第42話 準備
早速今日の夕食にて、州都派遣の規模拡大の件をお父様に打診するつもりだ。
執事のロイドからも太鼓判を押されたし、きっと大丈夫だと思いたい。
「レオナ、アーサーから報告を受けているぞ。ポーションを大量生産出来るようになったそうだな」
「そうなんです」
「素晴らしい活躍だぞ。今後も魔法の練習を頑張るように」
「はい!それで、お父様ご相談なんですが」
「分かっておる。州都派遣の件だろう?アーサーから話は聞いている。今回は、レオナの提案を受け入れようと思っている」
「それは真ですか!?ありがとうございます」
横をみると、お兄様がしたり顔で微笑んでいる。まさか提案する前にOKが出るとは思っていなかったけど、お兄様が根回ししてくれたみたい。
「ただし、収益の残りは、他の事に使わせてもらうぞ。それと、使用人が増えるということは、その分お給金を支払わなければならないということだから、肝に命じておくように」
「はい!かしこまりました。」
お父様は「全く、なんと末恐ろしい5歳児だ」とかブツブツいっている。けど、すみません。前世を含めるともうアラサーなんです。
「州都と言えば、レオナ、お主がまだ3歳だった時、6歳になったらまた州都に連れて行くという話をしたこと、覚えているか?」
「そうでしたっけ?」
(どうしよう。全然記憶にないや)
「いや、いいんだ。覚えてなくて当然だからな」
「?」
「実はな、ファンドン州では、6歳になる年の4月に、州長に謁見するしきたりがあるんだよ。勿論、レオナも参加しなければならない」
「じゃ、じゃあ水の補充はどうなるのですか!?」
えっ。そんな大事な事、聞いてないよ!
···これはどうやら、お願いを聞いてもらう代わりに、とんでもない爆弾を落とされたみたいだ。
「それはだな······。何かいい案は無いだろうか?」
ガクッ
「水の保管施設を作るしか無いでしょう。大量に保管しておけば、2週間くらいならなんとか。我が領にはレオナ以外にも水属性魔道士はいるわけですし」とお兄様。
「であれば、第2地区北西の畑の近くに作っていただけませんか?屋敷からだとあそこの畑が一番遠くて、日々の補充が負担になっているのです。せめて2日に1度の往復となれば楽になるのですが」
「よし、分かった。早速取り掛かろう」
「あの〜できれば塩を作る施設も作りたいのですが」
「「塩?」」
「今日のトマトにかかっている塩は、自家製なんです。塩は買うとお高いとお聞きしましたので、なんとかして量産できないかと思いまして」
そう、今日はカリンに頼んで、グライスナー領産〔塩振りトマト〕を準備してもらった。
居酒屋でとりあえず最初に頼むような、何てことのないスライストマトに塩を振っただけのものだけど、我が領では贅沢品に入る。そのためか、みんな美味しそうに食べてくれた。
「塩が、我が領で作れたのか?」
「えぇ、少量ですけれど」
「どうやって!?」
「水魔法を使いました。塩分濃度が高い水を水魔法で作って、後は水分が蒸発するまで約2週間程天日干しにしたんです」
「塩分濃度?蒸発?私には何が何だかさっぱり」
「わっはっは。やっぱりレオナは天才だな!俺に内緒でこんな実験をしていたなんて!将来は研究者にだってなれるんじゃないか?」
(前世だと常識だったから、なんか悪い事しているみたいな気分ね)
「そんなんじゃないです。とにかく、今は地面に置いた石桶で塩を作っているのですが、やはり砂埃とかが気になって。だから建物の屋上を丸ごとお貸しいただけないかと」
「分かった。すぐに作らせよう。ちなみに作った塩は領民への配給に回すが、問題ないな?」
「はい!勿論問題ありません」
これは大きい。広い土地を使って塩が量産できれば、領民の食料事情も改善するし、もし塩が余ればシュバルツさんに頼んで売って貰えば、高い値がつくだろう。何しろこの辺りは海がないから、塩は高級品なのだ。
そしてその売却益を使って、さらに領地を復興させる。
そうすればいずれ、グライスナー領に公共のお風呂を建設することだって夢じゃないかもしれない。
そう考えると、なんだかやる気が出てきぞ。
謁見だって軽くこなしてみせようじゃないか。




