3 何だこれ、世界樹か?
弟との死闘から程なくして、母さんがゴハンと共に帰ってきた。
彼女は私を二度見した。あたかも、ここに私がいるのが信じられない、って感じで。それから、卵も見た。
母よ、すでに私と卵が始末されていて、残っているのは弟だけだと思ったか?
さすがにね、私も分かってきたよ。
弟はおかしなことは何もしていなかった。おかしいのは私の方だったんだ。
巣立ちを迎えられるのは一羽のみ。他の兄弟を葬らなければ自分が生き残れない。それがこの鳥の生態なんだろう。
その点で言えば、私はめっちゃ恵まれていたんだね。
卵全部を外に放り出す時間は充分にあったから。
うちの巣って実はかなり広いんだよ。親鳥が巨大ってのもあるんだろうけど、場合によっては複数の雛でデスマッチなんて事態もあるからじゃないかな。
で母さんはずっと催促してたわけよ。「娘よ。なぜ卵を捨てない?」って。
いや鬼か! あんたの産んだ卵だろ!
悪いけどね、今回は二羽で巣立たせてもらうよ。私の食べる分を減らしてでも、生まれてくる末っ子に分ける。
なんて考えつつも、私は運ばれてきたゴハンにがっついていた。
仕方ないじゃん。ほんと危ない状態だったんだもん。
この世界では、食べるって行為はすごく重要らしい。
そうそう、ここが地球じゃないってことも薄々気付いてたよ。ついにスキルなんてものまで出てきたから、もう認めるしかない。
ここは異世界だって。
今食べているこれも鼠じゃなく猪的な何か。
そして、私は相当でかい雛鳥だ。あくまでも前の世界の基準からすればだけど。
あともう一つ、目を背けていた事実がある。
うちの巣があるこの巨木ね、一本だけ信じられない大きさなのよ。
眼下に見える木々と比べるに、たぶん東京タワー、いや、スカイツリーより遥かに高い。
何だこれ、世界樹か?
だったらすぐに異世界って気付くだろ! とか言わないでね。そんなことを言う人は、一度鳥に転生して兄弟とのサバイバルを経験してみればいい。
人外に生まれたってだけでも結構な衝撃なのに、世界まで違うなんて簡単に受け入れられることじゃないのよ。ラノベじゃあるまいし。
で、話を戻すと、食べるのは大事ってこと。
一口ついばむごとに力が戻ってくるのを感じる。むしろ増えてる気さえする。HP的な何かが上がっているのかもしれない。
ゴハンが済むと、瀕死だった私はすっかり元気になっていた。
ピョンピョン跳ね回りながら体を動かす。
力が戻ってきたのが嬉しくてつい。前世では超インドア派だった私が、ここまでアクティブになるなんて。
見よ! この軽いフットワーク! 蹴り! 蹴りっ! 〈風迅蹴り〉っ!
ギュルルと舞った風が巣の壁面上部を削っていった。
……や、やっちゃった。
〈風迅蹴り〉って中距離攻撃のスキルだったんだ。
私は母さんにペコリと頭を下げ、マイホーム破壊を詫びる。
すると彼女は翼の羽で私の頭にそっと触れた。まるで撫でるように。やや目を細めたかと思うと、大きく羽ばたいて飛び去った。
何となく、初めて愛情のようなものを感じることができた。
きっと母さんは決めたんだろう。私を育てるって。
お読みいただき、有難うございました。