第11話 マリーのお見送り
5月1日、お父様から聞いていたとおり、今日でマリーが屋敷を離れてしまう。
使用人の中で唯一の女性だったマリー。体調が悪いお母様の代わりに、レオナの世話係も兼ねていた。だから、使用人の中では一番長い時間を一緒に過ごしたし、いっぱいワガママもきいてもらった。
そんな大好きなマリーと毎日会えなくなる。本当に寂しくて仕方ない。
だから、出来る限り長く、最後まで一緒に居たくて、アランと共にマリーを街までお見送りすることにした。
マリーの実家は、中央道を挟んで屋敷の逆側。つまり領内では、かなり屋敷から離れた所にあった。
これ程の距離を毎日往復するなんて、本当に大変だったと思う。
だから、マリーは涙ながらに申し訳ないと言っていたが、可愛がってもらったレオナからすると感謝しても仕切れないのだった。
◆◇◆◇◆
あっという間にマリーの実家に着いてしまった。
マリーの実家はパンを作って生活しているそうで、家にはかまどがあった。ちょうど焼いているところだったようで、外まで香ばしい良い匂いが漏れている。
この領地では、魔法で作れるじゃがいもが主食なので、パンはそこそこ高価な食べ物だ。
(そういえば、今世ではまだ一度も食べてないや)
パンは1個300ダール(日本円だと300円くらい)もしくはじゃがいもや着物等との物物交換でも購入出来るらしい。お小遣いを貰えたら、是非食べにきたいな。
「レオナお嬢様、申し訳ありません。それと、お仕事を引き継いで下さってありがとうございます」
「気にしないで。こちらこそ今までありがとう」
「アランも、手間をかけるわね」
「気にすんな。お互い頑張ろうぜ。まぁ達者でな」
交互に見つめ合う3人。
するとマリーが、グッと顔を歪め、
「これからは、可愛い可愛いお嬢様の髪を毎日梳かすことができないと思うと、悲しくて仕方ありません」
と言い切った後、眼からポロリと涙を流すものだから、私も悲しくなって、
「マリー·····。ねぇマリー私頑張るわ。それで、もし小麦が沢山採れるような豊かな領地になったら、一緒にパンを作ってくれないかしら?」
と、涙でぐちゃぐちゃになりながら答えた。
「勿論です!お嬢様!」
号泣のマリーと、貰い泣きしてしまったレオナ。二人しておいおい泣きながら抱き合った。
◆◇◆◇◆
しばらくそうしていると、泣き声を聞いたマリーのお父さんが何事かと様子を見に来てしまった。
名を名乗ると、領主の娘と認識されていたようで、部屋の中にお邪魔させていただくことに。いい機会だからと、涙をすすりながらではあるが、パン作りについてかい摘んでお聞きした。
まず、マリーの実家のパン屋さんでは、原料の小麦は半分を自作、半分は領外から輸入しているそうだ。
店主であるマリーの父は魔法が使えないため、普通に半年程かけて栽培しているらしい。
(ちなみにこの辺り一帯は四季がない。なので収穫したらすぐに新たな苗付けの準備をすることで、年に2回収穫することが出来るとのこと)
ただし、水不足のグライスナー領ではあげられるお水が少ないからだろうか、魔法を使った時と比べると、量も質も格段に劣るらしいとのこと。らしいというのは、現在グライスナー領には、農業スキルで小麦を栽培出来る者が居ないため、他領から流れてきた噂で聞いた話だからとのこと。
(早くお風呂を建設したいけど、どうにか小麦を量産して、マリーとパンを作ったりもしたい。でも両方とも大量のお水が必要なんだよね。前途多難だな)