第52話 中級ポーション
善は急げということで、その日のうちに、麻痺なおし草と火傷なおし草、中級ポーション生成のスキルを習得した。
▽薬学スキル
○メインスキル
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中級ポーション作成(習得済SP30)
薬草を使って中級ポーションを作る
消費MP3
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◯サブスキル
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麻痺なおし草栽培(習得済SP3)
薬草(麻痺軽減効果)の種を蒔く
縦1メートル横0.2メートル
栽培期間15日
消費MP2
火傷なおし草栽培(習得済SP3)
薬草(火傷軽減効果)の種を蒔く
縦1メートル横0.2メートル
栽培期間15日
消費MP2
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仕方がないことはいえ、今まで節約してきたお陰で94ポイントもあったスキルポイントが、58ポイントまで減ってしまった。
急な大幅減に寂しさを感じる。
今後上級ポーション生成を習得することを考えると、もう少しスキルポイントを節約した方がいいのかな?
上級ポーション生成にどれくらいのスキルポイントが必要か分からないからこそ、多めに見繕って100ポイントくらいは常に残しておきたいところ。
そう考えると、新しいスキルの習得は、しばらくお預けになりそうだ。
◆◇◆◇◆
「そういえば、そろそろ頃合いかしら?」
「あぁ、新しい薬草ですか?」
「そう。麻痺なおし草と火傷なおし草ね」
麻痺なおし草と火傷なおし草を栽培してから、今日で16日目だ。ということは、スキルボードの説明書きどおりだとすると、今日にでも収獲して良いはずだ。
「今日の水の補充は、この井戸で最後のはずです。これが終わったら薬草畑に行きましょう」
「そうね、そうしましょう♪」
今日はテオではなく、カイルが護衛として付き添ってくれている。
カイルは歳の割にしっかりしているから、テオ同様安心して魔法に集中できる。
「うわ〜!結構鮮やかなのね」
薬草畑を見渡すと、一面の緑の中に一際目立っている一角がある。
麻痺なおし草と火傷なおし草だ。
麻痺なおし草は山吹色、火傷なおし草は少しくすんだ赤色だから、緑の中にあると格別に映えるのだ。
(なんだか紅葉みたいでかわいいな)
彩り的な意味で、収獲してしまうのは惜しい気もするが、必要ならまた栽培すればいいやと思い至り、一つ残らず収獲することにした。
「レオナ様、これが最後の1つですね」
「ありがとう。助かるわ」
「すぐに薬草小屋に行かれますか?」
「そうね、早くこの子達でポーションを作ってみたいから」
カイルを連れ回して申し訳ないが、早くお母様の病気を治してあげたくて、小屋に直行だ。はやる気持ちを抑えきれず、大股の早歩きになってしまう。
小屋に着いた頃には、汗だくだった。ちょっと頑張りすぎたかしら?
小屋を覗くとエリスが作業中だったので、キリが良さそうなタイミングで中にお邪魔する。
「お疲れ様、エリス」
「あ、レオナ様。お疲れ様です」
「ちょっと今からポーションを作りたいんだけど、お邪魔じゃないかしら?」
「勿論お邪魔なんかじゃありません。どうぞどうぞ」
椅子を引いてくれたので、遠慮なく座る。実は結構クタクタなのだ。
「ありがとう。実はね、今から新しい薬草で中級ポーションを生成しようと思ってるの」
「中級ポーション?ポーションにも種類があるんですか?」
「そうみたい。普段作っているのは下級ポーションで、今日作るのはそれより少し効き目が強いの。エリス、興味ない?」
「あります、あります!見ててもいいですか?」
「うん見てて。もしかしたら勉強になるかもだから」
釜の中に薬草を入れて、すり潰す。汁が出てきたら、少しの水をいれる。あとは魔法を発動させるだけ。簡単だ。
「あれ?今日は魔力水は使わないのですか?まだ余ってますよ?」と不思議そうなエリス。
「うん、この方法の時は普通の水を使うんだ。いくよ、中級ポーション生成!」
するといつものように水嵩がまし、薬草がみるみる溶けてなくなっていった。分量は、下級ポーション生成時と、さほど変わらないように見える。中級だからといって、下級よりも量が多いとかは特段無さそうだ。
よし!中級麻痺なおしポーションはこれで大丈夫だろう。薬草と同じように、薄く黄色に色づいている。
同じ要領で火傷治しポーションも生成。
これでお母様の病気が治るかもしれない!
◆◇◆◇◆
エリスにお礼を言って小屋を出る。
二人きりになると、カイルが「中級ポーションのこと、エリスさんに教えて良かったんですか?」と尋ねてきた。
レオナが鑑定スキルを得たことは、レオナの他には、グライスナー家の3人と、レオナの護衛騎士であるテオ、カイルしか知らない。
その上、この5人にも箝口令が敷かれていた。
でも、エリスに話したのは、鑑定スキルのことではなくて、あくまで中級ポーション生成のことだ。これを話すことはまだ禁止されていない。
「うん、大丈夫。エリスのことは信頼してるもん。あ、カイルのこともそうだよ」
「こ、光栄です」
普段はクールなカイルだが、照れると割りとすぐに頬が赤くなる。このギャップが堪らなくて、ストレートに褒め言葉を口にしてしまう。
「ふふふ。それにね、私の夢は、グライスナー領に大浴場を作ることでしょう?今はお母様の病気を治すために薬学スキルも頑張ってるけど、お母様が元気になったらポーション作りはエリスに任せて、私は水魔法に集中出来たらなって思ってるの」
実際には、上級ポーション生成が成功した後には、鑑定スキルのレベル上げが待っている。
レオナが言う通り、水魔法に集中出来るようになるのは、恐らく随分先になるだろう。
ただ、もしそうだとしても、上級ポーション生成を最後に、レオナが薬学スキルから離れるのは間違いないことだった。
「そうだったんですね」
「うん。でもエリスは違う。あんなに真剣に、お仕事に取り組んでくれているんだもん。きっと薬学が好きなんだよね。だからエリスには、いつか中途半端に薬学スキルから離れるだろう私の代わりに、薬学スキルを極めてほしいんだ。__虫のいい話に聞こえるかな?」
「そんなことは······」
「ううん。でもだからこそ、薬学スキルにはどんな可能性があるのか、どんな魔法が使えるのか、早い内にエリスに知ってもらうことが重要かなって」
現在、グライスナー領にとってのポーションは、言わば生命線だ。ポーション売買による収入が無くなると、たちまち経営が立ち行かなくなってしまう。
だからこそレオナは、薬学スキルのレベルアップは、グライスナー領の発展のための仕事として、割り切っている部分が大きかった。
もし、自分のワガママが許されるなら、水魔法を極めて、毎日お風呂に入る生活をしていただろう。
でも最近は、役目を終えた時には、今まで我慢した分、自分が好きなように魔法を練習してみたいって思うんだ。
「レオナ様の夢が叶うまで······。いえ、叶った後も、一生お守りいたします。」
「ふふふ。嬉しい、ありがとう。___さぁ、お母様のところに急ぎましょう」
今は、1分1秒でも早く、お母様を楽にさせてあげたい。きっと今日も、自室でお休みになっているに違いない。お母様の部屋に急ごう。




