096 全艦出撃!!―――『航宙駆逐艦』(壱)
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096 全艦出撃!!―――『航宙駆逐艦』(壱)
複合要塞
準備を整えた『機動支援艦隊』は、再びグンマー宙域の暗礁地帯に潜んでいる『複合要塞』を攻略するため、ヒャクリ宙港を進発した。
先鋒は第二宙雷戦隊、本隊、後方に第一宙雷戦隊が位置をとる。旗艦を中心とする輪形陣ではなく、航宙機の取るダイヤモンドフォーメーションの組合せ。第二、本隊、第一とそれぞれが方形に艦隊を配置しているので、三つの大きさの異なるダイヤモンド陣が大まかにいえば展開された状態で、グンマー航路を前進している。
『これ、観測されているわよね』
「手ぐすね引いて待ってるんだろうな。かといって、そこそこの数の艦船が纏まって移動すれば、警戒されて当然。向こうも、それは分かっていて、どの程度戦力を投入できるかって計算中だろうさ」
暗礁宙域の相応に奥深い位置にある要塞。航宙機の数、防御のしやすさを考えれば、本来、大型宇宙戦艦ニ三隻分の戦力にでも相当する火力を有しているかもしれない。
「辿り着けるかどうかは、本隊がいかに戦力を引っ張り出せるかだろうな」
『前回までで、無人航宙機百五十は墜としているんだから、もう同じくらいは出てくるかもしれないけど、釣り出せれば勝てるわよ』
「だといけどな」
「でないと俺達が困るよ、副官殿」
ヤマトが『雪嵐』の艦橋に現れた。百人強で宇宙要塞を制圧できるのかって気になるんだが、その辺どういう計算なんだろう。戦艦なら千人単位で乗艦しているし、航宙機のメンテや施設の運用にも人手がいる。
巡洋艦程度なら百人強だが、航宙機をそれなりに搭載している大型戦艦なら二千人は搭乗員がいる。無人化されているとはいえ、それは人間ではなくアンドロイドなりサイボーグが行っているということだ。
因みに、サイボーグとは、生身の体の一部を機械化している人間のことで、脳以外全て機械化している者までいる。これは、被爆などで生身の体が大きく棄損し、尚且つ、クローニングによる体の複製も不可能であった場合においてのみ、ニッポンでは合法とされている手法だ。
生身の人間の力を大きく逸脱するる能力を有するサイボーグは、一部人権を制限された状態になるので、喜んでサイボーグ化する人間は少ない。宇宙開拓時代において、サイボーグ化する冒険者や開拓者と呼ばれる先達は存在したが、安定するにつれそうした身体の機械化のような不可逆的人体改造は行われなくなる。
今では、強化服によるサポートやアンチエイジングによる老化時期の到来を遅らせる(が、寿命は同程度)程度がせいぜいとなっている。
死ねないからだというのは、眠れない状態に等しいようで、やはり百年を大きく超えて生きていくサイボーグ化された身体を持つ人間というのは正気を保つことが難しいとされる。人間の脳は、生身の体を動かす事で生きていると実感できるため、それを長く失っているという事は、人ではない何かになり兼ねないみたいだな。
なので、百歳を超えた場合、生身でもサイボーグでも安楽死を自ら選ぶ権利が認められている。
人は時代の子というが、生まれ育った時代と価値観や人の繋がりが変わるというのは、中々難しいんだろうと思うわけだ。
「無人化された要塞。内部の状態を極力報告するようにという命令を俺達は受けている」
「けど、近寄るまでに、相当痛めつけないと無理だろ?」
「それは、別動隊の指揮官である君次第なんじゃないかな」
