9 あつつっ! 何じゃこりゃああつつつつっ――――!
(前回のおはなし)
鳥族は皆、雛のまま巣立つらしい。私達は美味しいからめちゃ狙われるんだって。生き残るには強くなるしかない。
だから、私は母さんにお願いした。
一突きさせてください、と。
「……それは、マナの守りも完全に解いて、ということか?」
コクリと頷く私。母さんは一度翼を羽ばたかせ、後ろへ跳んだ。
「ゆ! 許されるわけないだろう! そんなこと! 世界の理に反するのは確実だ! ダメだ! 絶対にダメだ!」
だろうね、私も確実に禁止事項だと思うわ。
私の秘策とは、世界の頂にいる母さんにワンパン入れて激ウマ経験値をもらっちゃおう、というもの。いやあ、この手だけは使いたくなかった。元ゲーマーの私としては。
母さんの起こした風で、私は壁際まで飛ばされていた。
のそりと立ち上がる。
「ですがねえ、世界の理の外から来た私達の身にもなってくださいよ。生まれていきなり世界の理を押しつけられ、殺されそうになっているんですよ。こっちは世界の理の外から来たのにです。あ、そういえば、母さんも世界の理に則って私達を見殺しにしようとしましたよね? 私達は世界の理なんて知りもしないのに」
世界の理って何回言った?
相手の弱点は徹底的に攻める、がゲーマーとしての私のモットーだった。今は命も懸かってるしね。
世界の頂にいる巨大鳥は、うつむいたまま黙ってしまった。
私は下から覗きこみ、「ねえ?」と。
「…………、……一突き、だけだ……」
わーい、母さん大好きー。
腰を下ろした母さんは嘴で腿の辺りを指す。
「ここを全力で突け。本当に全力だ。そうでないと無理だろう」
言われなくても。
キツツキも引くぐらいの振り幅で、私は母さんの脚を突っついた。
カーン……。
硬っ! まるで石だわ!
……脳すっごい振動した。
これ、ノーダメなんじゃ、と思った直後。
私は急激に体が熱くなるのを感じた。
あつつっ! 何じゃこりゃああつつつつっ――――!
…………。
や、焼鳥になるかと。っていうか、体から湯気出てんじゃん。
何か力が漲ってくる……。たぶん生命力がかなり増えた。
そうだ、まずは技能ポイント確認だ。
あ、私の一突き前のポイントは28ね。
では確認。
ヒナコ【世界樹雛鳥】
―――― 中略 ――――
取得可能技能 技能ポイント 1647P
……マジっすか。
……これは完全に、想定以上だ。せめて〈マナ戦闘〉が取れる100P入ればなー、くらいに思っていたから。
それがまさかの1647! もう、あれもこれも取れちゃうよ?
いいんですか? ほんとにいいんですか!
現状を現実として認識した途端、私の欲望は止めどなく膨らんだのである。
「……もう一突き、……もう一突き! いいですか! 母さん!」
「ダメだ! これ以上は本当にダメだ! 分かっているのか! お前は今の一瞬で、普通の雛が一か月の訓練で得る以上の成長を遂げたんだぞ!」
「それでも生存率10パーちょいでしょ! ね! お願い! あと一突き!」
人の欲望は果てしない。鳥の欲望も同様なのだ。
つい今しがた焼鳥になりかけたことも手伝って、私はあたかも熱病にはやし立てられるように母に詰め寄っていた。
おっと、ヒートアップしすぎてエセ文学風に。
けどマジで熱病かも。何か足元がグラグラ……、
ん? ほんとに揺れてる?
周囲を見回すと、私達の巣が、いや、世界樹自体が震動しているのに気付いた。母さんはもう大パニックだ。
「いかん! やはり世界の理に激しく反してしまった! やってしまったー!」
「いやいや、たんに風で揺れてるだけでしょ」
「バカ! 世界樹はどんな嵐でもビクともしない! こんな事態は八百八十五年生きてきて初めてだ! 本当にやってしまったー!」
「あ、母さん八百八十五歳なんですね。じゃきっと千年に一度の地震とかですよ。たまたまですって。そんなことより、ささ、どうかあと一突き」
私が食い下がっていると、突然、コハルちゃんが間に入ってきた。
最愛の妹は、私の顔をじーっと……。
「え? ど、どうしたのコハルちゃん。やだ、照れる」
彼女はフルフルと首を横に振った。
あ、もうやめた方がいいって?
……そっか、コハルちゃんが言うなら、やめとこうかな。っていうか、コハルちゃんそういうの分かる感じなんだね。
聖女な妹からストップが掛かったため、私と母さんの問答はここまでになった。大きな収穫が二つも得られたし、まあいいでしょ。
収穫1 合同訓練一か月分を凌ぐ急成長。
収穫2 母さんに対する優位。
あとは諸々の情報ね。そういえば、私にはまだ質問権が一回残っているんだけど、もういいかな。母さん、訊けば普通に答えてくれそうだし。
これで生き延びる算段はついた。確率は、コハルちゃんがいつ話せるようになるかで変わってくる。急かしたくはないけど、頑張って! コハルちゃん!
あとは十日後にしっかり追放されること。
ん? わざわざ追放される必要はないよね?
前日までに離脱、でいいじゃん。
そもそも見つかれば殺されるのに、誰が私達を追放してくれるっての。
この時の私は想像すらしていなかった。まさか十日後に、「あなた方は追放ですわ!」と何とも上品に突きつけられようとは。
今日はここまで。お読みいただき、有難うございました。
なんとランキング10位まで上がってこれました。
評価、ブックマークしてくださった皆さん、本当に有難うございます。
明日は戦闘シーンに入ります。
明日も複数話を投稿します。お読みいただければ嬉しいです。