17 私の最大必殺技がまるで効いてない!
まさに鎧竜と呼ぶに相応しい見た目のドラゴンがそこにいた。
ガルファデオ【鎧甲竜】
取得技能
〈マナ戦闘〉レベル5 〈マナ感知〉レベル1
〈火の爪〉 レベル2 〈地の尻尾〉レベル1
〈鎧鱗強化〉レベル1
もしかして、ガルファドルさんの……?
まさかね、あの大森林から無作為に連れてきてんだから。血縁関係のある個体を獲ってくるなんて確率的にありえないよ。
ガルファってきっと、日本でいう佐藤さんみたいな感じだ。
ガルファデオはフイッと私達から目をそらすと、大竜の骸の元へ。
しばし見つめる。
向き直った彼の瞳には明らかに怒りの色が。
纏っているマナが格段に力強くなった。
ぜ! 絶対にガルファドルさんの血縁者だよね!
……兄弟とかかな? うわー、すごい睨んでくる。
でも、どうしてあんなギラギラに?
〈マナ戦闘〉レベル5のマナ量じゃないよ。
母さん、どういうことよ?
「マナの質は精神状態に大きく左右されるんだ。激しい憤りなどは一時的に〈マナ戦闘〉のレベルを引き上げる」
どこぞの戦闘民族か。
「だが、なぜ奴はあそこまで怒っているんだろう……?」
そこで兄弟が死んでるからだよ! ダメだ、この人。獲物の名前なんて気にも留めてない感じだわ。
とにかく慎重にやらないと。
あんなマナ量で攻撃されたら、一発で――。
その時、地を蹴る音がして振り向いた。
が、すでに竜の姿はない。
敵はもう妹の目の前まで迫っていた。
ここまで速いのか!
コハルちゃん! 反応できてない!
〈風迅蹴り〉ジェット! 〈雷穿突き〉っ!
横からガルファデオの肩に突き刺さり、何とか体当たりの進路を変えさせた。しかし、その手(嘴)応えに寒気を覚える。
なんて硬さ! 私の最大必殺技がまるで効いてない!
ダメージはたぶん、ほぼ0……。 マジか!
元々硬い種族の防御タイプ。
さらに強固なマナの守りでもうカッチカチだ。
炎に包まれた爪が振り下ろされる。
即座にマナを全開にし、バックステップ。
ジッ! ボワッ!
直撃はまぬがれたものの、爪先に当たって弾かれる。
くぅ! 完璧に対応したのにすごいダメージ!
スキルは直撃したらほんとヤバイ!
ん? 追撃の構え?
待って! まだ体勢が!
ところが、装甲竜はピタリと動きを止めた。
蛇に睨まれた蛙のように竦み上がっている。母さんだ。
「すまなかったね、二羽共。おかしなのを連れてきてしまった。こいつはダメだ。私が始末する」
よかった、こんなの相手してらんないよ。
……けど、ほんとにいいのかな?
こういう状況って、地上に下りたら絶対あるよね。兄弟や家族で狩りしてる神獣は結構いそうだし。
その時、私達だけで切り抜けられるの?
「……ありがとう、母さん。でも、このまま戦わせてください」
「――――、いいよ。好きにしな。ただし、本当に危ない時は止める」
さて、そう言ってみたけれど、今のままでは厳しいよね。
スキルのレベルを上げるか、それとも……。
「ヒナコちゃん、さっきはありがとう。私も一緒にやるわ。もう大丈夫だから。これを取得したの」
とコハルちゃんに言われても、私には彼女のスキルは閲覧できず。
さっきの〈火の爪〉で生命力が下回っちゃったからね。
「あ、ごめんね。許可したわ。面倒だから、これからはお互いのステータスは常に見られるようにしておきましょ」
「だね。で取得したのは、〈敏捷強化〉レベル2か」
「ええ、スピードにさえ対応できれば私の光属性は役に立つ。ヒナコちゃんは?」
「私は、あいつの動きには慣れてきたから〈攻撃強化〉にしようかな」
「……慣れてきたの? もう? まあ、そっちはいずれ取得予定だしね」
「うん。よし! じゃ姉妹の絆で頑張ろう!」
母さんが元いた位置に戻り、戦いは仕切り直しになった。
私とコハルちゃんはそれぞれ強化スキルを発動。強化系はいずれも使用型で、効果時間は六百秒だ。今回は充分すぎるだろう。
たぶんそれよりずっと早く、向こうに限界がくる。
最初の時と同様、まずガルファデオが勢いよく突っこんできた。
私達への憎悪は健在だ。
先ほどと違い、二羽とも余裕をもって回避。
コハルちゃんはすぐに追いかけ、方向転換の隙に〈光穿突き〉を放つ。
竜は小さく呻いた。
光属性には相手のマナを弱める特性がある。つまりマナによる防御を一定程度無視できた。こんな強敵と対峙する際にはとても心強い。
お姉ちゃんも負けていられない。
地面をえぐり取るような〈地の尻尾〉を跳んで避ける。〈風迅蹴り〉で宙を駆け、死角に回りこんでからの、
〈風迅蹴り〉ジェット! 〈雷穿突き〉――っ!
強化の効果で今回はダメージあり。それでもまだまだ低いけど、あと少しの我慢だ。
ガルファデオは怒りのままにマナをどんどん消費している。
あ、もう次で撃ち止めだわ。
彼は全ての憎しみを込めるように、大きく開いた口で私にかぶりつこうと。
難なくかわす私。
この瞬間、ガルファデオの最後のマナに触れた気がした。
――――。
あれ? どこだここ?
あ、すぐ近くに世界樹が見える。てことは下界の森か。
同じくらいの大きさのドラゴンが二頭いる。
「兄さんはやっぱり大竜になるんだね」
「ああ、俺は長兄だ。皆を守らなければならない。それよりお前だ、ずっと角竜以外考えられないと言っていたのに、なぜ急に甲竜に」
「気が変わっただけさ。他に理由なんてないよ」
もしかして、進化前のガルファドルさんとガルファデオ?
ガルファデオの方が歩き出して……、わわ、私も引っ張られる。
「いつも兄さんは僕達のことばっかりだ。
だから、これからは僕が兄さんの盾になるよ」
――――。
え?
何だ今の?
竜語とか分かるはずないし、私の妄想か?
ただ、地上に下りても、ここまで深い絆の兄弟に出くわすことは、そうそうないだろうと思った。
マナを使い果たした竜は、私達姉妹の同時攻撃で燃え尽きるように倒れた。
評価、ブックマーク、いいね、感想、本当に感謝です。




