24 どこの国か知らないけど、……ほんとごめん。
生後十七日目。
夕刻、私とコハルちゃんは最後の訓練試合を終えた。倒した【戦狼】をついばみ、一頭一頭融合していく。
今日までほんとありがとね。
私達がこんなに強くなれたのは皆のおかげだよ。
「まったく、これほどステータスを上げた雛鳥は他にいないだろう。下界の神獣達は目を疑うだろうね。見られやしないが」
呆れ気味に母さんが言った。
「母さんがいてくれたからだよ。私達は次々に運ばれてくる狼と、ただ戦えばよかったんだもん」
「私はお前だからここまでしたんだ、ヒナコ」
母さん、そんなに私のことを愛して……。
「お前のように意地汚くずうずうしい子でなければ、ここまでせずに済んだ」
はいはい、だと思ったよ。
ふてくされる私の頭を、母さんは羽でそっと撫でた。いつかの仕草と同じだ。振り返ってみれば、あの時から私達は親子になった。
「ヒナコ、お前なら下界だろうが地獄だろうが生きていけるよ」
そう、私とコハルちゃんは今夜、この巣を旅立つ。
母さんとはお別れになる。
日が完全に沈むと、私達姉妹は準備に取り掛かった。と言っても、持っていく物などはないので、主にスキルチェックね。
「まだポイントかなり残ってるけど、どうする?」
「残しておきましょ。今後、全く獲得できなくなる可能性もあるもの」
「今日の入りを見ると怖いよね。まあ〈マナ感知〉も予定より上げれたし」
ふと、私は言葉を切って天井を見上げた。天井なんてないだろ、って? いやいや、あるんだよ。視認できない結界の天井が。
「母さん、この結界、解除してくれない?」
「も! もう行くのか! まだ早いよ! もっとゆっくりしていけ!」
「じゃなくて、周りの様子が知りたいの。要は雛が二羽いるってバレなきゃいいんでしょ? ――コハルちゃん、私は普通の雛を装うから」
「なら私は気配を絶つわね」
私は纏っているマナを大幅に減らす。
こんな薄マナになるの、生後何日目以来だろ。羽毛はもふもふなのにすごく寒々しい。
一方のコハルちゃんは絶対零度。
マナを完全に絶ち、そこにいるのにいないみたい。
〈マナ戦闘〉が使えない生き物でも微弱なマナを発しているからね。これも止めちゃうと感知はできなくなる。
「どう、母さん。これなら大丈夫でしょ?」
「まあいいだろう。じゃあ解除するよ」
結界が消えると、私は〈マナ感知〉の範囲を一気に広げた。世界樹の無数にある枝を越え、巣の一つ一つを探っていく。
にしてもほんと、でっかい木だわ。うちのコロシアムほどじゃないけど、結構大きい巣があちこちにある。
マジでどこも雛は一羽なのね。それより親鳥だ。
形状がバラバラじゃない? それぞれ違う進化を遂げてるってこと?
ドラゴンみたいなのもいるしー……、あ、これ絶対グリフォンだ。うーん、どれも私からすれば怪物には違いないんだけど、もしや――。
「ねえ、母さん一羽だけ飛び抜けてない?」
「む? ふ、ふふ、まあね。若い鳥が多いし、同世代でも私は、そう、飛び抜けていたからね」
奇怪に笑う母さんだが、〈マナ戦闘〉レベル8125もある怪物中の怪物だ。
たぶん他にレベル6000を超えてる親鳥はいない。それどころか、ほとんどが半分以下だな。とにかく、母さんが一番強いってのは使える。
多少無理しても助けてもらえるってことだからね。
実は明日のイベント、ちょっと興味あるんだ。
「明日の合同訓練さ、少し覗いてから巣立とうかな。絶えず〈マナ感知〉で親鳥の動向を警戒していれば大丈夫だと思うんだよね」
「どうなっても知らないわよ……」
ため息をつくコハルちゃん。対して、母さんの顔は途端に華やいだ。
「いいんじゃないか! よし! 巣立ちは明日だ! 二羽とも食べたいものはないかい? 何でもいいよ。私はあの国では神だ。手に入らないものなんてない!」
「どの国か知らないけど……。それ絶対ダメな神のセリフだよ」
「コロッケか? コロッケだね!」
「あれコロッケじゃないって。でもじゃあ、あの鳥の巣ボール(そう名付けた)でお願いしようかな」
コロッケは私が人間に会いに行けるようになった時のお楽しみ。鳥の巣ボールもすごく美味しかったしね。
「任せな! 城の料理人を総動員して作らせる! 王族達の夕食は後回しだ」
どこの国か知らないけど、……ほんとごめん。
だけど、巣立ちを一日延期したのは正解だったと思うよ。
大量の揚げ物をついばみながらのお喋りはすごく楽しくて、母さんとの最高の思い出になった。
それに翌日参加した合同訓練で、私は親友になる雛鳥と出会ったんだから。
もう母さんファンに満足していただけたら本望な回です。
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