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私は待望の水属性魔導師〜領地復興のため、スキルボードはサブスキルで埋め尽くす〜  作者: 水瀬 潮
第1章 砂漠に生まれた水属性魔導士
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第63 話 赤髪のフォルテ①



「大変なことになりました」





 お母様の回復を報告するために州都を訪問していたアーサーお兄様は、帰宅するや否や、珍しく笑顔なくそう言った。


「どうしたアーサー。州都で何かあったか?話してみよ」


 さすがにお父様がフォローに入る。


 お兄様は、はぁと小さくため息を付いたが、すぐに気持ちを切り替えたように、「はい。報告すべきことが2つあります。良い話と悪い話、一つずつです」とハッキリと告げた。


「ふむ。では良い話から聞かせもらうことにしよう」


 神妙な面持ちのお父様。


 同じくレオナもキュッと引き締めた顔をしていたが、心の中では、(お父様はいい話から聞くタイプなんだ。私は嫌なことから済ませたいタイプだがら、悪い話から聞いちゃうなぁ。)などと、どうでもいいことを考えていた。


 ただの現実逃避である。





「はい。では良い話から。今回も、州都の教会を訪問し、魔法適性の確認を受けました。その結果、レオナの鑑定結果の通り、私が政治スキル、テオが風属性魔法を授かりました」


「ほほう、事前の鑑定結果通りだな。ではレオナの鑑定スキルは本物ということか。____となれば、シャロンのランクSSSのスキルも······」


「えぇ、恐らくランク《SSS魔法付与》も本当でしょう」


「この上なくいい話ではないか。して、悪い話とは?」



 我らがお父様、アレスは内心身構えた。


 レオナの鑑定スキルの力は本物、つまり妻シャロンは、この世で最も珍しい魔法付与のスキル持ち。これ以上ないという程に良い話を持ってきながら、これほど表情が悪いということは、これから話す悪い話とやらは、よっぽどアーサーにとって、そしてグライスナー領にとって悪い出来事なのだと想像できたからだ。



「はい。州長はやはり、レオナが鑑定スキル持ちであることを()()()()()ようです。母上が回復したことを報告しましたが、特に驚いた様子もなく、喜ばれていました。母上のあの病状は御存知でしたから、普通であれば多少なりとも驚くはずです。なのに、驚くどころか祝福した。どうやって治療したのか尋ねることもなく」



「そうか。普通であれば、祝福しつつも、どうやって不治の病を治療したのか、根掘り葉掘り聞くはずだもんな」



「不自然な点は他にもあります。なんとその場で、ある者の治療を依頼されてしまいました。州都出身の腕利きの騎士でしたが、ある日から戦闘不能状態となってしまった者だそうです。治療に成功した暁には、それ相応の報酬をいただけるようですが、これを機にレオナの治療の力が明るみになるのではと、心配しています」


「それは困ったな。私利私欲のために利用せんとする者が現れるかもしれん。ただ、上からの命令だ。断ることはできぬ。その騎士の治療をしつつ、レオナの特異な能力を周囲からなんとか隠す術はないのか」



「······」




 隣で話を聞いていたレオナは、恐怖で震えた。


 不治の病を治療したと広く知れ渡れば、例え高額であろうと治療してほしいという依頼が増えるだろう。結果、グライスナー領は潤う。そこまではいい。


 問題は、正規の治療費を支払うことを渋り、レオナを攫い、無理やり治療をさせようとする者が現れるかもしれないことだ。


 かといって、レオナが格安で治療を請け負えば、他の五万といる医療従事者の生活に影響が出るかもしれない。


 一体どうすれば······。









 そこに、お風呂あがりのお母様が、空気を読まず上機嫌で登場。


「あら、アーサーおかえりなさい。無事で何よりだわ」 


 お風呂を紹介して依頼、お母様はレオナに負けず劣らぬ、大のお風呂好きになってしまった。毎日のように、お風呂に入りたいとせがまれているくらいだ。


 実は、浴槽にお湯を貯めるには結構魔力を使うので、現状では毎日の入浴は流石にちょっと贅沢だ。だから、せめて週1で我慢してくれとお願いしている。



「ありがとうございます。母上もお元気そうで。そうそう、州長に母上の回復を報告してきました。大変喜ばれていましたよ」


「そうなのね!あの方には長く心配させてしまいましたからね。ご報告できて良かったわ。でも、喜んでもらえたにしては、今日のアーサーは随分と辛気臭い顔をしているわね。それに、クンクン。ちょっと匂うんじゃない?お風呂いただきなさいな」



