第15話 街の人気者
翌朝。
ドン!
大きな音をたててテーブルに置かれたのは、今日の朝ご飯。
メニューはなんと、蒸したじゃがいも。しかも丸ごと一個皮付きです。
今日はアランが朝食を作ってくれる予定だったが、この様子だとどうやら失敗したようだ。
(マリーが居なくなったばかりだし、料理は慣れ。仕方ないよね)
と思っていたが_____。
◆◇◆◇◆
「グライスナー家緊急会議を始める!」
「はっ!」
急遽、使用人を含め会議を行うことになったらしい。面白そうだから同席することにした。
(みんな結構せっかちなのね)
「アレス様、恐れながら申し上げます。私ロイドと庭師アランには、料理の経験がございません。皆様にご満足いただけるものをお出しするには、いささかお時間をいただくことになるでしょう」
「ふむ」
(ロイドもアランも料理できないのね。じゃあ私が立候補しようかしら)
「お父様、良い案があります。お料理は私に任せてください」と、レオナが得意げに宣言する。
(前世では毎日自炊していたし、何も問題ないはずよ)
レオナ様が料理を?
してるところ見た事あるか?
ありませんね。
だな、流石に危険すぎる。
なんて、こそこそと失礼な話し声が聞こえたけど、きっと気の所為ね。
「_____ゴホン。え〜この通り、この屋敷には料理ができるものがいない。故に料理ができる使用人を雇い入れるということで良いな?」
「異議なし!」
(え〜、お父様もお兄様も皆も私の意見は無視なの!?)
会議の結果、不服ではあるが、レオナ以外の全員の意見が一致して、マリーの後任の使用人を雇うことになった。
雇用条件は、
①料理ができること
②レオナが気を許せるような女性であること
(レオナのお世話係を兼ねるため)
社交的で領内にも知り合いが多いアーサーと、当事者であるレオナの2人で候補者を探して欲しいと打診され、渋々了解するレオナだった。
◆◇◆◇◆
翌日。今日の朝食は、お兄様と二人だ。じゃがいものサラダを食べながら、お兄様が問いかけてくる。
「レオナ、今日の井戸補充は俺も付いていっていいか?」
久しぶりに領内の友達にも会いたいし、と付け加えた。
「はい、構いませんよ」
「じゃあ準備が出来たら俺の部屋においで」
そういって、ダイニングを出ていった。
レオナは自室に戻り外出の準備。実年齢は3歳だが、前世の記憶があるので、着替えたり髪を整えたりなんて1人でできる。むしろ、今更誰かにお世話してもらう方が気恥ずかしい。
だから、料理人はまだしも、レオナのお世話係なんて不要だ。お世話はしなくていいから、料理が出来て、性格が良さそうな方を雇用してもらおう。
考えをめぐらせながら、アーサーの部屋に行く。そういえば、お兄様と二人で外出するのは初めてかもしれない。
コンコン
「お兄様、レオナです」
「来たな。じゃあいくか。まずは水の補充からだな」
アーサーに付いて、まずは屋敷側の井戸に行く。中身を見ると、暗くて正確には見えないけど、やはり半分程しか使われていないようだった。
とりあえず、今日分の補充しようと魔力を練っていると「やぁアーサー」と、こんがり焼けたお兄さんが話しかけてきた。
年齢は、お兄様と同じか、少し年上くらいだろうか。
「よぉ、トム」
「久しぶり。今回の行商は長かったみたいだな、お疲れさん。お、もしかしてその子はレオナ様か?」
「あぁ。ちっこくてかわいいだろう〜?」
(ちょっ、お兄様!恥ずかしいですよ!)
「あぁ、流石アーサーの妹さんって感じだな。俺は一人っ子だから、かわいい妹が居て羨ましいよ」
「トムは見る目があるなぁ〜!」
2人の会話から、仲の良さが伺える。次期領主と住民というより、幼なじみの会話に近い。
「それはそうとトム、最近この辺の住民達は元気にしてるか?」
「ん〜、まぁそこそこだな。今のところ病気してるやつもいないし」
アーサーには言いづらいのだろう、トムの口調は歯切れが悪い。
「水はどうだ?満足にとは言えないだろうが、最低限は使えてそうか?」
「まぁみんなで節約しながら頑張ってるよ」
「実はな、最近このレオナが水属性魔法を授かってな。そのお陰で、少しだけ水の供給量が増えそうなんだ。沢山は使えないかもだが、この井戸にある分は毎日使い切っていいぞ」
「ほんとか!ありがとうアーサー、レオナ様!」
早速みんなに知らせてくる、とトムは走っていった。
その後も、領地を周りながら、アーサーの友達数人に声をかけて周った。アーサー達の会話を聞いていた住民も多く居たようで、歩いていると「噂は本当か」と尋ねられた。恐らく周知は充分だろう。
これで、明日の朝は屋敷側井戸の水も空っぽになるはず。
(さすがお兄様、街の人気者だわ)
レオナは年頃の割には比較的大人しく、領内にも友達はいない。(まぁ病弱で室内暮らしだから、というのが大きいのだが)
それ故に、アーサーの社交性がいつも羨ましかった。
だが、レオナには到底出来ない芸当なので、今後も何かあればアーサーを頼ろうと思うのであった。