2話 万事休すと思いきや
「た、助かったぁぁ……」
単純にスライムから逃げ切ったと思っていた私は、木の根っこに座り一息ついた。
「はぁ、怖かった……」
スライムは全然強くない最弱モンスターだと思っていたので、正直油断していた。
可愛いと思ってしまった自分を責めたくなる。
木の陰に隠れつつ、ゆっくりと回りを見渡す。
「モンスターは……いない、かな。取り敢えず、状況を整理してみよう……」
私は雷に打たれ、どうやら異世界やゲームみたいな世界に来てしまったらしい。
それが転生なのか? 転移したのか? それは定かではないけど、少なくとも日本ではないのは確認出来た。
こういった世界だとステータスとかが現れるのではと思い、手を前に出してスライドしてみたりタッチする風に押してみたりしてみるものの、反応がなかった。
「ステータス、オープン」
ならばと口に出してみると、何か画面みたいなのが出てきた。
「やっぱり……」
やはり、ここはゲームか異世界で間違いはないようだった。
ステータスを見ると、スキル欄があるけど……何も書いていない。
雷属性と雷耐性を持っており、雷耐性により雷属性に至っては完全無効らしい。
恐らく……雷に打たれてこちらに来たからだろうと思った。それなら雷属性と耐性があるのも納得はいく。
ちなみに攻撃力や守備力といったステータスやレベル等は書かれておらず、純粋に名前とスキル欄と所持属性と耐性だけしか記載がなかった。
「スキルが無し、雷属性持ちで雷耐性により雷無効……か。これ、ヤバいかも……?」
雷属性があれどスキルはなくて、耐性も雷耐性だけ。
こんなステータスで、私……生きて帰れるの?
「あ、あはは……」
笑うしかない。
こういう異世界転生ってさ、神様とかが現れて強い能力とか加護を貰って活躍したりとかさ、初めから強い能力を持っていて俺TUEEEEとかするもんじゃないの?
まぁ、私はあまりモンスターや魔物と戦いたいとは思わないし、さっきの事もあって怖いからなるべくモンスターは退治したくない。
でも、最低限この世界で生きていく為には、戦える手段を持つか逃げる手段を持った方がいいってことは明白。
今のままでは、完全に詰み状態だ。
「……いや、落ち込んでる場合じゃない……切り替えなきゃ。この雷属性を、どうにかして使いこなす方法を考えないと……」
こうしてる間にも、モンスターに狙われるかもしれない。
それに、早く森から抜けないと夜がやってくる。
モンスターの住む森に夜が来る……これがどういう意味なのか、誰にでもわかると思う。
どうすればいいか考えた結果、闇雲に歩き回るよりも今持っている雷属性をどうにか扱えるようになれば、この森から抜けるのに役に立つかもしれないと思い立った。
どうすれば雷属性を使いこなせるのか、使い方のコツを探ることにした。
「雷属性って言えば……なんだろう?」
雷属性を扱うのなら、近い物を想像してみた方がコツが掴めそうな気がしたので考えてみる。
「真っ先に思い付くのは、やっぱり雷が落ちた時のギザギザなアレだよね。それとか……静電気とかかな?」
この世界に来る前に雷に打たれたので、真っ先にイメージがしやすかった。
「それとか、アニメとかにも雷を使うキャラが居るけど、雷を纏って一瞬で移動出来たりするよね。私もそれを使う事が出来れば、モンスターと出会わずに移動出来るかも……」
そのアニメの映像やキャラを思い出し、全身に雷を纏えないか試してみることに。
「ふんーーーー!」
しかし、うんともすんともいわなかった。
「そんな簡単に使えたら苦労しないか……」
その後、手を突き出して「雷よ!」と声を出してみたり、「雷を司る精霊よ!来たれ!」や「天光満つる処に我はあり……」のような某ゲームの詠唱っぽい物を言ってみたり、思い付く事色々やってみたんだけど……どれも手応えがなかった。
「なんで……」
試行錯誤してみてもダメってことは、そもそも属性を持っているだけで行使する力がない……?
