27 私、いじめられてなかったみたい。
生徒達の視線が私に集中する。驚きと共に、常識を疑うような眼差し……。
「…………。えっと、ごめんねー。ちょっと通してー」
人の壁をかき分けて私は廊下に出た。
すぐに速足で歩き出す。向かうは職員室だ。
……これはまずい。
校内暴力。傷害事件。私は少女Aとしてニュースになってしまう。四人への攻撃はどれも正当防衛だけど過剰防衛と言われかねない。
だがしかし、これってそもそもいじめでしょ? 向こう四人だし、トイレだし、カッターナイフだし。
いじめ問題はデリケートだ。大人達を巻きこめば穏便に処理してくれるはず。
そして、この件を利用すれば私は夢の生活を手に入れられるかもしれない。
ピンチはチャンス! 夢へのチケットだ!
職員室の扉を勢いよく開ける。
担任教師を見つけて詰め寄った。
「先生! 私! いじめられています!」
「まさか鳥羽内が! 何かの間違いじゃないのか!」
どういう意味だよ。
「本当です! 不良グループに目をつけられ、トイレでシメられそうになりました! 奴らは(カッター)ナイフまで持っていて、私は必死の抵抗で逃げてきたんです! あくまでも! 私がしたのは抵抗です!」
「ナ! ナイフ!」
「怖いのでもう明日から学校には来ません! お世話になりました! ……あ、家庭訪問とか結構ですから。ほんとに。それではー」
私は騒然となった職員室を後にした。
教室に立ち寄って鞄を取り、そそくさと学校から脱出。
いつもより相当早い下校時間に心が躍った。
あとは父さんと母さんを言いくるめれば、義務教育からも脱出!
明日からゲーム漬けの毎日だ!
今日は人生最高の日だよ! ふっふー!
にしても、いじめの標的にされるとか、やっぱ人間関係は面倒だな。高校は通信制にするか。
そうだ!
一人で寂しいから、って前から欲しかったセキセイインコ買ってもらお!
名前は、んーと……、コハルちゃん!
だって今日はとっても気持ちのいい小春日和だもんね。
(※ 小春日和は秋と冬の間の穏やかな日を指します。現在の季節は春です。)
ほんと、今日は素敵な小春日和で晴れ晴れした気分だよ!
(※ 小春日和は――略――)
ヒナコ エピソード0 了
……お、思い出した。
あと、全てがつながったよ。私を呼び出した四人の内の一人、クラスメイトの女子。私がバレーで徹底的に狙って泣かしちゃった子だ。
あれは友達の力を借りて文句を言うためだったのか……。
んで私、何て言った?
『バレー、すっごく面白かったよね』
おおう……。完全にあの一言が引き金だよ。
そこからはイモづる式にバトルへ。
そっかー、不良じゃなくて普通の子達だったのかー。弱いわけだ。カッターナイフの子なんて文系のおとなしそうな感じだったもんね。
そういえば、強敵と対峙するのにカッターナイフをお守りに、って話を聞いたことがある。
……私、皆からどう思われてたの?
まあ何にしてもあれだ。
邂逅を済ませた私はコハルちゃんの方に向き直った。
「私、いじめられてなかったみたい。あとたぶん、陰でバケモノって呼ばれてた」
「うん、そんな感じだと思ったわよ」
えー、ひどいよコハルちゃん。
「あなた、まるでバケモノですわね」
誰だー、現世でもバケモノ呼ばわりする奴はー。
ん? 今の方が近いか?
振り返るとそこにいたのは、クルクル前髪の何とも上品な雛鳥だった。周囲には多くのとり巻きを従えている。
「初めまして。私、ジョセルカと申します」
……お、お嬢様みたいな雛鳥だ。
※ 本作は義務教育からの脱出を推奨するものではありません。
とだけ言わせてください。
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