表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/80

第1話 絶対にお風呂を作る!


 ここは、アルマー王国ファンドン州グライスナー領。


 領土の大部分が乾燥地帯という過酷な土地である。


 そして私は、領主アレス=グライスナーの長女、レオナ=グライスナー(3)



 私にはある野望がある!


 それは、この水を飲むのも苦労するこの乾燥地帯に、《お風呂》を作ること!




 何故水を飲むのも苦労する領地に住んでいるのに、お風呂の存在を知っているかというと、それは____




◆◇◆◇◆




 お母様によると、私は小さい頃(といっても今もまだ3歳だけど)から身体が弱かったらしい。だから、3歳になるまでは激しい運動はせずに、基本的には室内で暮らしていた。



 3歳を迎えたある日、その日は、普段より少しだけ日差しが落ち着いていた。だから久しぶりに、お父様とお兄様と一緒に屋敷の外に出掛ける許可が下りたんだ。



 久しぶりのお出かけにはしゃぎながら動き回る私。


 お父様が「レオナ、今日は沢山遊んだね。そろそろお昼ご飯だから、お家に帰ろう」と諭しても、「いやだよ〜だ。もっとあそぶもん」とワガママを返した。


(久しぶりにお外に出られたんだもん。もっとあそぶの!)


 がしかし、そんなワガママを諌めるかのように、急激に存在感を主張し始めた太陽。そして、照りつける日差し。


 元々体力がないうえに久しぶりにはしゃいでしまったことで、底をつき始めていた体力。


 急に頭がフラフラとし始めた、と思った瞬間には、もう眼の前が真っ暗になっていて、ダンッと音をたてて地面に倒れ込んでしまった。


 地面に寝転がったまま、自分の意思とは無関係に口が動く。

「まえが見えない。耳がきこえない。み、水。きゅうきゅうしゃ······」



「レオナ!」

「おい、レオナどうした!?まさか、気を失って!?」



 意識が朦朧とする中、家族の声は耳に届かず、ただ自分が口走った聞き慣れない言葉について考えていた。


(あれ、きゅうきゅうしゃって何だっけ?)






◆◇◆◇◆





 気がつくと、私はクーラーの効いた明るい部屋で、テレビゲームをしていた。


(なんか、変な夢を見ていた気がする)


 今日は日曜日。時刻は夜の9時。ということは。

「明日から仕事かぁ〜。嫌だなぁ〜」


 自分が好きな事を仕事にしたはずなんだけど、それでも会社に行きたくない日はある。というか毎日行きたくない。


 仕方ない。こんな鬱々とした気分の日は長風呂でスッキリさっぱりしよう!


「よ〜し!今日は奮発して、バラの香りの入浴剤にするぞ♪」




ふんふんふ―ふんふんふん♪


ふんふんふ―ふんふんふん♪



「○○○〜!もう1時間お風呂に入ってるよ〜。のぼせる前に出な〜」


(もう1時間か。お湯もぬるくなってきたし、そろそろ上がるか)


 浴槽で立ち上がると、ムワッとした湯気が立ち込める。


(換気扇つけ忘れたかも)


 頭がクラクラして、「あ、これヤバいやつだ」と思いつつ浴槽を出て、脱衣所でバスタオルを身体に巻く。


しかし耐えきれず、「う、うぅ」


 バタン!!


 大きな音をたてて、その場に倒れ込んでしまった。


「○○○!?すごい音したけど大丈夫!?ってすごい顔色!!」


「み、水。救急車」


「○○○!○○○!しっかりしろ!今水持ってきてやるから!」


バタバタバタバタ


「ほら水!」


「ゴクッゴクッ。はぁ~。ありがとう、もう大丈夫」


「心配した〜。もう今度から長湯禁止な」


 水を飲んでしばらく座っていると、先程までのクラクラが嘘のように普段通りに元気になった。


「心配掛けてごめん〜。でも長湯禁止は勘弁して〜笑」



 私が冗談を言うと、誰かは安心したように「だめ〜笑」と笑った。


 誰かと笑い合っていると、ふと、あれ?と何かが引っかかる。


「救急車って、つい最近も呼ぼうとした気がする······?」



 すると突然眼の前にモヤがかかって、


「何言ってんだレオナ。グライスナー領に救急車があるはずないだろ?」 


(レオナ?私はレオナじゃないよ。グライスナー領?って何なのお兄様。ってなんでここにアーサーお兄様が!?)




・・・・・・・・・・

・・・・・

・・・





◆◇◆◇◆




ガバッ


「はぁはぁはぁはぁ」


「レオナ!良かった無事で······」


「え、お兄様?私······」


「いいからまだ寝とけ。父上を呼んでくる」

 


(思い出した。さっきのは夢じゃない。私の過去の記憶だ) 



 あまりの出来事に身体が冷えて、室温は高いはずなのに、反射で身震いしてしまう。



 そうだ。私は昔、というか記憶上はついこの間まで、日本という国に住んでいた。


 貧乏家の次女だったが、死ぬ気で勉強し、日本でも有数の大学に入学。それなりの企業に就職し、優しい夫と結婚。


 子宝こそ恵まれなかったが、平々凡々な暮らしを楽しんでいた。



 正直何が原因で死んでしまったのか、そして転生までしてしまったのかは覚えていない。でも、今現在未練が残っていないということは、きっと不幸に巻き込まれてとかではないのだろう。


 だから前世の事はもう気にしない。


 それより問題なのは、そんな普通の日本人女性だった私の趣味、《お風呂》がこのグライスナー領では全く浸透していないのだ。



 仕事から疲れて自宅に帰ってきたら、直ぐに浴槽に熱いお湯をためて、暖かいお風呂にゆっくり浸かる。特別な日には、シュワシュワと泡が出るゆずの香りの入浴剤をいれて。疲れを癒す。


 至福の一時だったのに。


 お風呂が無ければ、これから私は何を癒やしに頑張ったらいいんだ······。


 いや、お風呂無し生活なんて考えられない。


 絶対に、今世でも毎日お風呂に入りたい!


 そのためなら、どんな努力だってするつもりだ。





◆◇◆◇◆






 待ちに待ったこの日がやってきた。


 父アレスに頼み込み、州都の教会にて、魔法適性の確認をしていただけることになったのだ。


 魔法適性が確認されるのは、早くて5歳、遅い者は30歳前後と言われている。


 人によって、魔法適性が芽生える時期が違う理由は不明だが、どうやら精神の成熟が影響しているらしい。


 私は身体は3歳だが、前世を合わせると精神的には少なく見積もっても35歳くらいなので、もしかしたらと思って連れてきてもらったのだ。


 父には「レオナはまだ3歳だからなぁ〜あと3年したら行ってみよう」と何度か断られたが、私があまりにしつこく頼み込むものだから、遂に根負けして、州都での仕事ついでに教会に寄ってもらえることになった。




「レオナ!起きなさい!!」


 あれ?どうやら寝てしまっていたみたい。


「ほら、あれが教会だよ。」


(あれが?なんか思ったより質素だな)


 教会風の結婚式場を想像していたけど、目に入ったのは四角い白壁の建物。まるで前世で食べた豆腐のようだ。


 そうだ、お豆腐!

 たっぷりのお水があれば、お豆腐の再現だって出来るだろう。



 そのためには、やっぱり水属性魔法がどうしても欲しい。


 神様仏様どうかどうか、私に水属性魔法をお与えください。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