第53話 私の天使
「お母様、準備はよろしいですか?」
レオナの右手には、中級火傷なおしポーション。母シャロンの背中の火傷を治療するために作ったものだ。
「すぅ〜。よし、いいわよ」
「では失礼して、いきますよ」
ベッドにうつ伏せ状態のお母様に、少しずつポーションをかけていく。ベッドにも少し滴るが、今は仕方ない。
シュワシュワシュワシュワ
「え?」
ポーションをかけたところから、ドライアイスみたいな煙が出てきた。もしかして、何か間違ってた?でも材料は火傷なおし草と水だけ。間違いようがない。
「ううぅ」
「ごめんなさい。痛みますよね」
お母様のうめき声に、顔が青くなったレオナは、思わず手を止めてしまう。
「大丈夫。だからやめないで」
「でも······」
ポーションをかけただけで痛みが出るなんて、想像していなかった。覚悟が出来ていなかったレオナは、手が震えてしまう。
(どうしよう。もし、何か間違っていたとしたら、このまま続けるのはまずい。でも、これが失敗作かどうかなんて、どう見分ける?あ〜、鑑定スキルに物の鑑定機能があったら良かったのに)
そうやってウダウダ考えていると、自然と煙も消えた。一瞬ホッとしたが、すぐに罪悪感が襲ってくる。申し訳なくて、今にも涙が出てしまいそうだ。
駄目だ、私が泣いちゃ駄目だ。
そう思って目を拭うと、視界がクリアになり、今までボヤケていた患部がハッキリ見えた。
「あ、キレイになってる」
思わずつぶやく。みみず腫れのように腫れていたのが、綺麗サッパリ無くなっていたのだ。レオナの声を聞いたお母様も、うつ伏せのまま背中に手を当てる。
「確かに。ここだけ腫れてないわ!」
良かった、ちゃんと効果があるんだ。
やるしかない。
ようやっとレオナの覚悟が決まった。
「お母様、もう一度かけていいですか?」
「うん、ありがとう」
再び少しずつかけていく。
相変わらずシュワシュワ煙が出るが、今度は手は止めない。
背中一面にかけ終わる頃には、心身張り詰めていたせいで、汗だくになっていた。
「どうですか?」
汗をぬぐいながら尋ねる。見た目には完全に良くなっているけど、どうだろうか?
「とっても楽よ。本当にありがとう」
普段気丈に振る舞っているお母様が、ポロっと涙を流した。
「良かった。良かったです、お母様」
「ありがとう。あなたは私の天使ね」
◆◇◆◇◆
しばらくお母様と抱き合って泣いたが、「レオナ、お父さんを呼んできてくれる?」と、笑顔のお母様に言われたので、「では、カイルに頼みますね」と答えた。
部屋のドアを開け、レオナと部屋に来てからずっと、ドア横に待機してくれていただろうカイルに声をかける。
「カイル、中級火傷なおしポーション、大成功だったよ!お父様にも報告したいから、探して呼んできてくれる?」
「承知しました」
カイルの少し目の縁が赤くなっているように見えた。部屋の中の声が聞こえていたのかもしれない。
しばらくすると、ドタドタと音が聞こえる。きっとお父様が、走ってこちらに向かって来ているのだろう。
「ふふっ。あの人ったら」
お母様は、そう言いながらも嬉しそうだ。
「あ、お母様。これも試していただけませんか?」
いけない、これを渡すのをすっかり忘れていた。中級麻痺なおしポーションだ。
お母様の状態は麻痺(大)なので、中級ポーションで完全回復は難しいだろうが、少しでもマシになればと思い生成したのだ。
さっきは身体に直接かけたけど、これは飲んでもらおう。
ポーションを手渡すと、お母様はグビッと勢いよくそれを流し込む。意外と大胆なんだな。
「うん、良くなった気がするわ」
「鑑定してもいいですか?」
「ええ」
「鑑定」
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対象者:シャロン=グライスナー
レベル32(3333)
SP120/120(7500)
体力 :70/220(3333)
MP :410/420(9999+)
攻撃力 :19(150)
防御力 :32(150)
攻撃魔法:39(500)
防御魔法:150(750)
俊敏性 :159(250)
幸運値 :1011(7500)
状態異常:麻痺(大)
属性 :農業 レベル17▽
魔法付与 レベル_▽
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あぁ。残念だが麻痺(大)はそのままだ。やっぱりそう都合良くはいかないか。