22 チート? いえいえ、これが効率を追求した訓練です。
そういえば母さん、どうやって狼の群れを運ぶんだろ? 何回か往復するとか?
なんて思っていたら母さんが帰ってきた。
鉤爪には何も掴んでいない。
代わりに、隣にモコモコした大きなお団子が浮かんでる。
いや、もちろんあれが何でできているか分かるよ。
けどあのでかさ、ヤバくない……?
「いいかい? 下ろすよ」
待って! ちょっとずつお願い!
って言うのは間に合わなかった。
投下されたお団子は、巣の床に接すると同時に分解。
飛び出た狼達は皆、シュタタッ! と綺麗に着地を揃えた。
すごい、まるで練習してたみたい。
などと感心してる場合か! この数!
「二十頭以上いるわね。さすが、一番でっかい群れまるごと、だわ」
……あ、あれ? コハルちゃん、今、初めてお姉ちゃんに皮肉言った?
私達姉妹は瞬く間に【戦狼】に取り囲まれた。
「脚を止めたら餌だわ。別々に動きながら、やることは予定通りね。ヒナコちゃん、しっかりポイントを確認して」
「う、うん。気をつけて、コハルちゃん。危なかったら無理しなくても」
〈敏捷強化〉レベル4を発動したコハルちゃんは即座に駆けた。
近場の狼から順に〈光穿突き〉レベル7を撃ちこんでいく。
突っつかれた【戦狼】はいずれも起き上がることができない。
加減が絶妙だ……! すごいよコハルちゃん!
次々に飛びかかってくる狼を避けながら、私は感嘆の心の声。
……そうだ、私もそろそろやらないと。
まず〈攻撃強化〉レベル2。
今回の作戦は、最初にコハルちゃんが可能な限り削った上で、私が全力で仕留める、というもの。成果を最大にするべく私達はスキルレベルを上げた。
まあ見ててよ。
倒れている狼にターゲッティング!
嘴にマナを集中! からのー〈雷穿突き〉レベル7!
非情な一撃。
技能ポイントを確認するとしっかり26P増えていた。同じ狼からコハルちゃんも15Pくらい得ているはずなので、二人で41P。
ドラゴン倒したのに匹敵する経験値を獲得したわけだ。
これぞゲージ振り切り活用術!
さあさ! どんどん突いちゃうよ!
倒れてる奴にー、ブスリ! 倒れてる奴にー、ブスリ!
ってあれ?
狼達、もう皆地面に寝てない?
瀕死の捕食者達、立っているのは一羽の雛鳥、コハルちゃんのみ。
「思ったほどじゃなかったわ。まあ、群れる連中なんてこの程度ね」
……か、かっこいい!
不良グループを一人でやっつけた武術少女みたい!
あ、私も早くしないとね。
えーと、倒れてる奴にーブスリ。倒れてる奴にーブスリ。
――――。
とマナなくなっちゃった。ちょっとお肉を失敬。
もぐもぐ……、ふー。
倒れてる奴にーブスリ。倒れてる奴にーブスリ……。
私……、めちゃかっこ悪くない?
命に感謝しつつも、自分の存在価値について自問自答する稀有な時間だった。あと少しで、悟り的な何かが開けそうな気がした。
「お疲れ様、終わったね」
「……終わった。……いいや、全てが始まったのだ……」
「ヒナコちゃん? 大丈夫?」
「……あ! ごめん、解脱しそうになってた。じゃポイント確認しよっか」
数えてみると【戦狼】は二十二頭いた。
ブスリブスリと私の得た合計ポイントは581P。
あとコハルちゃんとの差を埋めるため、融合はほとんど私がさせてもらった。コハルちゃんはマナを回復させるのに必要な分だけ。
お、お腹がはち切れそうっす。そして、ザコなお姉ちゃんでごめんね……。
コハルちゃんは途中から、またちょっとポイントの入りが悪くなったみたい。実質、一羽で群れを殲滅しちゃってるんだから、そりゃ格上扱いだよね……。
で獲得ポイントは308Pだった。
「入りが悪くなっていくのは想定済み。攻撃力を上げてできる限り確保に努めるしかないわね。戦い始めてから大体一時間かしら。じゃあ」
とコハルちゃんは母さんの方を向く。
「今から一時間おきに二十五頭ずつ、狼を運んでください。ヒナコちゃん、あと五、六回はいけるから、今日中に私を抜けるかもよ」
「ザコなお姉ちゃんでほんとごめんね……」
姉妹の絆を確かめるように、私達が(主に私から)もふり合っていると、母さんが絞り出すような声で「……待ちな」と。
「……お前達、今日から九日間、そのペースで成長するつもりかい……?」
んー、コハルちゃんが言った通り、ポイントの入りはどんどん下がっていくんだよね。ああ、でも結構ゆるやかだから、ある程度は予想できるか。
低く見積もって、一回の戦闘で二羽とも200Pずつ得るとしよう。丸一日なら八回は戦えるから1600だね。
んで、残り日数をかけるとー……。
あれれ? 10000軽く超えちゃう?
実際にはこの計算よりもっと増えるだろうし。私達、ドラゴンなんて目じゃないくらい強くなっちゃうね。
チート? いえいえ、これが効率を追求した訓練です。
ちなみに、二羽の強さはすでに巣立ち時の一般雛鳥を超えています。
からのチート成長、もとい効率を追求した訓練です。
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