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23 こ、これは、ハッシュドポテトだ!

 生後十五日目。

 少し時間が空いちゃったね。これまでのこと話しておいた方がいいかな。

 ひたすら狼を突っついていました。

 以上です。ね、時間が空くわけでしょ?


 葬った狼の数はすでに千五百頭を超えるよ。慣れてくると結構早く狩れるようになって、今は二十五頭の狼と一日十回戦ってる。

 もっとこなせなくもないんだけど、八時間労働の原則は守らなきゃだし。

 これは世界の理よりも絶対のルールだ。

 前世の私は心に誓っていた。もし万が一将来働かなきゃならない時がきても、死んでも八時間を超えては働かないと。もちろん短ければ短いほどいい。

 それに、まだ雛のせいか動き回ってるせいか、睡眠にかなり時間取られる。十時間くらい寝てるかも。


 あとの六時間は、羽毛のお手入れしたり、コハルちゃんともふり合ったり(主に私から)、ああ、母さんともよく話をするね。

 私達が以前いた世界に興味津々なんだよ、母さん。

 特に科学とか宇宙とか。そう、宇宙! 意外にも母さんは詳しかった。

 太陽があって月があって、どうやらここは地球に似た環境の惑星みたい。

 何かね、母さん結構行けるらしくて、この星が見えなくなりそうになって慌てて引き返したんだって。ちょっと怖かったって言ってた。

 当然だよね、宇宙だもん。

 …………、そうだよ! 宇宙だよ! 結構行けるって何!

 まあまとめると、上位の神獣はとんでもないってこと。


 私もゆくゆくは宇宙行けたりするのかなー。行きたいとか一度も思ったことないけど。絶対、地球にいた方が安全だし楽だよ。

 ……なのにこんな異世界に来ちゃって。

 しっかり地球にしがみついてろ私の魂。


 そうそう、この世界のことについては、母さんあまり話してくれないんだ。変なとこで世界の理に遠慮しちゃうんだから。

 けど、科学とかの話を聞いてる感じからすると、そういう技術は発達してないっぽい。

 魔法なんてあるし、身一つで宇宙旅行できる鳥もいるから、仕方ないかも。


 それから母さんが興味を示したのは私のことだ。

 人間としてどんな暮らしをしていたか、すごく知りたがった。

 だから話したよ。

 義務教育から逃げ、悠々自適のゲームライフを満喫していたことを。


「よく分かったよ、ヒナコ。常に楽な選択をし、身勝手な理屈を堂々と主張する。お前は人としてクズだったんだね」

「いや、同じこと光の精霊にも言われたから……。私の性格はもう知ってるでしょ、母さん。今も前もそんなに変わんないよ」

「ああ、お前は神獣としてもクズだ」

「……うるさいな、そのクズをこの世界に誕生させたの母さんだから」


 もう母さんに敬語を使うことはなくなった。あっちも遠慮なくずけずけ言ってくるようになったし。こんな感じで、二人でずっと喋ってる。

 コハルちゃんは横で楽しげに眺めてて、たまに会話に入ってきた。


 あと母さんが知りたがったのは……、あ、私の食べ物の好みとかかな。

 前世の私には大好物があった。

 それはスーパーでお惣菜として売られてるコロッケ。

 週一の買い出しでは必ず購入。

 そりゃお肉屋さんの揚げたてには敵わないかもだけど、近くにそういうお店なかったし、帰ってすぐレンジで適度に温めれば、なかなかにサクサクでホクホクだった。

 あぁ、もう一度食べたいな……。最近生肉しか食べてない。

 なんて話を母さんにした。



 深夜、今日も狼を突っつきまくってぐっすりの私。

 人の気配で少し目が覚めた。鳥じゃなくほんとに、人、だよ。

 マナの感じは間違いなく母さんなのに、姿形はまるで人間の女性。

 私は意識が半分起きているような状態で、目蓋を開けるのも辛い。それに、見ちゃいけない気もした。

 近付いてくる……。


「ふふ、ヒナコ、喜ぶぞ。私の国で随一の料理人に作らせたコロッケだ」


 と羽毛の中に何か入れられるのを感じた。

 国? 母さんどっかの国に所属してるの?

 っていうより、その口ぶりは所有してるみたいな……。



 生後十六日目。

 朝、羽毛を探ると紙袋が出てきた。

 中に入っていたのはもちろん――。


 ――こ、これは、ハッシュドポテトだ!


 細かく刻んだイモを丸めて揚げてある。この料理はコロッケではなくハッシュドポテトと前の世界では呼ばれていた。

 私の説明が悪かったのは認めるけど、ミンチ肉も使うって言ったよね?

 心の中で愚痴りつつ、一口。


 うっま!

 え? なんで? イモか?

 ……いや、油だ! 揚げ物だからだ!

 あっ! 中心部に冷めてもジューシーな肉団子が!

 すご! うま! さすがどっかの国随一の料理人が作っただけはある!


 もちろんコハルちゃんにも分けたよ。


「美味しい……。人間の食べ物って本当に美味しいのね」


 前世も鳥で料理自体が初めてのコハルちゃんには、かなりの感動だった模様。クールだから分かりづらいけど。


 いつの日か、この森を出て人間に会いに行こうと思った。そしてコロッケを作ってもらう。きっとものすごく美味しいに違いない。

 その前に無事巣立たなきゃだけどね。

結構前ですが、フラミンゴの雛の話をテレビで見ました。

捕食者に狙われつつ、毒の池を目指し、集団で爆走していました。

現実世界の雛も大変なようです。


評価、ブックマーク、いいね、感想、本当に有難うございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おっと、母ちゃん守護神獣なのかな [気になる点] やはり芋か [一言] 芋は全てを解決する
[一言] やってしまったぁぁぁぁ… 先の感想、トレミナさんのお名前を間違えておりました 誰なんだテルミナさんとは…過去の自分に問い詰めたいです 申し訳ありませんでした…
[一言] これはッ! ウン百年後にヒナコさんがテルミナさん(農家兼剣神)に会いに行くフラグッ!? 急に感想を送りつけてしまいますが、3話更新時あたりから読ませていただいてます。 毎日、更新されるのを…
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