4 私マジで素敵種族か? ふっふー!
生後五日目。
あ、弟と戦った翌日ね。
やっぱり自分の能力はちゃんと把握しておかないと、って思うわけだよ、私は。
まずはあのウィンドウをもう一度呼び出したい。とっさに開いたあれ以来、全然出てくれないんだよね。私の思いで開けたんだから、念じればいいだけだと思うんだけど。
他に条件でもあるのかな? 思い出せ、昨日は確か……。
ふと、仰向けに寝てみた。
開け! ウィンドウ!
――何も起こらない。
いや出ないよ! 出るわけないよ! ひっくり返るってどんな条件だ!
もう、鳥語が分かれば母さんに聞けるのに。
とりあえずもっと色々試してみよう。暇だし。んーと、そうだ、合言葉やキーワードかもしれない。
あの時は、何かないの! って考えた。合言葉とか入る余地なくない? まあ適当にいっぱい言って(思って)みるかな。
何かくれ! 何かこい! 何か開いておくれ! 開いてくだされ!
と不意にウィンドウが現れた。
まさか、開いてくだされ! か……?
そんなわけない。私は気付いた。まばたき、だ。えっと、一旦消してから、ウィンドウを出す意思で、まばたき。ほら、開けた。
前回の技能取得ページとは違って、私のステータスが表示されている。
そう念じたからね。
ヒナコ【世界樹雛鳥】
マナレベル 0
火霊レベル 0
風霊レベル 1
地霊レベル 0
雷霊レベル 0
水霊レベル 0
取得技能一覧
ん? 私の名前、前世のままか。
っていうか、ステータスってこれだけ? HPとか攻撃力は? それより、この巨木ってほんとに世界樹なんだ。
世界樹が家ってすごくない?
タワマンなんて目じゃないよ。実際、そこまでいいものでもないけど。特典といえば、高所すぎて足を踏み外せば即死確定なことくらい……。
いや、そういえば私、家族以外の生きてる生物をまだ見ていない。普通はいるよね、外敵が。他の鳥だったり、蛇だったり。あまりに高くて近寄れないのか、あるいは聖なる何かに守られているのか。
私って実はなかなか素敵な種族に生まれたのかな? 名前に世界樹が入ってるくらいだし。
あとは取得技能一覧か。
念じて次のページに進むと、あるのは当然〈風迅蹴り〉だけ。
ここからさらに技能取得に入る。昨日見たページね。
ちらっとだったけど、攻撃スキルだけでもかなりの数あった気がするんだよ。
雛段階からそんなに選べるなんて、私マジで素敵種族か? ふっふー!
取得可能技能 技能ポイント 16P
〈マナ戦闘〉〈マナ感知〉
〈火穿突き〉〈風穿突き〉〈地穿突き〉〈雷穿突き〉〈水穿突き〉
〈火迅蹴り〉〈風迅蹴り〉〈地迅蹴り〉〈雷迅蹴り〉〈水迅蹴り〉
〈火の翼〉 〈風の翼〉 〈地の翼〉 〈雷の翼〉 〈水の翼〉
〈火の眼〉 〈風の眼〉 〈地の眼〉 〈雷の眼〉 〈水の眼〉
〈火の歌〉 〈風の歌〉 〈地の歌〉 〈雷の歌〉 〈水の歌〉
〈攻撃強化〉〈防御強化〉〈敏捷強化〉〈羽毛強化〉
〈火抵抗〉〈風抵抗〉〈地抵抗〉〈雷抵抗〉〈水抵抗〉〈毒抵抗〉
……あ、攻撃スキル、実質五つだわ。
それより、……えらいこっちゃ。私、やってもうてるやん。
前世では生まれも育ちも東京の私が、思わず関西弁になるほどのやらかし。
まず、この技能ってじっと見つめていると、効果なんかのイメージが勝手に頭に流れこんでくるのね。
それで気付いたのよ。最優先で取らなきゃいけないスキルに。
順を追って説明すると、この世界にはマナと呼ばれるものがある。
色々と便利に使えるオーラみたいな感じだね。身に纏えば攻撃は威力が上がるし、ダメージの軽減もしてくれる。だけじゃなく、体の機能全般を補助してくれるの。いわば強化スーツだ。着てる着てないじゃ雲泥の差。
これを着用するための技能が〈マナ戦闘〉で、レベルを0から1にすることで最初のスイッチが入る。
最優先で取らなきゃいけないスキルだ。
ちなみに〈マナ感知〉は周囲や向き合った敵のマナを知覚する能力。こちらも重要で、優先順位二位の技能と言える。
〈マナ戦闘〉と〈マナ感知〉のレベルを足したものが、最初のページのマナレベルになるみたい。いわゆる総合力だね。
とにかく、〈マナ戦闘〉が一番大切なのは疑いようがない。
マナは私の体の中を巡っているらしい。これをどれだけ引き出せるかが〈マナ戦闘〉のレベルで決まる。
言い換えれば、〈マナ戦闘〉は攻撃力であり、防御力であり、素早さだ。そして、全ての攻撃スキルの威力に直結するものでもある。
ね? めちゃくちゃ大切でしょ?
