7 何卒、追放の方でお願いしたい。
母さんを前に、私はポフッと腰を下ろした。
前世ではいじめを口実に(おっと)悠々自適のヒッキー生活を手に入れた私。これより腕、ではなく、手羽の見せ所でございます。
「では、最初に私が一つ質問して、それから母さんの質問、つまり私達の秘密を明かします。そして、最後にまた私が質問。これでどうです?」
「ああ、それで構わない」
「じゃ私から。訊きたいことは、母さんがどれくらい強いのか、です。その美しくも荘厳な容姿から察するに、世界的に見ても相当な強者ではないですか?」
「ま、まあね。世界でも私の力は上位にある」
まんざらでもない感じですな。
うし、どんどん気持ちよくなってもらって、どんどん喋ってもらおう。
「他の種族を含めても、母さんに敵う者なんていないんじゃないですか?」
「うむ、そうはいないだろう。空では我ら鳥族と拮抗する竜族でも、私の姿を見ただけで逃げ出す者が多い。五百歳を超える上位種も私の速度には到底及ばないのだからね。また、地上で大きな顔をしている狼族も同様さ。開けた場所では、為す術なく私に狩られる他ない」
……ちょっと突ついたらすごく喋ってくれたわ。
ほうほう、やっぱり鳥以外にも色々な種族がいるのね。ヤバいのは、空では竜族、地上では狼族、か。
って母さんいったい何歳だ? 数百年は生きていそうだな。お、じゃ私も? やった、人外転生、悪くないじゃん。
前世が短かった分、今世は長生きさせてもらうよー。
さて、そんな世界のトップ集団に位置する母さんは、実際どれほどのものなのか。温まってきたし、今ならいけそう。
「母さん、〈マナ戦闘〉のレベルを見せてくれませんか? 生まれ立ての雛に、世界の頂を教えてください」
これに、先ほどは雄弁だった巨大鳥が黙ってしまった。
一方、私は心の中でガッツポーズしていた。もちろんね、レベルを見せてくれるに越したことはないけど、狙いは別にあった。
母さんがよく口にする、世界の理。それの縛り度合いを確認しておきたかったの。もし絶対に破れないルールなら、この後はちょい厳しい。
でもどうやらそうじゃないみたい。すぐに断らなかったからね。
考える余地があるってことは、破ることも可能ってことでしょ。
たぶん、きちんと守りましょう、的な校則のようなものじゃないかな。や、校則は守らなきゃダメだよ、きちんとね。
世界の理はそれほど厳格じゃない。
まあ、母さんの戦闘能力はいずれ分かるはず。
もしかしたら、〈マナ戦闘〉はレベル100を超えてるかもしれないけど、世界の頂ならそれくらいあっても驚かないよ。
などと思っていると、母さんは視線を返してきた。
「調子に乗るんじゃない。〈マナ戦闘〉に関しては、軽々しく話していいものじゃないんだ。それこそ世界の理に反する」
はいはい、今はそれで構いませんよ。
……ん?
彼女は私の方をちらちら。嘴が微かに動いている。
傍に寄って耳を澄ました。
「……8125、だ」
おおう……、
レベル、8125っすか……。
……私のスカウターが爆発しそうだよ。
あっと、まずはちゃんと反応を返さないと。
私はやや大げさに、仰向けに倒れて見せた。
私、ひっくり返ってばかりだわ……。
「は! はっせん! はっせんひゃくにじゅうごっ! ……はぁはぁ、わ、私の予想の、遥か上、をいきました……。本当に、びっくりしました……」
「ふふ、そうかい。まぁ、世界の上位でも私ほどの者はごくわずかだよ。安心するといい」
うん、嬉しそう。よかったよかった。
けど、驚いたのは事実だ。
ポイント換算すると81万。私は100貯めるのにも四苦八苦しているというのに。ネトゲで仙人級の廃プレイヤーに遭遇した気分だよ……。
母さん、マジで数百歳だな。いや、千歳超えてるかも。
わー、すごく満足げな顔してる。誰かに自慢したかったんだね。世界の理のせいで、おいそれとできないもんね。
しっかしだ、世界の頂は想定以上に銀河の向こうだわ。
「……まあ、私は地道にコツコツ強くなっていこうかな」
「いいや、そんな時間はないだろう」
「え? 私の成長速度だと巣立ちはまだまだ先ですよね?」
「ああ、謝肉の日は一か月以上先だ。だが、お前達二羽に残された猶予は十日程度と考えた方がいい」
「何ですか、謝肉の日って……。だから、どうしてそんなに短いんです? 十日後、私達はどうなるんですか?」
「世界樹から追放される。もしくは二羽とも殺される。可能性としてはこちらの方が高いな。理由は決まっているだろう」
母さんはもったいつけるように、少しの間をおいた。
「お前達は、世界の理に反したからだ」
えー、世界の理、めっちゃ厳格だー。
何卒、追放の方でお願いしたい。
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