それはどうだろう? いやほら、地上なら相手の監視の隙を突くようなレトリックを考えるだろうが、地面を掘るわけにも、水の中を潜るわけにも、高空からステルスダイブするわけにもいかないじゃん。宇宙だし。
「デブリに紛れてってのもな……」
「距離と時間の問題があるからな。移動してくれているなら、相手が向かってくる場所に罠を仕掛けるという方法もあるが、要塞が移動するというのも考えにくい」
「何か考えるさ。その場で」
「その場でか……期待している」
いやその重たい期待の籠った眼差し止めてください。
相手に戦闘艦の用意があれば、なんとかなるかもしれん。
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『知床』をグンマー回廊に残し、残りの部隊は三手に別れ『複合要塞』が位置する暗礁宙域までゆっくりと進撃する。先行させている『龍田』の無人偵察機からの情報を受けつつ、俺達はそれぞれが無線封鎖した状態で移動をしていく。
無人偵察機の情報は『知床』に送られ、そこから各部隊へと暗号化され転送される。大きな出力で全方向に発しているので、パッシブな受信以外一切こちらは発しないのだが、それでも『知床』の発信した電波により、何らかの部隊が接近していると理解しているだろう。
亜光速で数分の距離を保ちつつ、三部隊は時間を合わせるように想定する宙域へと進んでいく。
『聞き耳を立て、足音を忍ばせて敵に近寄るというのも、風情があるわね』
「ニンジャだな」
ニンジャとは、『サムライ』とならんでニッポン文化を象徴するコンテンツの一つでもある。その昔、武士に仕えた諜報員の名称と言われる。ニッポンでは講談や子供向け映像作品などで好まれた存在だが、不思議な術を駆使する超人的な存在と海外では理解され、ある種の『魔法剣士』と解釈されてから
人気の存在となったらしい。
ニンジャと亀を混ぜたキャラクターとか……ニッポン人には理解できない組合せが流行った事もあったらしい。
「ニンジャというのは、何でも屋であったようだしな。商人や職人、宗教者に化けて諸国に入り込み、情報を収集し噂を流し世論を操作する。軍事物資の買占めや交通路の破壊工作に暗殺、軍事施設の破壊なんかもしたようだ」
『何でも屋って意味では、この部隊もそんな感じよね』
確かに。輸送艦隊のようで、実際は要塞攻略のために部隊を送り込み、制圧しようと考えているわけだしな。実験部隊でもある。なんでもやらされる貧乏性な所もイメージが近い。他に行っても使い道のない人間が集められているという気もする。
前回よりも遅い速度、0.1AU/hほどで前進する。時折、周辺からの電波を受信し、見つかっている可能性を感じつつ予定通りの前進を続ける。
三手に分けたのは、三手に迎撃戦力がわかれることで、本隊が目標に到達しやすくするという意味もあるが、時間差で第一第二戦隊が戦場に到達することで、相手の予備戦力を引き摺りだすという意味もある。
本隊には『簡易晴嵐型』とはいえ、相応の火力を与えられた七隻の直掩がついており、前回よりも火力が上だと言える。また、『龍田』の副官AIによる統合的防宙体制も期待できる。
『先行する本隊、そこに喰いついた敵がどの程度揺さぶられるかよね』
「第二が後続で到着、巻き込まれたように見せかけ戦力の逐次投入の演技次第だな」
『それと、本隊は、第一が戦場に現れてから切る、切り札があるんだってさ』
聞いてないんですけどぉ。どうやら、戦場に到着してからのお楽しみとナカイ艦隊司令官に告げられているらしく、俺は『サプライズ』扱いして欲しいらしい。なにそのコンパ的イベント感。戦場だよここは!!
