095 統幕との調整―――『簡易多用途任務艦その2』(完)
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095 統幕との調整―――『簡易多用途任務艦その2』(完)
「……随分狭いんだな」
「カプセルホテル並みの住環境だ。長期の作戦行動には、母艦での休養をある程度行う必要がある」
「なるほど……想像以上のたこ部屋だ」
階級は俺が上、だが、年次はオッサンの方が上。ということで、俺とイソザキ准佐は『タメ語でOK』ということにした。公式の場においてはそうとは限らないが、少なくとも『雪嵐』内ではそれで通す事にする。
因みに『幕僚』には指揮権がないため、俺が戦死してもイソザキ准佐はあくまで見学者として同行する以上の存在ではない。第一戦隊の次席指揮官が指揮を執る。ラインとスタッフは別の指揮系統にあると言えばいいだろうか。ナカイが命ずるならその限りではないが、『晴嵐型』の戦い方をよく理解できていない新任幕僚に権限を渡す事はナカイに限ってはあり得ない。あいつは、実力主義でシビアな女だ。
イケメンポンコツより、不細工な識者を選ぶと言えばいいか。
イソザキ准佐は、予想通りこれまで日の当たる道を歩いてきたようだ。宙軍士官学校を首席ではないものの一桁の席次で卒業、戦艦に配属されそこで経験を積んで巡洋艦の戦術士・戦術長を務めたのち宙軍大学へ進学。そこで良い成績を収め、戦艦の戦術長として現場復帰。一貫して機動艦隊に所属する主力艦で勤務してきた。
幕僚職も、この先の昇進を踏まえたOJTの一環であり、一年程度の勤務で移動するという内示を受けているらしい。つまり、完全な腰掛なわけだ。普通、高級士官は一二年で次々転属していくので、これが普通。ナカイ組が流れから取り残されているだけなんだが。
「俺は駆逐艦しか知らないから何とも言えないけど、補助艦艇とか小型艦はこんなもんだ。いや、個室がある時点でかなり優秀だな」
「……そうなのか」
「ああ。あんまり箱入りなのも問題だな」
ムスッとするイソザキ。主力艦しか乗ったことが無いからそういう不見識なことを言えるんだよオッサン。特務艦なんて、居住スペース削って必要な機能をぶち込んでいるから、人間にやさしくない艦船がほとんどだ。
主力艦である戦艦・巡洋艦は、対外的な問題もある。他の宙域国家に赴く際に、軍や政治家を招いた交流会を行う事もある。なので、相応に居住性や生活設備は高級ホテル並みの装備を持っていたりするし、士官の使える空間はその恩恵をかなり受けている。旗艦業務を担う戦艦・重巡なら艦隊司令官の居住空間・同行する高級佐官である幕僚の居室や専用食堂、会議室、レセプション用の広間なんかも用意する必要がある。
それと比べれば高級車と自転車くらいの差があると思う。健康に良いのは自転車。だから、別に負けているわけではない。
ザックリ艦内を案内し、特に役割を与える事もなく、艦橋にある予備シートで作戦中は随時時間を過ごして良い事を伝える。
「何もしなくていい……か」
「幕僚はそういうもんでしょが」
『素人が余計な口出しすると迷惑なのよね。はっきり言わないとわからないのかしら?』
「はっきり言い過ぎだ。副官としては、まあ、職分のうちか」
『スタッフがラインに直接指示するなんて越権行為でしょ。まあ、己が分を弁えていればいいのよ』
辛口トーク炸裂!! 実際、そのままなので、反論する余地がねぇ。
今回の作戦計画は特に修正もなくそのまま実行に移されることになった。「何かあったら計画幕僚=ツユキ宙佐のせい」という事になったようだが、幕僚は案を提出するだけの簡単なお仕事であって、実際に決断し実行する司令官の責任とは別だよね。
――― 何があっても俺のせいじゃねぇ。強い気持ちで頑張ろう!
