表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/31

26 ヒナコ エピソード0

 バーギーを高々と打ち上げた私に雛鳥達の視線が集中する。驚きと共に、常識を疑うようなこの眼差し……。

 ……覚えがある。

 私は以前にも、同じ状況に陥ったことがある!


 コハルちゃんが私の肩に手羽先を置いた。


「ヒナコちゃん、本当にいじめられていたの?」


 う、うう……!

 頭の中に何か……、封印していた何かが、甦ってくる……!



 ヒナコ エピソード0



 そう、あれは確か中学二年に上がって間もなくのことだった。

 この日は体育のバレーボールがとても楽しくて、私の気分は高揚していた。だけど、それを吹き飛ばす出来事が。

 休み時間、突然私は四人の女子により、トイレへと連行された。

 義務教育の合間の貴重なリフレッシュタイムを奪うとは、なんて奴らだ。用があるなら教室で言え。いつの時代の不良だよ。


「はぁ、早く済ませてくれない? 色々と無駄だから」

「ほんと噂通りの女ね! 冷めた目で見てんじゃないわよ!」

「はいはい。で、どうして私、こんなとこに連れてこられてるの?」

「はぁ? 分かるでしょ! この子よ!」


 とリーダー格の女子が指差したのは、私と同じクラスの子。ちなみに、他の三人は別のクラスだ。


「えーと、何だろ。あ、さっきのバレー、すっごく面白かったよね」

「あんた! いい加減にして!」


 リーダーの彼女が私にビンタ。しようとしてきたので、手を差しこんで止めた。すぐさま私は相手の頬をバチン。


「……え?」


 四人は時間が止まったように固まる。


「いやいや、はたかれる覚えないから。当然防ぐし、反撃するよ」

「ふざけないで! この!」


 今度は逆の手でビンタしようと。同様に止めて、逆の頬をバチーン。


「だから、やり返すってば。もうやめて、って大丈夫?」


 リーダー格の子はその場に泣き崩れてしまった。

 すると、別の女子が拳を振り上げた。


「こいつ! よくも!」


 おお、平手打ちの次はグーパンチだ。

 私は上半身の動きだけでスイッと避ける。


 ふ、ハエがとまりそうなのろい拳だぜ。

 さてはあんた、人を殴ったことないね? 私もないけど、漫画では確か……。

 ガードの甘い(甘い所だらけだけど)下腹部にボディブロー!


 彼女はしゃがみこんで悶絶。

 ご、ごめん。みぞおち入っちゃった?


 二人が戦闘不能になると、続いてもう一人。

 なんと彼女はポケットからカッターナイフを取り出した。


「来ないで! このバケモ」


 喋りきる前にそのお腹に蹴りを入れた。刃を出されたら危ないからね。

 って今、バケモノって言おうとした? 誰がやねーん。

 蹴られた彼女は勢いで個室の中へ。

 便器にお尻からはまって悶絶している。


 あ、こっちもみぞおちかな?

 っていうか誰ー? 便座を上げたのー。


 さて、残すはあと一人だ。

 ビンタ、グーパンチ、カッターナイフとくれば、次はスタンガンか? いいだろう、かかってきな。こうなりゃとことんやってやんよ。

 あら? 残ってるの、私のクラスメイトじゃん。


「……な、何なの、あんた……、あんた! 何者よ!」


 いや、あんたのクラスメイトだよ。


 彼女は手洗い場に置かれていたバケツを取った。

 中にはたっぷりの水が。


「バレーではよくも! 思い知れ! バケモノ!」


 非情にもバケツの水を私に浴びせかけようと――。


 バレー? それよりまたバケモノって。まいっか。

 ここで問題です。後ろは壁。横に避けても相当な量の水を浴びます。私はどうするべきでしょう?

 答は、前!

 踏みこんで生を掴みとれ!

 掴んだのはバケツだった。相手の力も利用し、二人でグイーンとバケツを持ち上げる。それから、向こうの頭上へ。


 ザバ――――……。


 うわ、私もそこそこかかっちゃった。

 これで痛み分け、……ではないよね。

 相手の子はプールへ飛びこんだようにずぶ濡れに。

 頭からバケツを被って放心状態だ。

 だ、大丈夫大丈夫! 体操服に着替えればいいだけだから!

 それにしても今の技はよかった。バケツ返し、と名付けよう。


「と、鳥羽内さん……、何、してるの……?」


 トイレの入口に人だかりができていた。

 騒ぎを聞きつけて続々と集まってきているようだ。


「これは、不良にやきを入れられそうになって、そう、私は被害者だよ!」

「その子達は不良じゃないし、被害者って……、どっちが?」

「どっちって……」


 改めて四人に目をやった。

 一人は両頬を赤くして泣き崩れている。

 一人はしゃがみこんで悶絶。

 一人は便器にはまってこちらも悶絶。

 一人はバケツを被って放心状態に。


 どう見ても私が加害者だ!

評価、ブックマーク、いいね、感想、本当に有難うございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