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31 ただし、私達は普通の雛の十倍強いよ。

 離陸体勢に入った私。コハルちゃんの羽毛から光るホワホワが分離するのが見えた。ジョセルカに向かって飛んでいく。


 あれは私をクズ呼ばわりした光の精霊じゃん。

 お嬢様には適性があるってか? あんの尻軽精霊がー!


 まあジョセルカならいっか。

 これで、またドラゴンが登ってきても一羽で倒せるし安心だわ。私だけ仲間外れ感が半端ないけど、グッジョブと言ってあげるよ光の精霊。

 もう心残りはない! 行くよ!


 地面を強く蹴り、樹の淵から飛んだ。

 すぐに〈風の翼〉レベル26を発動。

 安定飛行からマナ量を上げて高速飛行へ。

 さらに〈敏捷強化〉レベル10×2で加速する。

 この技は動体視力も良くなるので、ここで〈風迅蹴り〉レベル18を使って最終加速だ。


 一連のコンボが私のオリジナルスキル〈ヒナコジェット〉。

 今や私は戦闘機並みの速度で飛べる雛鳥なのだよ。


 これを確立させるために、主力戦技三つの内二つを風属性にした。

 弱肉強食の世界で大事なのは生き残ること。とにかく逃げれば何とかなる。

 なお、〈ヒナコジェット〉の強みは機動力にあるよ。

 今回のように一方向に飛ぶ場合は、〈風迅蹴り〉の微調整でスピードを殺さずに軌道修正が可能だ。


 私はコハルちゃんを背に乗せ、世界樹の枝を次々にかいくぐっていく。


 あ、もし巨大鳥とのデッドヒートを期待した方がいたら申し訳ない。さっき言った通り〈ヒナコジェット〉の速度は戦闘機並み。発動した時点で逃げきり確定なの。

 私より速く飛べる親鳥は、まあ結構いるだろうね。

 けど今回は距離が短い。だから本格飛行に入ったもん勝ちだ。


 行きは数十分掛かった道のりを、わずか十秒ちょいで帰ってきた。

 巣の直前、逆噴射で減速する。母さんが広げた翼にボフッと突っこんだ。


「よく戻ってきたよ。ほらヒナコ、食べておきな」


 と母さんは嘴で足元の猪を指す。

 わーい、バンガム猪だー。

 〈ヒナコジェット〉は複数の戦技を同時に使う上、マナもかなり注ぎこむから消耗が激しい。


 食べながら追跡者の動向を探る。私達が巣に辿り着いた時点で、追うのをやめたようだ。どうやら仲間を集めてから乗りこんでくるつもりみたい。

 少し時間ができたね。

 最後に母さんと話しておきたかったからちょうどよかった。

 ほんとにこれが最後になるんだから。

 私の視線に気付いた母さんが微笑んだ、ように見えた。


「心配いらない。あとは私が何とかしてあげるよ」

「あ、うん。……ねえ、まだ私に質問権が一回残ってたの、覚えてる?」

「私を一突きした時のやつか? 今さらだろう」

「そうだけど、今ここで使うよ。私達に、母さんの名前を教えて」

「…………、いいよ。許可したから見るといい」

「母さんの口から直接聞きたいんだよ」


 母さんは一呼吸の間をおいた。


「……エルセリス。私の名前はエルセリスだ」

「エルセリス母さん、今日まで育ててくれてありがとう。母さんの娘じゃなかったら、私もコハルちゃんも生きていられなかったよ」


 ここで他の親鳥達が集団で近付いてくるのを感知。

 母さんは私達姉妹を翼で覆い隠した。


「騒々しいな。揃いも揃って何の用だ」

「しらばっくれても無駄ですわ。まさかあなたほどの神獣がこんなことを……」


 ん? ですわ、ってこの喋り方、もしや?

