14 あなた、美味しくなかった。
「本当にヒナコは大したものだ。さすが私の娘」
母さんはまだ私を褒めちぎっていた。
「最大の難敵である【鎧大竜】をこうもあっさり倒してしまうのだから。私に一突き入れただけのことはある!」
いや、実力で一本取った! みたいに言ってるけど、実際にはお願いしてだし、しかもそれで強くなってるからね。
……あら?
今、最大の難敵って仰った?
「母さん、この竜って巣立ち直後の雛にとってどういう存在なんです?」
「言った通り、一番厄介な相手だよ。巨大で硬く、動きも決して遅くはない。お前は翻弄していたがね。今年も多くの雛がこいつに食われるだろう」
えー、いきなり何連れてきてんの。確かに大きいのとは言ったけどさ。
ため息をつきつつ、竜の骸の前にコハルちゃんと並んだ。
では、弱肉強食の掟に倣いまして、いただきます。ガルファドルさん。
二羽で竜肉をついばんでいく。
今回は自分の、内なる生命力とマナに意識を向けながら。
一口、二口、
――――、
結構お腹がいっぱいに……、
――――、
やがて異変が。
「急に伸びが悪くなったわね。ヒナコちゃんも?」
姉妹で揃って母さんに視線を送る。
「魂の融合が済んだのさ。残りは微々たるものだから食べなくていいよ」
今まで技能ポイントばかり注目していて気付かなかったけど、こうなっていたのか。もう私の受けたダメージも完全回復してる。
元々、ポイントは微々たるものだし、ほんとに食べる必要ないかも。命を無駄にするのは気が引けるけど……、あ、命は融合したから無駄にはなってないのか。さすがにこれだけのお肉は食べ切れないもんね。
じっとお肉を見つめていたコハルちゃんが、ふと。
「なるほど。融合できるのは神獣だから、ですね?」
「ああ。人間の食べ物では生命力もマナも、ポイントも増えることはない」
そうなんだー、何でもかんでも食べればいいと思ってたよ。
おっとヤバイ。アホキャラ路線に進むとこだった。ちゃんと理解できたし。新たに気付いたこともある。それも踏まえてまとめると、こうだ。
戦闘での上昇は『成長』(ポイント > 生命力 マナ)
食事での上昇は『融合』(生命力 マナ > ポイント)
上がる項目は一緒でも、全然別モノだったんだね。
「能力は結構上がりましたけど、竜のお肉はあまり美味しくないですね。母さんがよく運んできてくれる猪の方が断然上です」
ガルファドルさん、ごめんね。あなた、美味しくなかった。
「あれは猪族の下級種だ。戦闘能力は低いが、味は絶品。食べられるためにいるような者達だな。雛にあげられるのは、あれと数種、と世界の理で決まっている」
「私達以外にも人気者が……。いいんですか? 理を破って」
「破ってなどいない。なぜなら、お前達は理の外から来たからだ」
あ、母さん、割りきることにしたみたい。
「だから遠慮しなくていいんだよ、ヒナコ。次は何を獲ってきてほしい! 何と戦いたい!」
キラキラと瞳を輝かせる母さん。
……私、母さんが興奮してる理由、分かった気がする。これは、
閑話 ~夏の思い出~
ボーイ ミーツ カブトムシ
「このカブトムシ超つえー! もっといっぱい戦わせてみようっと!」
閑話 ~夏の思い出~ 了
って小学生と同じノリだ。
まあ、協力してくれるなら別に何でもいいんだけど……。
「そうですね、次は小さくて柔らかい相手が」
「【鎧竜】の進化形は大竜以外にも色々いるんだ」
「いえ、硬い竜はもう」
「いずれも巣立ち後の脅威になるのは間違いない」
「ですから、他の神獣を」
「戦っておいた方がいいんじゃないか!」
あ、ダメだわこれ。選ばせてくれない。
私の肩に、コハルちゃんがポフッと手羽先を置いた。
「諦めましょ、ヒナコちゃん。あの大竜と同列なら一度は戦っておくべきだし」
確かにその通りではある。
「分かりました……。じゃ【鎧竜】の進化形シリーズで」
「よし! 獲ってくる! すぐに戻るから!」
そう言って巣を飛び立った母さん。ほんとにすぐに戻ってきた。そりゃ、このクラスの神獣が本気になれば、一瞬でサーチ&キャッチだわ。
今回は両の鉤爪に一頭ずつドラゴンを掴んでいる。けどこの二頭、同系統とは思えないほど見た目が違う。
片方は、ごつごつした鱗で覆われた重装竜って感じ。
もう片方は、つるっとした黒色の鱗で覆われたスタイリッシュな竜だ。
どちらもガルファドルさんほど大きくはないが、体長二十メートルくらいはある。まあ普通にでかい。
母さんは二頭を下敷きに、ズズンと降り立つ。
「さあ、どっちと戦う? 選びな、ヒナコ」
「えっと、じゃその黒いテカテカしたカブトムシ、じゃなくてドラゴンで」
ドラゴン戦、続きます。
ポイントが1000Pに到達しました。
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