み取れて、これから始まる終わらない特訓を前に、眼の前が真っ暗になった。
◆◇◆◇◆
結局、俺はレオナ様お目当てのスキルを習得できるまで、ぶっ続けで風魔法を打ち続けた。
魔力ポーションだって、何本飲んだか分からない。
ただ、その甲斐あって、冷たい風を放つ【コールドウィンド】、温かい風を放つ【ウォームウィンド】のスキルを習得できた。
この魔法は、後日シャロン様の手で魔道具化され、大浴場に設置されるらしい。というか、レオナ様曰く、大浴場だけではなく、屋敷や余裕があれば各家庭にも配布したいと考えているくらいに、誰もが欲しがる魔道具だろうとのこと。
俺の風魔法に、そんな便利な使い道があるとは。今からみんなの反応が楽しみだ。
後日。
シャロン様が大量に製造してくださった、魔道具を大浴場に持ち込む道中、アーサー様に出くわす。
「よぉレオナ!なんだか順調みたいだな」
「えぇ。お陰様で絶好調です!」
「ふふっ、レオナが楽しそうで俺も嬉しいよ。」
この兄弟は、本当に仲が良い。思わずほっこりする。
と思っていたのに、去り際、アーサー様が爆弾を落とす。
「あ、そうだ忘れるところだった。レオナ、あの大浴場だが、初日は何人くらい来ると想定してる?」
「う〜んと、恐らく100人くらいでしょうか?」
「おいおい、甘いな。俺の予想は2,000人」
「え、住民の半数近くですか!?」
「当然だろう?この町には娯楽が少ないんだ。それくらいはあり得る。そのつもりで対策しておくように」
アーサー様が去っていった後も、レオナ様はウンウンと唸りながら悩んでいた。
「う〜ん」
「そんなに心配されなくても大丈夫ですよ。確かに同時に2,000人入るのは厳しいですが、タオルも石鹸も大量に準備していますし。それに、待合室だってありますから、順番に入浴いただければ問題ないでしょう」
「あ、じゃなくてね。その辺りは心配していないんだけど、住民の半数が集まるなんて、まるで何かのお祭りみたいじゃない?それなら、初日は特別な催しとかを準備したほうがいいのかなと思って」
「____みな温泉目当てで集まるのでしょうから、何もなくても充分だとは思いますが······。そうですね、お悩みなら、カイルに相談してみてはどうでしょう?氷魔法で何か出来ないかとボヤいてましたよ。」
「氷、氷、氷、氷かぁ。温泉、お祭り、そして氷········。そうだわ!アレを準備しましょう。そうと決まれば直ぐに行くわよ」
「カイルを探しに行くんですか?」
「先にガッツの工房に行くわ。作って欲しいものがあるの」
どうやら、また何か面白い事を思い付かれたらしい。
「はいはい。どこへでもお供しますよ」




