25 ナ、ナイスヘディング、……でしょ?
生後十八日目。
えー、では初めに本日のスケジュール確認から。
まず雛鳥達の合同訓練に顔を出すよ。適当に抜け出し、母さんに別れの挨拶。夕方くらいに巡回点呼があるらしいので、それまでに世界樹から離脱。
という流れだ。
ってわけで、今から合同訓練を覗きに行く。
「危険を感じたらすぐに戻っておいで。私が何とかしてやるから」
母さんはそう言って、私達を送り出してくれた。
コハルちゃんと二羽、世界樹の巨大な枝の上を歩く。
数十分かかってようやく幹部分に辿り着いた。導くように幹周りにスロープがあって、今度はこれで上へ。
「訓練ってどんなかな。体育みたいなのだったらいいなー。他の雛鳥に会うのも楽しみだよね。話の合う子いるかなー」
私がうきうきもふもふ足を弾ませていると、コハルちゃんが「ヒナコちゃんってさ」と。
「運動神経いいし、社交的だし、いじめに遭う要素なくない? あと機転が利いて、悪知恵も働くよね。本当にいじめられていたの?」
「いじめられてたよー、あわやトイレでリンチされるとこだったんだからー。運動もお喋りも好きだけど、やっぱり一番はゲームだし、人間関係も面倒でしょうがなかったから、私はちゃんとしたひきこもりだよ」
この世界にゲームはないから、他に楽しみ見つけないとね。
合同訓練は雛達の自主性に任せられ、大人は関与しない。
皆でバレー、は厳しいかもだけど、サッカーならできるよね。私、提案してみようかな。実はボール作ってきたんだー。(※素材=【戦狼】の骨)
あと昨晩の残り物、鳥の巣ボールも持ってきた。気に入った子がいたらあげちゃおうっと。
「絶対にヒナコちゃんが思っているような訓練じゃないわよ」
そんなことないって、コハルちゃん。お姉ちゃんの華麗なシュート見せてあげるから。ヘディングが得意だったんだー。
スロープを上りきると、開けた場所に出た。
幹が大きく窪み、開放感のある広場になっている。
ここで訓練するのか。この広場といい、今通ってきた道といい、人(鳥)工的な感じはしない。世界樹が雛のために用意したのかな。
おお、他の【世界樹雛鳥】だ。
〈マナ感知〉で分かっていたけど、すごい数だね。千? 二千? もっとかな?
ところで、私とコハルちゃんはマナを普通の雛鳥と同じくらいまで抑えてる。
私達の総合レベルさえ誰も見ることができないから、ちょっと怪しまれるかもしれないけど。ま、大丈夫でしょ。
ちなみに、ここにいる雛は全員〈マナ戦闘〉レベル2とか。孵化してから運ばれてくるお肉食べてるだけなのでこんなもん。
ま、私達のレベルなんて想像もできないだろうね。
「おい、お前」
ん? 何かえらそうな雛鳥が声を掛けてきたよ。
「どうしてお前のレベル見れないんだよ」
「そ、そりゃあ、私の方が結構上だから、じゃないかな……」
早速怪しまれた!
と彼のステータスを確認。
バーギーって名で、〈マナ戦闘〉レベル3か。他の子よりあるね。つまり、どうして俺より強いんだよ、って言いたかったわけだ。
バーギーは、ふん! と鼻を鳴らして立ち去った。その後ろを子分らしき雛達がぞろぞろとついていく。
ガキ大将か?
ああいうイラつくのには関わらないに限るわ。
けど【世界樹雛鳥】って群れたりするのね。上下の判断基準はやっぱり〈マナ戦闘〉なのかな。
およ? ということは、ステ見れないほど上の私達には……。
振り返ると、大勢の雛達が私達姉妹にキラキラした眼差しを向けていた。
「コハルちゃん! 私達いっぱい子分できそうだよ!」
「分かってる? 今日巣立つのよ、私達」
えー、今日だけでも皆でサッカーできるじゃーん。
なんてゴネようとしたその時、騒ぐ声が耳に。
バーギーだ。一羽の雛を、子分達と寄ってたかって攻撃している。
配下に加わらなかった子をいじめてるのか! あのガキ!
「ヒナコちゃん、もめごとは起こさないでね」
コハルちゃんごめん! 一言言うだけだから!
「こら! バーギー! やめなよ!」
「うるさい! …………、お、お前には関係ないだろ!」
「うん? あー、あんたには私の名前も見れないよね。私からすれば、あんたも他の雛も大差ないんだから仲良くしなよ」
まあほんとにそうなんだよ。どんぐりの背くらべっていうか。
あれ? どうしたのコハルちゃん、ため息なんてついて。
怒り心頭のバーギーはプルプルと震えていた。
やがて噴火点に達したらしく、「黙れ!」と突っつこうと。
これを私はしゃがんで下に避ける。
ふ、ハエがとまりそうなのろい嘴だぜ。
先に手(嘴)を出してきたのはそっちだよ。やり返されても文句言わないでね。
んーと、マナをほーんの少しだけ引き出して、嘴、は危ないか、軽ーく頭突きなら大丈夫かな? よし、これで。
屈んでいた私はバーギーの下顎めがけて頭突き。
ぶっちゃけ、普通に立ち上がっただけなんだけど。
ドン――――ッ!
バーギーは飛んだ。ロケット花火のように。
百メートルほど上にある天井にぶつかって落下。
…………。
……めちゃ、飛んだね。
あ、マナ反応あり。
よかった、生きてる。結構瀕死だけど。
「ヒナコちゃん……」
……コハルちゃん。
ナ、ナイスヘディング、……でしょ?
評価、ブックマーク、いいね、感想、本当に有難うございます。




