30 一か月後に会おう!
竜の口からピョンと飛び下りた。
いつまでもこんな劣悪な物件に住んでられないよ。
雛鳥を食べそこねたドラゴン。数秒間、警戒するように私を見つめていたが、前脚を振り上げて襲いかかってきた。
レベル低くても〈マナ感知〉使えるんだから実力差は分かってるだろうに。上位種のプライドってやつ?
いいよ、こっちも応えてあげる。
〈風の翼〉レベル26。
ズババババババババ――――ッ!
両の羽から発生した風の刃が、幾重にもなって竜の巨体を斬り裂いた。
ズズン! と地面に倒れる。
その様子を見ていたジョセルカがぽつりと。
「い、一瞬で……」
「結構抑えたんだけどね。あ、やっぱポイント全然入らないや」
一応ステータスを確認していると、コハルちゃんが小走りで。
「親鳥達が怪しみ始めたわ。すぐに離脱しましょ」
「離脱って、どういうことですの?」
「私達、今日巣立つんだよ。訓練はちょっと覗きにきただけ」
「今日! 一か月も早いですわよ! ……まあ、あなたならもう下界で生きていけそう、ではありますわね。……相当余裕で」
ドラゴンの骸を眺めながら、ジョセルカはしみじみと呟いた。
私は羽毛から鳥の巣ボールを取り出すと、彼女の嘴に突っこむ。
「あげるよ、ジョセルカ。私、あんたが気に入っちゃった。友達になろ。私のこともヒナコって呼んで」
お嬢様はマナーができてらっしゃる。まず口の中のものを片付けた。
「大変美味でしたわ。人間が作ったものですわね?」
「人間を知ってるの?」
「ええ、私の母は人間社会の上層教育を私に施していますのよ」
「だからその喋り方か……。それ、世界の理に反しないの?」
「そういえば、母からは他言無用と言われていましたわね。ですが命を救ってくれた親友になら話してもいいでしょう。ヒナコ、私もあなたを気に入りましてよ」
大切な秘密を教えてくれたわけね。
けど、他の親鳥も世界の理をそこそこ破ってんじゃん。私達が姉妹ってバレても、案外大丈夫なんじゃないの?
「ところでヒナコ、ずっと一緒にいらっしゃるそちらの方を紹介してくださる?」
「ああ、言ってなかったね。この子はコハルちゃん。私の妹だよ」
すると、ジョセルカは絶句。
たまたま後ろで聞いていた雛鳥から「妹」「妹」「妹だって」「姉妹らしいよ」と、伝言ゲームのように訓練場中に広まっていった。
……これはもしや、私またやっちゃった?
コハルちゃんに目を向けると、ただただ、ため息。だよねー。
しばらくの静寂ののち、怒涛の叫び声が。
「姉妹だ!」
「姉妹がいるぞ!」
「世界の理に反した姉妹よ!」
「禁忌の姉妹だわ!」
何だよ、禁忌の姉妹って。
ここでジョセルカが凛としたよく通る声で「静粛に!」と。
騒いでいた雛鳥達は一斉に黙った。
「この禁忌の姉妹には、最も強き者である私が裁定を下しますわ! 異論はございませんわね! …………。よろしい。では、全雛鳥を代表してその総意を伝えます。ヒナコ、コハルさん、あなた方は追放ですわ!」
できたばかりの親友から追放宣言されたー!
友情に亀裂入るの早すぎ……。
ん……?
ジョセルカがスッと顔を寄せてきた。
「早くお行きなさい。世界樹を離れてしまえば大人達は手出しできませんわ」
「今の、私達のために? どうしてそこまで……?」
「私も可能なら兄弟達と共に生きたかった、ということですわ。それに、親友を助けるのは当然でしょう」
「ジョ、ジョセルカ――!」
と抱きつこうとした私の上に、コハルちゃんがのしっと乗ってきた。
「聞き耳をたてていた何羽かが来る。もうヒナコちゃんのアレでないと逃げきれないわ。急いで」
「ラ、ラジャーっす。頑張ります……」
心配そうなジョセルカの眼差しに、私は頷いて返す。
今は一秒でも惜しい状況だと互いに分かっていた。
大丈夫だよ。私、逃げ足の速さには自信があるから。なんせ、私の信条は、嫌なことからはさっさと逃げる、だからね。
それを貫けるスキル振りにしてある。
最後に、私とジョセルカは意思を確かめ合う。
「ジョセルカ! 一か月後に会おう!」
「ええ! 必ず!」
よし、見せてあげようじゃない。
新開発のオリジナルスキル、〈ヒナコジェット〉を!
次話、巣立ちです。
一旦、そこで完結させようかと思っています。
下界編はまたおいおいということで何卒。
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