 私は羽の隙間から、相手方の代表者の親鳥を確認する。

 母さんと同じ【神威真鳥】で、くるくるの前髪。

 たぶん、ってかほぼ確実にジョセルカのママだね。


 それにしてもすごい顔ぶれだ。怪獣大集合といった感じ。羽の生えたドラゴンに、グリフォンに、あっちのはライオンの顔してるね。

 これが全部鳥族で、同じ【世界樹雛鳥】の卵を産むんだから不思議で仕方ない。

 やって来たのは十……六羽か。力のある個体ばかりだ。

 それでも大体が母さんの半分ちょい。これは私の予想なんだけど、ここより下の鳥だと、戦闘になった時に母さんに瞬殺されるからじゃないかな。戦力外ってこと。逆に言えば、集まった十六羽が束になってかかれば母さんを倒せるってことだよね。

 やっぱりバトルは避けないと。

 私からすればどれも雲の上の化け物だから、一羽だって受け持つのは無理よー。

 頼んだよ、母さーん。


「そもそもお前に言う資格はないよ、ジョアンネ。私から長の座を引き継いだ途端、趣味を全開にして。神たる者が人間の貴族の真似事など、恥を知れ」

「す! 好きなものはしょうがないでしょう! 私は世界の理は破っていませんわよ!」


 周りの神獣から白い目で見られ、ジョセルカのママ、ジョアンネは大慌てだ。

 これに母さんはフッと笑った。


「私も世界の理は破っていないぞ。この私が破るわけないだろう」

「でしたらその翼の下の二羽はどう説明しますの!」

「この子達は、世界の理の外から来た。よって、世界の理は適用されない!」


 時間が止まった。


 ……母さん、何とかしてあげるって、それで押し通るつもりだったの?

 しょうがない、私が出るか。演技はポンコツだけど、人(鳥)を言いくるめるのには自信があるからね。

 コハルちゃんに目で合図を送り、一緒に母さんの翼から姿を現した。


「え……? な、何ですの……、……このステータスは」


 ジョアンネ始め、大人達は私達姉妹に釘付けだ。

 そう、彼女達は今初めて私達のステータスを見た。もうマナも抑える必要はないので通常に戻してある。

 おたくら化け物と比べたら大したことないけど、他の雛鳥と比べたら充分に化け物でしょ?

 さて、出だしは上々。始めますか。


「その通り。私達は世界の理の外から来ました。さらに言えば、私達は世界の理に選ばれ、この世界に呼ばれたのです。こちらのコハル様の戦技をご覧ください」

「光属性ですわ! まさか光の精霊と契約を……!」


 よかった、驚いてくれたわ。今頃あなたの娘さんも契約してるよー。


「当然です。コハル様は聖女として遣わされたお方。光の精霊を従えるなど容易いことです。そして、この私はコハル様をお守りする騎士としての使命を授かった者。十日ほど前に世界樹が二度大きく震動したのを覚えておいでですか? 最初の震動は私が孵化した際、次の震動はコハル様が孵化した際に起こったもの。世界樹が私達の誕生を祝福したのです!」


 あら、母さんが「よくそんなデタラメを」って目で見てくる。

 いいからいいから。利用できるものは何でも利用するのよ。


「また、先ほどの揺れ(ジョセルカに突かれたやつ)は私達に旅立ちの時がきたことを告げるもの。邪魔をしてはなりません! 私とコハル様を阻む者は世界樹の怒りに触れるでしょう! 絶対に邪魔をしてはなりません!」


 ここはしっかり強調しとかないとね。

 世界樹を離れた雛鳥に手を出すのはタブーらしいけど、絶対の保証なんてないでしょ? このクラスの神獣に襲われたら為す術はない。別に信じたわけじゃないけど、何か手を出したくないな。くらいに思ってもられればそれでオッケー。呪いとか迷信と同じだね。


