21 私も自分が嫌になる……。
生後九日目。
私とコハルちゃん、いたいけな二羽の雛鳥は狼の群れに囲まれていた。
飢えた獣共の鋭い眼光が私達姉妹を射抜く……。
しゅ、修羅場っす。
いきなりわけが分からない? そりゃそうだ。
よし、少し時を戻そう。
今日は朝から色んな種族の神獣と戦うことにした。
昨日は結局、ドラゴン五頭しか倒してないからね。どれも重量級のタフな試合だったけど……。他の神獣もあんなに強かったら正直きついわー、なんて心配していたら結構大丈夫だった。
神獣ってほんと多種多様で、私達の脅威にならないのもいっぱいいるみたい。
母さんが何頭か獲ってきてくれた。
■■■■■【尾善狸】(ビゼンタヌキ)
取得技能
〈マナ戦闘〉レベル1 〈マナ感知〉レベル1
〈雷の回転突撃〉レベル1
まず、大きさが私の半分くらいの狸。
ちなみに、現在の私の体長は約二百センチで、サイズ的な成長は止まったぽい。その私の半分だから狸としてはでかいよね。
尻尾が種族特性のようで大層なもふもふだった。私の羽毛には敵わないけど。
あの特性で生存競争に勝てるのか、ちょっと気になった。
■■■■■【剛脚鼠】(ゴウキャクネズミ)
取得技能
〈マナ戦闘〉レベル1 〈マナ感知〉レベル1
〈火掃蹴り〉レベル1
次は、大きさが私の半分くらいのリス。
まあ言うまでもなく、……リスとしてはでかいよね。
種族特性は前歯かと思ったら、意外にも脚力。
実際、びっくりするくらい速かった。スプリント力はたぶんチーターを軽く超えてるね。それに凄まじいジャンプ力だった。あれこそまさに特性だと感じたよ。
他にも個性的な獣ばかりで、見ているだけで楽しかった。
下界は珍獣パラダイスだ。
あ、ついでに私の大好きな猪も。
初めて生きてるの見たよ。弱いのにすごく獰猛で、ガチ猪突猛進って印象。特性は蛮勇だって……。
■■■■■【蛮駕武猪】(バンガムイノシシ)
取得技能
〈マナ戦闘〉レベル1 〈マナ感知〉レベル1
〈水の牙〉 レベル1
どうして全員名前が■かって? ……見ないようにしてたからね。
珍獣を愛でて終わり、なわけないじゃん。そりゃ食べるよ、弱肉強食だもん。
けどリスは無理だった。
いえいえ、可愛さゆえとかじゃなく、あの子、自慢の脚力で巣の壁越えて行っちゃったんだよね。きっとここに運ばれてくる時は気絶していたんだ。
運がよければ樹のどこかに引っ掛かってると思う。
彼らでもスキルなんか取得してるの見ちゃうと、それぞれ考えて必死に生きているんだなーって。改めて命を無駄にできないと感じたし、融合ってシステムに若干だけど救われた気がした。
そして、いよいよ巣立った雛鳥の脅威になりうる神獣だ。
実はこちらもそれほど強くはなかった。
謝肉の日の四十日前だから、ってのもあるね。
戦闘力一位と二位がこちら。
■■■■■【古玖裏兎】(コクリト)
取得技能
〈マナ戦闘〉レベル4 〈マナ感知〉レベル1
〈風の拳〉 レベル1
〈火練弾〉 レベル2
■■■■■【戦狼】(センロウ)
取得技能
〈マナ戦闘〉レベル2 〈マナ感知〉レベル1
〈地の牙〉 レベル1
〈雷の咆哮〉レベル2
どちらも進化はまだ一度だけ。ほとんどの捕食獣が同様で、謝肉の日までには二度目の進化を遂げる奴も出てくるんだって。
こうやって見ると、やっぱり【鎧竜】進化形は飛び抜けてるのが分かる。
難敵と呼ばれるわけだ。
それに次ぐ実力者がコクリトさんね。
体長五メートルを超える巨大ウサギで、丸々ふわふわ、思わず抱きつきたくなる神獣。
けどそんなことしたら、間違いなくカウンターパンチをもらう。コクリトさんは、戦闘時は二足歩行になる格闘家だ。
種族特性は拳。爪じゃなく、拳だよ。
〈火練弾〉なんてまるで波動拳だった。
それから、牙が特性のセンロウね。
変わった生き物と触れ合いすぎたせいで、狼がすごく普通に見えたよ。サイズは馬くらいあって全然普通じゃないけど。
「私達の条件にマッチするのは狼くらいだね」
「そうね。大量供給できるのも理想的だわ。母さんの話では、個体の多くが〈マナ戦闘〉レベル1か2みたいだし」
倒した【戦狼】をついばみ、コハルちゃんは「柔らかさも理想的」と。
結局、訓練相手って考えると、竜を除けば兎か狼の二択だ。
それより下は、力の差がありすぎてポイントの入りが悪くなっちゃうんだよね。
狼なら、私は〈雷穿突き〉で10P。竜達と同じくらいだからたぶん同格扱い。
コハルちゃんは〈光穿突き〉で8P。我が妹は格上になりつつある。
コクリトの方はそもそも絶対数が少ないらしい。あと、マナを絶つ技術にも長けていて、母さんでも探すのに難儀するんだって。なんて兎だ。
対して、狼はそこら中で群れを作っていて獲り放題なんだとか。
ってわけで、私達は今日から九日間、ひたすら【戦狼】と戦うことにしたよ。
最初が肝心だからね、景気よくいかなきゃ。
母さんに、一番でっかい群れまるごと持ってきて! って言っちゃった。
……またこのパターンか、とかはいいから。
私も自分が嫌になる……。
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