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10 私、なぜに鳥……?

 生後八日目。

 信じられないことが起こった。

 朝、目を覚ますと、なんとコハルちゃんが喋れるように!

 彼女の美声で起こしてもらった。


「ほんとに綺麗な声! 私ずっとコハルちゃんとお話ししたかったんだよ!」

「私もよ、ヒナコちゃん。待たせてごめんね」

「全然待ってないよ。孵化から二日しか経ってないし。こんなに早くどうして?」

「ヒナコちゃんが昨日、母さんと沢山会話してくれたおかげよ」


 そういえば、私の時は母さんがごくたまに口を開く程度だった。


「じゃ私達も沢山会話しよ! 私ね! 話したいことがいっぱい」

「そんな暇はないでしょ。状況は理解しているわ。すぐに取り掛かるべきよ」


 あ、あれ? コハルちゃん……?

 予想外の温度差に固まる私。


「う、うん、そうだね。……コハルちゃん、実はクールな子だったんだね」

「……あ、ごめんね、いきなりで。でも私の思考回路はヒナコちゃんによく似ているのよ。だって、前の私はヒナコちゃんに育ててもらったんだもの」

「えーと、それってどういうこと?」

「無駄が嫌いで、効率よく物事を進めるのが好きってこと。ヒナコちゃんのことだから、今後どうするか、もう考えてあるんでしょ?」


 もちろん。私達、想定よりずっと強くなれそうだ。

 なんせ、実利主義者が二羽に増えたからね。

 にしても、コハルちゃんってもっとフワフワしたお花みたいな雰囲気かと。小さな春のコハルちゃんだし。

 けどこの子は、まるで春先に吹く冷たい風のよう。


 きっと母さんも同じ印象を抱いたはずだ。


「改めてになりますが、初めまして母さん。まず、姉と私の生存を認めてくれたことに深く感謝します。ありがとうございました」

「コハル、もう話せるようになったのか。そのことはいいよ」

「では早速、私にも母さんを一突きさせてください」

「え、いやしかし、世界の理が……」

「私も一突きだけなら大丈夫です。さあ早く」

「わ、分かった。マナを解いたからこの部分を全力で」


 言い終える前に嘴で、カン! とコハルちゃん。


 直球だわ。ペテン師のように言葉を弄した私と違い、ど真ん中のストレート勝負。毅然とした物言いには逆らえない迫力がある。


 世界樹の再度の震動に母さんはオロオロ。

 私は体から湯気を立ち上らせるコハルちゃんに駆け寄った。


「かなり熱いでしょ! 私の〈風迅蹴り〉微風で冷ましてあげる!」

「平気よ。耐えられない熱さじゃないわ」


 ……そう、クールさで相殺したのかな?

 お姉ちゃんなんて昨日、耐えきれずにのたうち回っちゃったよ。

 うん、冷めた実利主義者の称号はコハルちゃんに譲ろう。

 転生してから何かと必死すぎて、私は一向に冷める暇がない。こんな世界じゃしょうがないっしょ。コハルちゃん、すごいね……。

 ではここからは、何かと必死な実利主義者の私でお送りします。

 よし、心機一転、頑張っちゃうよ。


 まだ不安げに世界樹を見上げる母さんの元へ。


「お願い、母さん。この巣を大きくしてください。母さんならできますよね?」


 私達の巣は、木の枝や盗んできたハンガーではなく、やや湿り気のある土で作られている。土壁のように綺麗に整えられたこれは、間違いなく職人、もとい精霊の仕事だ。おそらく母さんが地属性のスキルで生み出したんだろう。だったら、改築も自在なはず。


「今で充分じゃないか。雛達が存分に戦えるよう、相当広くしたんだよ」


 やっぱりデスマッチ仕様だったか。


「これからは雛が相手じゃありません。そうですね、とりあえず……、広さはこの四倍、外壁の高さは十倍にお願いします」

「よく分からないが、やってあげるよ。――地霊よ、我が求めに応じ、その形を変容せよ。〈地成構錬〉」


 ん? 何だ今の?


 ズズズッと巣が広がっていき、止まったかと思うと一気に壁が伸びた。

 数秒でリフォームは完了した。


「母さん、今の……、技能ですか?」

「技能だ。中でも、私が使ったのは魔法と呼ばれるものになる。お前達も今後、人間と関わる機会があれば学べるよ」

「魔法! ってこの世界! 人間いるんですか!」


 ……私、勝手に人間はいないものと思いこんでたよ。

 だって、もしいるなら人間に転生するじゃん、普通。


 私、なぜに鳥……?


 あ……、死ぬ寸前に思ったわ。鳥になりたいって。

 絶対に言い逃れできない証拠が全ての始まりにある気がする。

 あれかー……。実現するって分かってたら、もっとチートな設定にしたのに。あぁ、スライムが羨ましい……。


 私が物思いに耽る隣では、母さんとコハルちゃんがお話し中。


「ヒナコはどうしたんだ?」

「以前の世界では人間だったんですよ、ヒナコちゃん」

「なんと、それは実に興味深い。コハルは違うのか?」

「私は前も鳥でした。今よりずっと小さく、知能も低かったのですが」

「普通の鳥だね。それもこの神獣の森にいるよ」


 じゃあ普通じゃない私達は何?

 って訊くまでもなく、モンスターとかだよね。このサイズだし。

 それからここ、神獣の森っていうのか。いいなぁ神獣……。

 私、生まれ変わったら神獣に、って遺言すればよかったわ。


 と、母さんがふふんと鼻を鳴らした。


「しかし、だったらお前達は幸運だ。なにせ、人間達に畏れられ、崇められる神獣に生まれ変わったのだから」

「ん? ……私達が、神獣ですか?」

「無論だ。我らの使う技能は神技と呼ばれる。魔法などより遥かに高等なものだぞ。そして、この森にいるのは全て神獣、つまり、神だ」


 へぇ……、血なまぐさい神の世界もあったもんだ……。

 やったよ、父さん母さん、雛子は神様に転生したの! とてもそんな風に喜べないわ。あと十日で第二の神生(人生)終わりそうだし。

 いやいや、終わらしちゃいかん。


 コハルちゃんに視線をやると、頷きを返してきた。


「そう、あれこれ考えるのは後。今はやるべきことがあるわ」

「その通りだ。じゃ母さん、次はゴハンのリクエストをしてもいいですか?」


 とびきり活きのいいやつ、お願いしたいんですけど。

お読みいただき有難うございます。

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