私は〈風迅蹴り〉を開いた。
そこには正式名称、〈風迅蹴り〉レベル1、と表示されている。これの取得に昨日私は100P注ぎこんだ。さらに100P振りこめばレベルは2になる。技能は全部同じシステムらしく、ポイントを使ってどんどん強くしていくみたい。
で肝心のポイントはどうやって貯めるかというと……。
自分の羽毛に嘴を突っこみ、中を探る。
取り出したのは、今朝のゴハン時に残しておいたお肉。日を追うごとに私はもふもふになっている。もう内部に非常食を収納できるほどだ。
ポイントを睨みながらお肉をついばむ。
結構な量を食べきってしまう直前で、16Pから17Pに変わった。
どうにか上がったか。そ、食べることでポイントは増えるのさ。けど思ったよりペースが遅い。生まれた時を0Pって仮定するなら、今までのゴハンじゃ100には届かない気がする。
考えられるのは弟との戦闘だよね。やっぱ食事より戦闘か。そりゃそうだ。
ともかく、私は〈マナ戦闘〉に捧げるべき100Pを使っちまったわけよ。
残りのお肉をたいらげると、私は巣の壁を登った。
広い世界を見渡す。
きっと多くの生物が似たような技能システムを持ち、そのほとんどが〈マナ戦闘〉を取得している。私一羽、強化スーツなしで生きていけるわけない。
巣立ちまであと何日だ?
もう戦う相手もいないし、ゴハンだけで100貯まるの?
って言っても、〈風迅蹴り〉を取らなきゃ昨日の時点で死んでたんだよね。攻撃スキルとしては当たりを引いたと思う。この技は相当応用が利く。
もしかしたら、ここから足を踏み外しても助かるかもしれない。
なんて思わなきゃよかった。
前ぶれなしの突風が私の背中を押した。日を追うごとに私はもふもふである。
ヤバい! これ! 堪えきれな……、い?
すでに足場はなかった。
まあ、もう体は巣の外で、あとは落下するのみってこと。
この刹那、私の脳裏には昨日見た弟の最期の姿が浮かんだ。
言ってる場合か!
ぶっつけ本番だけどやるしかない!
〈風迅蹴り〉逆噴射!
ビュオ――――……、モフッ。
下からの程よい風を受け、私は巣の中へと戻ることに成功した。
……う、上手く調節できた。危機一髪、だわ……。
ひっくり返って安堵していると、いつの間に戻ってきたのか、目の前には覗きこむ母さんの顔。すごい形相だ。言葉が通じなくても分かる。
あんた! なんて危ない遊びしてるの!
とでも言いたげ。誰も好き好んでこんなことしないよ。
っていうか、さっきの突風、母さんの羽ばたきじゃないの?
何にしろあれだわ。
〈風迅蹴り〉、取得しておいてマジよかった……。
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