28 まだお相手するとは言ってなくてよ。
「は、初めまして、ジョセルカさん。私はヒナコだよ。あの、技能見せてもらってもいいかな?」
漂ってくる高貴な空気に、つい私の方も名乗っていた。しかも技能見るのに確認までして。黙って見ればいいじゃん。
くぅ、庶民の遺伝子は魂にまで刻まれているのか。
「どうぞ、ご覧になって」
では、ごめんあそばせ。
ジョセルカ【世界樹雛鳥】
取得技能
〈マナ戦闘〉レベル4 〈マナ感知〉レベル2
〈水迅蹴り〉レベル2
おお……、技能レベル、ここまでとは。
このお嬢様、数千羽いる雛鳥の中でたぶん一番強い。もちろん私とコハルちゃんは除いて。
「どうしてそんなに強いの? 訓練は今日からなのに」
「当然、巣でトレーニングしていたからですわ」
へぇ、意識高いな。
確かに技能ポイントは様々な要因で上昇する。けどやっぱり、戦闘以外では微々たるもの。
彼女は意識が高いだけじゃなく、かなり努力しているはずだ。
「あなた方もでしょう? 先ほどの一撃を見る限り、相当なトレーニングを積んできたに違いありません」
ええ、私達、毎日二百頭以上の大狼を屠ってきましたの。
……なんて言えるわけない。
「まあ、それなりにね」
「ご謙遜を。ヒナコさん、私のお相手をお願いできませんこと?」
「お相手って?」
「手合わせのお相手に決まっていますわ。ご存知なくて? この合同訓練では雛鳥同士が決闘を行いますのよ」
決闘って、剣闘士やガンマンじゃないんだから。
でもそっか、戦い合って強くなるためにこうやって集まっているんだね。
あれ?
じゃ一緒にサッカーしようなんて子いなくない?
私の羽毛から飛び出た狼の骨ボールがコロコロと転がっていった。
ジョセルカは決闘のスペースを作ろうと、とり巻きの子達を下がらせる。
もう、まだお相手するとは言ってなくてよ。
「ジョセルカさんほどになると子分の数も多いね」
「子分ではなく、友人ですわ。あのバーギーさんのようにそう考える輩もいますけれど、私は同意しかねますわね。全員が、共に高め合い、厳しい下界を一緒に生き抜く仲間ですの」
か、彼女は気品があるだけじゃなく品行方正だ!
お嬢様は続けて「それに」と。
「この子達がグループに入るのは、自分より強い相手と戦って成長するためですのよ。子分になったつもりなど毛頭ないでしょう」
なるほどねー。
しっかり経験値いただいて、あわよくば追い抜いてやろうって腹か。
皆したたかだ。
私達姉妹にキラキラ視線を向けていた雛達も、狙いは経験値だったわけね。まったく、あざとい奴らだよ。
「そういえば私達のあざといファンの皆はどこへ……?」
「ヒナコちゃんのヘディングを見て、逃げていったわよ。手合わせで殺されちゃ、意味がないものね」
やれやれといった感じでコハルちゃん。
確かに。ガキ大将のバーギーが瀕死になるくらいだもんね。
「ですが私なら耐えられますわ。さあ! 始めましょう!」
で、ですから、まだお相手するとは言ってなくてよ。
あとさっきの頭突きは、ほんとに限界まで手加減して、だからね。怖くて私の方は攻撃できないって。緻密なマナのコントロールは苦手なんだよ、私。コハルちゃんはすごく上手なんだけど。
当の器用な妹が手羽先でちょんちょんと。
「絶対に攻撃を受けちゃダメよ、ヒナコちゃん。経験値で実力がバレるから」
……攻撃できず、攻撃されるのもダメ。それで決闘?
いやいや、どんなけ縛りプレーっすか……。
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