とは言え第一戦隊は揚陸部隊を載せているのだから、一番リスクが高い任務でもある。制圧攻撃が不発だと、近寄った時点でボカンとやられる可能性もあるんだ。
「宙兵隊の指揮官は……」
「ヤマト宙佐。何度か共同作戦の経験がある。それに、俺達と同期でもある」
「……また身内か。だが、指揮能力には定評がある指揮官だ。しかし、お前らの学年、既に宙佐にまで至っている奴、多すぎじゃないのか?」
成果を上げると出世するのだよイソ君。これからはイソ君と心の中で呼ぶことにする。
「評すべき成果を上げて昇進しない方が問題でしょう? 俺達はそれなりに結果出してるからな」
「……まあ、艦船に乗った年数で昇進するよりは軍としては健全か」
平時ならそれで問題ないんだが、今は戦時もしくは準戦時体制だ。大昔の艦隊司令長官も、「彼奴は運がいいから」といった理由づけて推挙されたという逸話もあるが、戦闘で生き残り成果を出したなら、より大きな権限を与えて運を味方につけた方が宙軍にとっては良い影響を与える。
もちろん、優秀ながら機会を得ていない人も沢山いるだろうが、そんな機会が山ほどあるのは、完全に全面戦争、そして絶え間ざる戦争の時代にならなければ起こりえない。
そんなことより、退役後の第二の人生に思いをはせる方がいい。
狭い艦内、僅か十名の乗員にイソ君を紹介し案内するのは三十分もあれば十分であった。まじで、やる事がないのは可哀そう。だが、それに付き合ってやるほど暇じゃない。
『宙兵隊から通信入ります』
「了解。受け入れ態勢の確認だな」
今回は短い時間だが、強化一個中隊=四個小隊を『雪嵐』だけで送り込む。グンマー航路中は『知床』に乗艦してもらって、暗礁宙域に入る時点でこちらに移ってもらう事になる。
捕虜を収監する設備をPFSに増設した分、居住性が悪化しているので、最初から乗艦させるのはよろしくないとなったらしい。まあ、一日二日でも訓練を怠ればパフォーマンスが悪化するってことか。『知床』の格納庫なら十分に訓練できる余地もある。要塞内に潜入した際の予行演習だって可能だ。知床最高!!
『ツユキ、また世話になる』
「そらこっちのセリフだ。今回はケツ持ちしないから、そっちで単独で頑張って制圧してもらうぞ」
『ああ、勿論だ。君の危なっかしいパワードスーツの運用が無いというのは、正直、安心だ』
失礼だなヤマト。一応、士官学校での評価はAだったぞ、パワードスーツの演習な。まあ、まっぐ歩かせられればOKレベルだが。
ヤマト曰く、知床に二個中隊と大隊本部を残し、選抜強化中隊をヤマトが率いて突入するという事だ。相変わらずの前線主義者だ。お前は、ジョージ・パットンにでもなる気か?
『放っておけば、艦隊司令官殿も旗艦を先頭に突撃しかねないではないか』
「いや、あいつも成長して、今回は簡易艦を砲艦仕様にして遠距離砲戦をメインで行う役割だな」
『はは、相変わらず勇ましいね。巡洋戦艦並の主砲を持つ要塞らしいじゃないか。それと正面切って軽巡と多用途砲艦で撃ちあうなんて、正気じゃないと言われそうだな」
「いや、言われてはいないが思われている」
イソ君が横で二人の会話を聞きながら、深く頷いている。まあ、あの作戦計画案からすると、それでもリスクが最低なラインなんだけどな。突撃大好き人間だから、戦艦とか乗せたら絶対ダメなタイプ。
「ツユキ、実際この作戦の成功の見込みはどうなんだ」
イソ君、君とはそんなことを開襟して話をするような仲ではないよ。と思いつつ、話をしないわけにもいかない。ナカイに悪意や敵愾心を持たせたくないからな。
「簡単ではないが、十分可能だ」
「……宙雷二個戦隊と宙兵一個中隊で要塞攻略を達成するのがか?」
そう、まともじゃないんだが、相手も半無人化された要塞だから、地の利に依拠した部分を除けば、さほど脅威ではない。
「無人航宙機のコントロールも単純だし、さほど多くの人員を要塞に配置出来ない故の、暗礁宙域での展開だろうな。大型戦闘艦が入り込めないのであれば、航宙機による襲撃で撃退できるか、近寄った場合においても巡洋戦艦並の陽電子砲の射程を生かしてアウトレンジで攻撃部隊を排除出来ると計算したんだろう」
