第14話 家族水入らず
その日の午後。
今日は、久しぶりに家族水入らずで夕食だ。普段は夕食を食べないお母様も、今日は体調が良いらしく、ご一緒されるようだ。久しぶりにお兄様が帰ってきたから、上機嫌なのかもしれない。
本日の夕飯は、マリーの実家のパンと、アーサーが買ってきたニンジンで作ったスープだ。
前世と比べると質素な食事だが、グライスナー家の食事としては結構豪華な方だ。
美味しいご飯のお陰で、箸も進む(これは比喩表現で実際にはスプーンで食べるのだが)が、会話だって弾む。
話題は、アーサーの今回の行商の成果について。
「アーサー、今回もお疲れだったな」とお父様がお兄様をねぎらったので、私も「お疲れ様でした」と続けた。
「今回はどうだったか?」
「はい。今回は西側の各領を周りました。商品の売れ行きはいまいちでしたが、途中荷運びの依頼が舞い込みましたので、結果合計150,000ダールの収益となりました」
「うむ、充分だろう。ご苦労であった」
「ありがとうございます」
私は今世での常識にはまだ疎く、150,000ダールにどれほどの価値があるのかはわからない。マリーの実家のパンが300ダール。だけど、前世と違ってパンは主食じゃなくて、金銭的な問題でたまにしか食べられない物だから······。ん〜結局よく分からないが、お兄様の反応から察するに悪くない金額なのだろう。
そういえば、行商で売っている商品って何だろう?グライスナー領に、他領が欲しがる商品なんてあったかな?
「ねぇねぇ、お兄様はいつも行商で何をお売りになっているの」
「メインはレンガだな。レンガ造りの家とか、橋の建設とかが流行ってる街に行くんだ。んで、街に入る前に、俺の土属性魔法でレンガを沢山作る。それを売って、代わりに領地用の衣服とか、あとは帰りに通る街で高く売れそうな商品に交換するかんじだな。だけど、そろそろレンガだけじゃ厳しくなる気がしてるんだよな〜。近くの領地はあらかた売って回ったし」
「そうなのね。何か特産品の様なものがあればいいのだけど。私も考えてみるわ」と物知りなお母様。きっといつか、良い特産品を閃いてくれるだろう。
「お母様、ありがとうございます。____そういえばレオナは最近どうなんだ。この前倒れたばかりなのに、今日は外に行ってたんだろう。怖い想いはしていないか?」
「アランと一緒だし、何にも心配ないですよ」
心配して貰えるのは有り難いが、そのせいで折角出来た魔法を練習する機会が失われては困るので、しっかり自己主張する。
「そういえば、アランから報告があったが、今日は屋敷傍の共同井戸の水が余っていたそうだな。マリーの時は、そういった報告を受けたことはないのだが······。レオナ。まさかとは思うが、1日に20回以上魔法を使っている訳じゃあるまいな」
(ぎくっ。お父様鋭いわね)
「いいえ!ちゃんと20回以内に抑えていますよ」
本当はMPのギリギリまで毎日使っており、回数としては20回を超えるが、こうでも言わないと怒られてしまうと思い、焦って否定する。
「そうか?」
片眉をつり上げ、ちっとも納得していなそうなお父様。
(何か話題を変えなきゃ)
「あ!私閃きました! お兄様先程、そろそろレンガが売れなくなるかもとおっしゃいましたよね?良かったら次回の行商、試しに私の薬草を売ってみませんか?」
「いいのか!かさばらないし助かるよ!早速次の行商で少し持っていこう」
「州都との間にあるゾーマの街にはポーション生成の魔導具があると聞くわ。あそこなら薬草も高く売れるかもね」とお母様。
(この世界には魔道具があるんだ。いつか見てみたいな)
「ポーションが作れたら、それが一番いいんだがな。魔導具は高級品だ。我が領地では手が出せない。現状は薬草のまま売るしかないな。頼めるか、アーサー」
「かしこまりました、お父様。にしても井戸の補充もしながら、あれだけ大きな薬草畑も作って。俺の妹は天才かぁ〜なんてな」
お兄様は冗談のつもりのようだか、お父様の視線が更に訝しげになる。
(ひぃ〜!)
「とんでもございません!ただ魔法の練習が好きなだけです!!」
その後も、どうにかお父様の訝しげな視線を掻い潜ったレオナ。部屋に戻る頃には、さすがにぐったりしてしまった。
(私が、自分のMPとかその他のステータスも分かる事がバレたらどうなるんだろう。せっかく仲良しの家族なのに、皆に気味悪がられてしまうのかな?)




