20 ……何だこれ。光の精霊に思いっきりディスられた。
生後八日目と九日目の間。
つまり深夜ね。時計がないからどっちか分からん。
毛玉化して眠っていた私だが、起きざるをえない事情が発生。
どうしようもなく、小腹がすいた。
前世の私は昼夜問わずゲームにあけくれ、真夜中でも躊躇なくカップ麺をすする女子だった。そして、現世の私は真夜中に生肉をついばむ雛鳥だ。
やっぱ猪の神獣めちゃ美味しい。このゴハンは母さんが置いてくれた。
お腹が満たされると、私は少し巣の中を歩く。
巨大な世界樹の葉や枝に遮られ、月や星の光は届かない。
けど、母さんが所々に設置してくれた火霊燭台のおかげで、まるで昼間のような明るさだ。もう至れり尽くせり。
あとゲームがあれば一生ここで暮らせるわ。
当然ないので、母さんが作ってくれた展望台から夜景でも眺めるかな。
そろそろお気付きでしょうか?
竜五頭を倒したら、急に母さんは上機嫌になった。何でも言うことを聞いてくれそうだったから、色々お願いしてみたんだよ。
その母さんも今は巣の中で休んでいる。すごく幸せそうな寝顔だ。
「……ふふ、……いいぞ、ヒナコー……、そこだー……」
夢の中でも私を戦わせて楽しんでらっしゃる……。
ほどほどにしないとカブトムシもグレるよ、まったく。
展望台に登った私。数メートル先の空間をじーっと見つめる。
……やっぱりおかしい。何もないのに何かある。
というのも、そこで〈マナ感知〉が弾かれるからだ。
「ヒナコちゃんも気付いた?」
振り返ると、コハルちゃんもやって来ていた。
「これ何だと思う? 巣全体を覆っているよね」
「たぶん、私達を守るために母さんが張った結界よ」
「他の大人達に見つからないように、ってこと? そこまでしてくれるかな。……いや、してくれるか。今日の様子だと。どうして突然あんなに甘々になったんだろ?」
「突然じゃないと思うわ。きっとあれが本来の母さんなのよ」
そう言ってコハルちゃんは一度母さんに視線を移した。
戻すと再び言葉を紡ぐ。
「これまで母さんは世界の理に従って、自分を殺し、子供をも殺してきた。でも理の外から私達が現れ、我慢していたものが一気に噴き出したのね」
「私達は今までの子達の分も愛情を注がれてるってこと?」
「ええ。それに【鎧竜】進化形の五頭を倒したのも大きいわ」
「どうして?」
「母さん、過去にも一羽残った雛を大切に育てたことはあったと思う。でも、巣立ち後の生存率は一割。九割の大半を牙にかけたのが、難敵と言われるあの竜達よ」
そうか……、だから母さん、あんなに興奮してたんだ。
続け様に全種戦わせたのも、早く安心したいって気持ちの現れだったんだね。
あれで晴れて、私達は愛しても大丈夫、って確信できたんだ。
……よかった。ほんとよかった。
これで晴れて、私も母さんをフル活用できるんだもん。
……いかん、思考の終着点が基本的に利己的だ私。
「でもさすがコハルちゃん。色々と見えてるんだね」
「何も見えてないわよ? ……ヒナコちゃん、大きな勘違いしていない?」
「え? だってコハルちゃん、聖女でしょ? 光属性使えるし」
「光の精霊はそういうのじゃないのよ。性格適性があれば誰でも契約できるわ。大体、聖女って誰が言っているの?」
あ、私が勝手に言ってたんだっけ。
いやでも、色々と知っている風だったよね? 世界の理についても。
「そんなの知るわけないでしょ。だけど、予想はつく。古くからのしきたりと、世界樹の意思が混じり合ったもの。それが世界の理よ」
「世界樹の意思って、どういうこと?」
「私の考えでは、この世界樹は生きているわ」
マジかー。けどそう考えれば以前のことも説明がつく。
チート強化の時に揺れていたのは、一羽だけズルしちゃいけません! って怒ってたから? こんな巨大なものを敵に回して、無事で済むはずない……。
一応、謝っておこう。
世界樹の方に向かってペコリと頭を下げた。
もうしないので許してください。
直後、周囲の葉が一斉にザワワッと鳴った。
……おぉ、マジか。
それにしても光の精霊、誰でも使えるのね。
光の精霊さん、私と契約しませんか?
と、コハルちゃんの羽毛から光のホワホワが。
『ごめんなさい、あなたは結構なクズなので』
わわ、何か応えたよ。
って、ちょっと! クズなので、っておかしいでしょ!
性格の適性があればいいんじゃないの!
『ですから、あなたは性格がクズなんです。
ムラっ気が多すぎる上、常に楽な方へ行こうする。
自分勝手な理屈を、信念、信条と言って憚らない。
あなたの性格はクズ。適性はゼロです』
……何だこれ。光の精霊に思いっきりディスられた。
今更ながら、こんな主人公で大丈夫でしょうか。
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同じ世界の人間サイド、
『ジャガイモ農家の村娘、剣神と謳われるまで。』
も書いています。よろしければお読みください。
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