 と周囲の葉や枝がザワワ! と鳴った。

 たぶん世界樹からの、勝手なこと言うな! って苦情。


「ほら! ご覧なさい! 世界樹も同意を示しています! 私達に手を出せば恐ろしい罰を受けますよ! 本当に!」


 鳴っていた音がぴたりと止んだ。

 何かしても私に利用されるだけだと気付いたみたい。でももう遅い。

 今の援護で効果は確定的だわ。


 親鳥達は皆、周りをきょろきょろ。

 体格に似合わず、揃って挙動不審だ。


「ヒナコちゃん、私も彼女達に言いたいことがあるの」


 と小声でコハルちゃん。

 何だか分からないけど了解っすー。


「では、コハル様からも彼の者達に一言いただけますか?」

「あなた達は世界の理が何たるかを知らない。今一度、しっかりと考えなさい。見誤ったままでは大切なものを失い続けることになるわよ」


 ……コハルちゃん、期待以上のコメントしてくれた。

 皆さん、信じられますか? この子、前世はセキセイインコですよ。上位の神獣達にビシッと説教しましたよ。

 堂々と言い放った姿は完全に聖女だ。


 さて、じゃそろそろ仕上げといくか。


「もう疑いようもないでしょう。並の雛鳥を遥かに超越したこの能力。そして、至高の神獣エルセリスの元に生まれた事実こそ何よりの証。私達は世界の理に選ばれたのです」


 今回は母さんも胸を張る。

 知ってるよ、嫌いじゃないよねこういうの。


 あちらも充分すぎるほど萎縮してくれたし、ここらで巣立つかな。

 実は、今みたく包囲された状況下での脱出方法は打ち合わせ済み。

 念には念を入れてそれを使うよ。

 私が視線で合図すると、母さんは片方の鉤爪をクイッと後ろにかいた。


 ドバンッッ! と巨大な巣の半分が吹き飛ぶ。母さんの〈風迅蹴り〉だ。


 すぐ近くに完成した絶壁を前に、私はもう一度母さんを見上げる。

 ほんとにこれが、最後の最後。


「いつか、母さんの国を見つけて会いにいくよ。待ってて、エルセリス母さん」

「ああ、楽しみにしているよ。ヒナコ、コハル、元気でな」


 色々な想いを振り切るように、私達は飛んだ。

 空中で向き直ると、巣は光る球体に覆われていた。誰にも追わせないために母さんが展開した結界になる。

 これが緊急時の脱出法。

 母さんから私達へ、最後の甘やかしだった。


 上空四千メートル超からのスカイダイビング。

 もふもふの羽毛の空気抵抗で結構ゆったりだ。【世界樹雛鳥】が持つこの特性のおかげで安全に地表まで行くことができる。

 まあ、〈ヒナコジェット〉の大きな枷にもなってるんだけど。

 地面が近付くと、念のため〈風の翼〉で私とコハルちゃんを保護した。

 ふわりと下界に降り立つ。


 直後に四方八方から突き刺すような殺気が。


 そういえば、【世界樹雛鳥】が巣立つ時の〈マナ戦闘〉レベルは大体5とか6とか、その辺らしい。

 私達?

 では二羽のステータスをご覧あれ。



ヒナコ【世界樹雛鳥】


取得技能              技能ポイント 2086P


〈マナ戦闘〉レベル57 〈マナ感知〉レベル52


〈雷穿突き〉レベル28 

〈風迅蹴り〉レベル18

〈風の翼〉 レベル26


〈攻撃強化〉レベル5 〈防御強化〉レベル5 〈敏捷強化〉レベル10


〈火抵抗〉 レベル5 〈風抵抗〉 レベル5 〈地抵抗〉 レベル5

〈雷抵抗〉 レベル5 〈水抵抗〉 レベル5 〈毒抵抗〉 レベル5



コハル【世界樹雛鳥】


取得技能              技能ポイント 2051P


〈マナ戦闘〉レベル51 〈マナ感知〉レベル58


〈光穿突き〉レベル28

〈風迅蹴り〉レベル4

〈水の眼〉 レベル19

〈光の歌〉 レベル20


〈攻撃強化〉レベル5 〈防御強化〉レベル5 〈敏捷強化〉レベル5


〈火抵抗〉 レベル5 〈風抵抗〉 レベル5 〈地抵抗〉 レベル5

〈雷抵抗〉 レベル5 〈水抵抗〉 レベル5 〈毒抵抗〉 レベル5



 さて、捕食者の皆様方、来るならお相手しようじゃない。

 ただし、私達は普通の雛の十倍強いよ。

ここまでお読みいただき、有難うございました。

評価、ブックマーク、いいね、感想、本当に有難うございます。

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[良い点] これで終わりとは残念すぎる…! ジャガイモ聖女も途中まで読んでいましたがこの作品が一番好きです。できれば再開を希望したいところです。
[良い点] 母ちゃんもお嬢様鳥もクズ鳥も素敵です [気になる点] マトモすぎてラスト以外若干影が薄いぞ妹ちゃん まわりが濃いともいう [一言] 下界編も芋娘編も楽しみに待ってます
[一言] 連載お疲れ様でした!とても面白かったです ずっと見てたので完結はかなり寂しいですが、世界観が共通みたいなので本編のジャガイモの方でヒナコたちが出てきてくれるのを楽しみに待ってます!
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