機動艦隊に随伴する宙雷戦隊だったらその通りだ。あれは、主力艦同士の戦闘の前の露払いと、追撃するための戦力だ。正面からの殴り合いを行うのではなく、戦闘によるダメージで防御力や速力の低下した主力艦に止めを刺して回る、『騎兵』のような役割だろうか。
『騎兵』で要塞を攻めることはまずない。と考えれば、暗礁宙域のような大型艦の行動に制約のある場所に要塞を築き、無人航宙機による通商破壊・後方攪乱を行った意図はある程度理解できる。
小型艦で装甲巡洋艦や巡洋戦艦並の砲撃力を持ち、それを束ねて撃ち合いを挑もうとするような発想を持つ司令官がいると想定しなかったんだろう。司令官はともかく、艦船はその通りだな。
「精神的な奇襲効果が十分にある」
「奇襲効果?」
「相手の虚をつくことが奇襲であるのなら、大型艦の入り込めない暗礁宙域に大型艦の砲撃力を持ち込める手段を有しているというのは、十分に奇襲効果を発揮する。別に、鹿が駈け下りれるなら、馬でも降りられるなんて考える事だけが奇襲じゃない」
「……なるほど……」
ディスってないですよ! 当時の戦の常識の外で策を巡らせることって重要だもんな。九郎義経は小柄で非力だったという話もある。弓を取り落とした時に、余りにも弱い弓であることから、敵に奪われたら良い恥さらしだと
心配したとか。
小柄で弱兵であるからこそ、勝つために手段を問わなかったということもあるだろう。体格に恵まれ、武勇に優れた人物であれば『兵法』なんて考えなくとも十分武将として活躍できたんじゃないか。知らんけど。
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『むふん』
「……なんだ。参加する気か?」
『うむ、少々頼まれてな』
ハシリミズ技術宙尉経由で、技本が今回の作戦に『機式宙兵』を押し込むように機動支援艦隊に圧力をかけたらしい。技本って偉いのか?
『そうではない。宙兵隊とは別の案件で、統幕も絡んでおる』
ツシマやゴトウを宙国艦隊に制圧された場合、もしくは、逆上陸作戦を行う必要が発生した場合、『機式宙兵』が即戦力として稼働できるのであれば、大隊規模で整備し、キュウシュウ星系、具体的に言えば『大鳳』の中に収容し、要塞へのバックアップとしたいのだという。
気持ちはわかる。特に、相手の反撃体制が整わない間、更にいえば、ニッポン人が後方に拉致される前に奪還できる手立てがあるかどうかは、宙軍の防衛計画に大いに影響するだろう。後方に予備戦力を確保するか、ツシマとオキナワに大規模な艦隊を配置するかで、運用計画が大きく変わってしまう。
奪還できる戦力があるなら、後方であるキュウシュウ星系に戦力をある程度纏めておく方が手が打ちやすく、補給も整備も楽だ。要塞とはいえ機動艦隊を常時配備できるほどの整備力も補給力もない。小天体を改造した要塞と、その周辺の哨戒基地群と、一つの星系まるまるでは桁違いなのは考えるまでもない。
戦力の分散も避けられるしな。
「で、今回は満員だが、『知床』にでも乗艦するのか?」
『まあ、そのような感じだ』
歯切れの悪い回答に疑問も感じるが、まあ、あまり関わるもんでもない。
「新任幕僚と仲良くやってくれ。そういえば、お前も同期だったな」
『同期と言えばそうだが、宙軍士官学校と、宙軍技術学校では卒業年次が同じというだけではないか』
「……アンチエイジング、受けとけよ」
『ぐはっ!!』
二人のおっさん幕僚と見た目は同じくらいのデーブ技術宙佐。あいつは戦闘要員じゃないから別にアンチエイジングを受ける必要性はあまり無い。受ければ、徹夜が退役間際まで問題なく耐えられるようになるくらいがメリットだな。長時間労働、良くない。が、技術者には避けられない「納期」
というものがある。
計画が間に合わないからと言ってスペックを下げ要求を満たそうとするのは論外だが、予算の獲得、成果の評価といった面で、計画が遅滞するのは技本も宙軍省本体もよろしくないと考えるだろう。
俺達とは別の意味で、技術者は技術者の戦いをしているわけだ。それは、あっちの国でも同じなのではないかと思う。負けられない戦いがあるんだよね。
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