 アーサーお兄様は、少し傷ついた顔をした。


 分かる。匂いについて言及されると割と傷つくよね。


 だからこそ、領内に無料で利用できる入浴施設を作れたらいいのだけど、水魔法を使える人材が増えないことには、まだまだ先の話。


 あ、別に、アーサーお兄様の匂いがキツいとかいう話では無い。むしろ、長旅から帰ってきたばかりなのに、臭くないのは流石イケメンのなせる技。ただ、お風呂上がりで、歩くたびにバラの香りが漂うお母様と比べたら、ね。




「____母上。なんだかものすごーく元気になられましたね」


「それはそうよ。レオナと作ったバラの香りの石鹸で毎日髪を洗って、週に1度は浴槽にゆっくり浸かっているのだから、もうそれは全身ツヤツヤよ。あなた匂い付きの石鹸はもう使った?すごくいい匂いで、もう本当にうっとりするんだから!」


 あちゃあ。身体の事だと勘違いしたのか。

多分お兄様は、精神的な意味で元気になったと言いたかったんだと思うけど······。


 チラリとお兄様を見る。

 どうせ呆れた表情をしていると思ったのに、予想外に嬉しそうな顔?




「お風呂で全身ツヤツヤ!その手があったか!」





◆◇◆◇◆






「フォルテと申す。この者は私の従者のサイモンだ。これから世話になる」

「サイモンです。この度は受け入れていただきありがとうございます。よろしくお願いします」



 この、真っ赤な髪をポニーテールで1つにまとめている方が、今回治療を希望しているフォルテさん。キリリと意志が強そうな目が特徴的な、グラマラスな女性だ。


 事前情報では、ある日から戦うことが難しくなったと聞いていたけど、見た目ではどこが悪いのか全く分からない。お母様の麻痺みたいに、視覚的には分からないタイプの状態異常なのかな?



 フォルテさんの隣にいる男性はサイモンさん。

 肩につくかどうかの金髪サラサラヘアー。どうやってお手入れしているのか、ぜひお聞きかせ願いたいものだ。それはそうと、かなり眠そうな目をしているが、相当お疲れなのか、それともこういう方なのか。








 フォルテさん達を受け入れるにあたって、お兄様が思い付いた作戦はこう。


 まずはお母様を治療した時と同様に、レオナがフォルテさんを鑑定し、病状を把握。治療用のポーションを生成。


 普通であれば、このポーションをフォルテさんに渡して、そのまま飲んでもらうのだが、これだとポーションで治療したことがバレバレだ。それではマズイ。この街で薬学スキルを持っている者は少なく、ポーションの作成者たるレオナに辿り着くのは簡単だからだ。


 だからお兄様は、お母様やフォルテさんの病気が治ったのは、全て《入浴による効果》だと説明することを思い付いた。


 フォルテさんには今日から毎日入浴してもらい、お風呂あがりに水を飲んでもらう。頃合いを見て、水をポーションに替えればいい。


 体力回復ポーション以外のポーションは一般には普及しておらず、ポーションで状態異常を解消できるとは普通は考えない。お兄様が入浴による効果だと断言する以上は、すぐにポーションに辿り着くことはないだろう。


 まぁ一応、念には念を入れて、例え今日にでも治療できる状態異常だとしても、入浴による効果だと演出するために、ポーションを渡す日を調整する等の目眩ましもする予定だ。






 レオナがポーションで状態異常を治療できるとなれば、そこらの荒くれ者がレオナを攫いに来るかもしれないが、お風呂なら盗まれる心配はない。


 むしろ、お風呂目当ての観光客が増えるかもしれない、という一石二鳥の良案だった。



「はじめまして。アレス=グライスナーの長女のレオナです。この度は、長旅ご苦労様でした」

 

 さぁ、気合を入れていこう。





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