異世界物で言うならば、例えば魔力?だとかマナ?だとかになるかな、あれらを扱えるようにならないとダメなのかもしれない。
「どうしよう」
ここで休憩を始めて20分くらい経ってると思うんだけど、幸いにもモンスターには出会っていない。
しかし、このまま留まるのは危険だと勘が告げている。
「このまま使えるか分からない雷属性を模索するより、流石にそろそろ歩いた方が良いかもしれないかな……」
木々の合間から見える太陽の高さを見るに、まだ15時頃だとは思われる。
しかし、この森がどれだけ広いのか分からない。
「……行こう。ここに留まって夜になって死ぬよりも、自分で動いて街や人を見付ける可能性に賭けた方がいい気がしてきた」
怖さを必死に押さえ込み、私は再び森の中を慎重に進み出した。
数十分森の中を歩いている間に、遠くの方でスライム以外のモンスターを見掛けたりした。
二足歩行で豚の顔をしたモンスターや人型の棍棒を持ったモンスターとか。
モンスターを見掛けた際は、木や茂みに隠れながら遠回りして避けていた。
「ぐるるるる……」
「!?」
何かの唸り声が聞こえて足を止める。
茂みから姿を表したのは、テレビや図鑑で見た事あるような姿だった。
「オオカミ……!?」
よく見ると1匹だけじゃなく、3匹居るのが見えた。
オオカミと言えば、鼻が利くし足も早い。このまま逃げたとて追い付かれるのは目に見えて明らか。
よく知るオオカミよりも大きな身体で、噛みつかれると間違いなく腕は持っていかれるであろう鋭い牙をのぞかせている。
「ぐるる……がるうぅぅ!」
オオカミが3匹一斉にこちらに向かって走り出し、1匹がこちらに飛びかかってくる。
「ひっ!」
咄嗟にしゃがみ込むと、背後にあった木に1匹のオオカミが激突。
しかし、残り2匹がこちらに目掛けて飛びかかってくる。
私は目を瞑り、頭を手で抱えた状態で大声で叫んだ。
「来ないでぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
その瞬間、身体から大量の雷が放電され、バチバチバチッと弾ける音が大きく鳴り響く。
「「キャゥ!!」」
放電に巻き込まれたオオカミ3匹は、真っ黒に焼き焦げて息絶えたようだった。
その後すぐに放電が収まり、私は恐る恐る目を開くと、周りには焦げたオオカミと放電により黒くなった草と私だけが残っている。
私は地面にペタリと座り込み、止めていた息を漏らしながら脱力するのだった。
ーーーカオリの居る位置から2キロ離れた場所にてーーー
「今日も大量だな!」
「そうね、ウルフの巣を荒らせたのは大きいわ」
収穫が多くてルンルン気分になっている、鎧を着て背中に大きい盾を背負っている女性レイナ。
巧みなナイフ捌きでウルフの処理を行っている、狼の耳と尻尾が付いてる女性ソル。
その2人が、カオリの居る場所の近くでウルフ狩り終わらせた所だった。
「門が閉まる時間に間に合いそうにないな、野営になりそうだ」
時計を見たレイナが、ウルフの処理を行うソルにそう告げた。
「野営かぁ……まぁ仕方ないか、意外と巣の殲滅に時間掛かっちゃったからね」
2人は、この森を出てすぐ近くにあるトリスター王国の王都トリスタを縄張りとする冒険者である。
門は人々の生活を守る最終防衛ラインの為、人が寝静まる夜間は魔物から街を守るために門の入退場時間が厳しくなっている。
その為に、もし門の開放時間に間に合わなかった場合は近くにある避難場所へ移動し野営となってしまう。
「この奥地は魔物が多い……ウルフの処理が終わり次第、魔物が少ない地域まで移動するとしよう」
「そうね」
倒したウルフの処理も終わり、アイテム袋に魔石と素材を入れていく。
そして移動しようとした瞬間、雷が弾けるような大きな音が鳴り響くのが聞こえた。
「「!?」」
音がした方面を見ると、バチバチと雷が弾けているのが見えた。
「な、なんだ!?」
「何かあったのかもしれないわ! 行きましょ!」
レイナとソルは音の発生源の元へと急ぐのだった。
ーーーーーーーー
しばらく放心状態が続くも、私は何とか意識を取り戻した。
「……」
軽く黒くなった草を撫でてみると、草はボロボロと崩れてしまった。
そこにまだ電気が残っていたのか身体にバチバチと電気が流れる感覚があったが、痛みは全く無かった。
「……これが、雷耐性……」
初めて自分の持っている雷耐性が活かされたと感じた。
「でも……一体何が起きたんだろう?」
落雷跡の模様のように焦げている草と、叫んだ際の身体に流れた感覚が雷耐性によるものだった事からも、雷が落ちてきたのではと推測した。
しかし、空を見上げてみても木々の合間から見える空は青空満天で雲1つない。
「雲1つ無い状態で、雷が落ちてくるとは思えない……もしかして、私が?」
だとすれば、さっきまでいくら頑張っても発動しなかったのに、何故発動出来たんだろう?
恐怖がトリガー? それとも……?
「あっ、レイナ! 人が居たわ!」
「君! 大丈夫か!?」
考え事中に現れたのは、騎士のように鎧を着た女性と、獣耳と尻尾を生やした女性2人だった。
鎧の女性は真っ直ぐこちらに駆け寄り、獣耳の女性はすぐさま周りを警戒を始めた。
「なっ!? そ、それはっ……!」
鎧の女性が、私を顔を見るなり驚いた顔をした。
新作投稿開始しました!
3話を今日の19時10分程に投稿しますので、よろしくお願いします!
カクヨムと同時投稿です