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29 暗っ! 狭っ! 湿りすぎっ! 私とうとう捕食されたーっ!

 体にしっかりマナを纏ったジョセルカが一気に距離を詰めてきた。洗練された突っつきに脚技。私は一つ一つ観察しながら避けていく。


 このお嬢様、ほんとに自主トレ頑張ってたんだ。たぶん他の雛鳥じゃ相手にならない。速攻ノックアウトだね。私には絶対当たらないけど。


「避けてばかりでは私は倒せませんわよ!」


 だから避けるしかないんだって……。

 でもこの決闘、どうやったら終わるの? 向こうのスタミナ切れを待つかなー。


 回避し続ける私。それでもジョセルカは何とか当てようと、懸命に攻撃を繰り出してくる。


 ……ちょっと、可哀想だね。

 一発だけもらってあげようかな。

 確かに能力差は大きいけど、そこまで劇的な経験値は入らないよね? 私、母さんじゃないんだから。分からないくらい少し上がるだけだよ、きっと!

 なるべく自然な感じで、彼女の突きを体で受けた。


「うわっ! いったー! 当たっちゃったー!」


 ……演技の方がすっごい不自然に。私、母さんに負けず劣らずポンコツだ。

 と世界樹がグラッと震えた。


「こ、これはどういうことですの……?」


 ジョセルカは虚空を見つめて立ち尽くしていた。

 自分のステータスを見ているのだと気付き、私も確認。



ジョセルカ


技能ポイント 57P → 182P



 全然分かるくらい上がったー!

 世界樹にも怒られたし、完全にやっちゃいけなかったやつだ!

 ポイント100P以上入ってる。スキル一つプレゼントしちゃったようなもんか。そらあかんわ。


 我に返ったジョセルカがずずいと私の所に。

 嘴が触れちゃう。まだ早いからー。


「ヒナコさん! あなたのステータスを見せてくださらない!」

「み、見たけりゃ力づくでやってみな」

「できないから頼んでいるのですわ! あなたはどれほど」

「ちょっと待った。下から何か来るよ」


 誤魔化しじゃなく、ほんとに樹を登ってくる奴がいる。〈マナ感知〉によればかなりのデカさだ。


「ドラゴンっぽいかな。っていうかドラゴンだ」

「そんなまさか! いけませんわ!」


 ジョセルカは広場の端、樹の淵に向かって駆け出した。私とコハルちゃんも後を追う。すぐに視線の先で、竜がヌッと頭を覗かせた。



ナルセン【世界樹幼竜】


取得技能


〈マナ戦闘〉レベル2 〈マナ感知〉レベル1


〈火の息〉 レベル1



 昨日、広域感知した時に気付いた。この世界樹には鳥族以外にも様々な種が棲んでるって。ほとんどが私達より低い高度の住民。

 ちゃんと棲み分けできてるのかと思ったけど、そうでもないみたいだ。


「幼竜のくせにデカいな。都バス超えてるよ」

「トバス? おそらく竜の上位種ね」


 コハルちゃんとそう話す横を、雛鳥達が大慌てで逃げていく。

 一方のジョセルカは、一羽だけ戦う気まんまんだ。


 やめときなよー、絶対に勝てないからー。

 大人の鳥達は……、動く気配なしか。


「親鳥達は助けにこないんだね。これも自主性を重んじて、ってやつ?」

「ええ、私達が乗りこえなければならない試練ですの」

「だからって、どうしてジョセルカさん一羽で? 皆でやればいいじゃん」

「本来ならそうしますが、まだ訓練初日。全員が戦いに不慣れで怯えきっていますわ。けれど、誰かが立ち向かわなければ被害が出るでしょう。最も戦える私の務めですのよ」

「最も戦えるのは私達だよ。頼まないの?」

「他者に甘えるより、まず己の為すべきことを。ですわ」


 ……このお嬢様は、高貴なだけじゃなく高潔だ。


「ただ、ヒナコさんにいただいたポイントは有難く使わせていただきますわね」


 〈マナ戦闘〉のレベルを上げたジョセルカは、「ごきげんよう」と言い残して走り去った。彼女に続く雛鳥はいない。

 それでも構わずドラゴンに向かっていく。


「私達が戦えば、間違いなく感知される。仕方ないわね」


 そう言ってコハルちゃんは腰を下ろした。

 私も隣に座り、勇敢な雛の戦いを見守る。


 やはりジョセルカの劣勢は明らかだった。

 技能では上回っていても、パワーと体格に差がありすぎる。

 スピードで撹乱しつつ攻撃を重ねるが、相手の太い脚や尻尾の一撃でその何倍ものダメージを受けた。


 もうこれ以上は無理だね。こうなるって分かっていたでしょ。だからやめとけばよかったんだよ。

 …………。


「コハルちゃん、急いで巣立つことになってもいい?」

「言うと思ったわ。私はヒナコちゃんがただのクズじゃないと知っているもの」


 ついに体の動かなくなったジョセルカは爪で高く跳ね上げられる。

 下ではドラゴンが口を開けて待っていた。


 食べられる寸前で、助けに入った私がキャッチ。

 しようと思ったら互いのもふもふな羽毛が反発し合い、彼女を弾き飛ばしてしまった。そもそも手羽先でどうやってキャッチしろと。

 あ、ヤバ。

 と思った時には、私が代わりに食べられてた。


 バクンッ。


 暗っ! 狭っ! 湿りすぎっ! 私とうとう捕食されたーっ!


 いや、もちろん大丈夫なんだけどね。初めて大型肉食獣の口に入ったんだもん。多少は気も動転するって。

 おっと、気が動転してるのは私だけじゃないみたい。外からお嬢の悲鳴が。

 呑みこまれないように鉤爪を引っかけていた私は体を伸ばす。

 ガパッと竜の口を開いた。


「じゃじゃーん! びっくりしたー?」


 しまった、じゃじゃーんはなかったか。ジョセルカが完全に固まってる。


 コハルちゃーん、お姉ちゃん食べられてないよー。びっくりしたー?

 あ、すごく冷めた眼差し。

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