無人偵察機が二機ほど撃墜されたものの、きわめてステルス性の高いそれは、予想通りの宙域に複合要塞の姿があることを確認し、報告を帰してきた。
予定時間的に、そろそろ本隊が複合要塞に接触する時間になる。すると、通信を受信する。
『機動支援艦隊……接触……』
その後、『攻撃開始』と通信が入る。
「ツユキ、正面のスクリーンに本隊の交戦映像は出せないか?」
艦橋に居座るヤマトが口にする。
『勿論できるわよ』
俺の言葉を待たずに、AI副官が映像を切り替える。恐らく、『龍田』の艦橋から見える映像なのだろう。正面から光条が迫ってくる様子が映し出される。
「爆弾と同じで、同じ点がどんどん大きくなると命中するんだよな」
「ずれて横長に多少見えていれば、当たらんのだろう。今の距離なら、命中しても艦首の防御シールドで十分減退できる」
とはいえ、有機的に結びつきつつ陽電子砲の光の槍を回避する操作は、この場合『龍田』のAI航宙副官任せとなる。ビビッて人力回避なんてすれば、命中する確率がぐんと上がるので、操舵器に手を触れないようにお願いします。
俺だってやらんよ。副官の方がましだ。
『味方艦発砲開始!!』
直前でナカイは、全ての直掩艦の主砲を『強化レールガン』にするのでは無く、三隻を双胴化してシールドモジュールを装備させるように変更した。その上で、四隻は『強化陽電子砲』を装備し、牽制かつ、一般的な砲撃を行うように見せかける役割を与える事にした。
「何か企んでるんだろこれ」
『さあね、蓋を開けてのお楽しみなんじゃない?』
「気になるか。録画して後で纏めて見るか」
いや、ヤマト宙佐。君この後すぐ!! って奴だから。そろそろモジュールに戻るなりPFSに乗り込むなりして準備した方がいいんじゃないかな?
「派手な打ち合いだな」
『振りではないと思わせる為ね。シールドモジュールが役に立っているわ』
簡易型は本来、シールドもJDユニットも省略され持たないが、今回はは敢えてそれをモジュールで装備させている。
減退しつつもシールドに負荷をかけた至近弾がナカイ隊を掠めて後方へと消えていく。命中した!! やば!! と内心思いつつも、お互いの主砲は致命的なダメージを相手に与えていない。
既にレールガンを何射か発しているが、着弾迄には数十分の時間がかかりそうだ。移動していない要塞ゆえに、無誘導のレールガンでも攻撃が回避されない。昔ながらの攻城兵器よろしく、レールガンを発射したのち、弾丸を撃ち尽くすか、過熱によるクールタイムを必要したのかレールガンは鳴りを潜める。
『敵無人航宙機接近。対宙迎撃用意』
数は五十前後と推定される、大型航宙機が接近。宙雷を装備した機種のようだ。前回は少数投入されただけだが、今回はその全機が大型機となっている。
「危険だ」
『大丈夫よ。嚮導巡洋艦は伊達ではないのよ!!』
AI副官魂が火を噴いたかのように、カスミが声を張る。敵の砲撃間隔がかなり空く。航宙機の空襲に合わせてクールダウンするのだろう。先ずは、主砲の単装陽電子砲が遠距離から射撃を開始する。対宙迎撃が可能な位置にある数門の57式が光条を放つ。二つ、三つと小さな爆発。が、大多数はその光条を抜け、ナカイ隊に接近する。
『対宙パルス射撃開始!!』
各艦七門、 計四十九門に加え龍田の対宙パルスが迫りくる宙雷を迎撃すべく、細かなチラチラと光る光点の束を放つ。
『第二戦隊到着、敵航宙機に攻撃を仕掛けます』
タイミングよく、ヤエガキ隊五隻が戦闘宙域に到着。攻撃態勢に入っていた航宙機に横合いから陽電子砲の一斉射撃で殴りつけるような攻撃を加える。回避し損ねた数機が爆散。
宙雷の射点に入ろうとする航宙機は、プログラム通りに行動しようとしているのか、それとも判断できずにコントロールする指揮官機が混乱しているのか、その位置にヤエガキ隊から射撃を受け、一旦回避するように戦場を離脱しようとしている。
「そろそろこっちの出番か?」
『まだよ。そのタイミングがはっきりわかるようになっているから』
ニシシと声を上げて笑いたいような空気を醸し出す我が副官AI。なにが起こるかお楽しみだと言いたいんだろうが、そろそろ種明かしをして貰いたい。そんな事を想っていた俺なんだが……
『画面を切り替えるわよ』
複合要塞を観測するカメラの映像に切り替わる。そして、要塞のあちらこちらに爆発が発生する。爆発?
「……ナカイの奴、何やらかしたんだよ」
不自然な爆発は、どうやらレールガンの弾頭の効果によるものらしい。普通の質量弾じゃなかったのかよと、俺は内心疑問におもった。答えをそろそろ教えてもらいたい。
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