24時間小説
【残り24時間】
「さあ、いよいよ24時間小説のスタートです。昨年まで当番組ではチャリティーマラソンを行っていましたが、あまりにも過酷すぎるのではないかとのご意見が視聴者様より多数寄せられ、今年から24時間で一つの作品を書きあげるという企画に変更されました。初めての挑戦者となる佐藤さん、意気込みはいかがですか?」
「そうですね。私もやったことのない試みなので、正直かなり緊張していますが、この日のためにトレーニングを重ねてきた自分を信じてがんばります!」
「気合十分ですね。どのような物語を書くのか、既に方向性は決まっていますか?」
「まずは読者の方が興味を持って下さるようなタイトルから考えていきたいと思っています。テンポよく書き進められる、会話文形式なんていいかもしれません。冒頭は無難に状況説明をする予定です」
「なるほど。貴重な時間を失礼しました。私達は一旦退出しますので、執筆に専念してください」
【残り18時間】
「現在、4時間が経過しました。状況はいかがでしょう」
「はい、かなり順調です。既に全体の4分の1は書き終えました。この勢いを維持して進めます」
「おお、それは素晴らしいですね。それでは引き続きよろしくお願いします」
【残り12時間】
「佐藤さん、何だか顔色が優れないようですが、大丈夫ですか?」
「ええ……ちょうど起承転結の転に差し掛かっているのですが、物語を大きく揺さぶる急展開がどうしても思いつかなくて……もう、駄目かもしれません……」
「大変じゃないですか! ……はい……はい……分かりました。佐藤さん、スタジオの罪闇アナウンサーと中継が繋がっています」
『佐藤ぐん、聞こえるがい? ぎみはひどりじゃない! ぼくだちも! 視聴者のみなざんも! ぎみのごどを応援じでいるがらでえ! う゛う゛っ……』
「罪闇アナウンサー……! 分かりました! 私、もう少しだけがんばってみます!」
【残り6時間】
「いよいよ時間が迫ってきましたが、進捗はどうでしょう」
「皆様のおかげで、無事に峠をこえることができました。後はラストのオチをいかに描くかだけです。これまでいただいた応援の恩返しとして、最高の作品をお届けすると約束します」
「テレビの前の視聴者の皆さんも、きっと楽しみにしていらっしゃるでしょう。私も6時間後が待ち遠しいです」
【5……4……3……2……1……】
「お疲れさまでした! ……あれ……佐藤さん? ……佐藤さん! 佐藤さん!! しっかりしてください!! どうしたんですか!? 大丈夫ですか!?」
「……え……ああ、驚かせてしまってすみません。こうしてほんの数分だけ一休みして、脳をリフレッシュさせるのが長時間執筆する際のコツなんですよ、はははっ」
「いや、もう24時間経っちゃいましたよ」
「えっ」
「……」
「……」
「……」
「……あの……実はドッキリとかじゃないですよね」
「ええ、違います。佐藤さんこそ、本当は完成しているのではないんですか?」
「……」
「まさか、あれから6時間ずっと寝ていたんですか?」
「……」
「番組の最後にスタジオで朗読する予定なのに、どうするんですか!!」
『佐藤ぐんっ!!』
「……」
「何とか言って下さいよ、佐藤さん!!」
「………………これが本当の寝オチ……なんちゃって……」
佐藤のつまらないダジャレをかき消すように、大音量で流れる『サライ』とともに番組は終了しました。