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094 統幕との調整―――『簡易多用途任務艦その2』(参)

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094 統幕との調整―――『簡易多用途任務艦その2』(参)


「却下」

「「……」」


 やっぱり突き返された。いやほら、階級は二つ下とはいえ士官学校じゃ先輩だったわけだろ? もう少しものの言い方に配慮しろよ我が司令官閣下。将官と佐官じゃ、立場が全然違うけどさ。宙軍は階級より年次が大切な組織だから、先に入った下士官が佐官より偉そうな場合もある。


 そういうのが嫌なんで、こういう組織をナカイは作ったんだろうな。同期や年の近い顔見知りの先輩後輩に、あとは中途採用の予備役将校枠の将校。ナカイにつるんで逆らうような士官が存在しない。言い換えれば、宙軍省や統幕に紐づいている奴らもいない。


 だから、どういうことなのか、気になって『幕僚』として送り込んできた。そもそも、機動艦隊(一軍)や星系防衛艦隊(二軍)ですらない『機動支援艦隊』に、行きたがる艦船乗りがいない。なので、『幕僚』を送り込むくらいしか無かったのだろうと思う。次は機動艦隊か星系防衛艦隊に『幕僚』で異動できると説得したんだろう。


 つまり、最初から機動艦隊の幕僚が務まるほどの器でもなく、こっちに寄こしても問題ない程度の「幕僚」ということだ。だから、心をへし折って大人しくナカイの命に従うようにしたいんだろうな。情報が流れるのは仕方がないが、余計な手間暇を戦闘中に「提言」されるのは嫌なのだろう。


「なにか不明な点でもあるのでしょうか」


 イラっとした空気を纏い戦術幕僚・イソザキ准佐が声を上げる。隣の航宙幕僚・ホンダ准佐も不満げな表情だ。


「戦力の集中というのは、戦場で発揮するべきものであって、移動する宙域が小天体やデブリが多く、通れる航路の制限のある暗礁宙域において最初から細長い縦列をつくりまとまって行動すれば、側面から小艦艇などで急襲されるリスクが高まるとは考えないのでしょうか、お二人とも」

「「……」」


 先行させる偵察にしても、所詮は『晴嵐型』である。さらに、小天体やデブリに紛れて潜む航宙機や小型艦艇を確認するには問題がある。


「そして、何故、今回も93式宙雷をメインの装備にして複合要塞の強襲作戦を立案しようと考えたのでしょう」

「……宙雷戦隊ですし、最も威力の高い装備を主にするのは当然かと愚考する次第です」


 あ、『愚考』って謙譲語じゃなくって、マジで『愚考』だと思ってるだろナカイ。笑顔が増しているんですが……


「その通りです。まさに愚考」

「なっ!」

「駆逐艦ではなく『晴嵐型』は多用途任務艦。モジュールの交換で如何様にも対応することが可能です」


 前回の複合要塞への接近は、遭遇戦を前提とした威力偵察の類だ。対応する必要がある無人航宙機対策として『対宙パルス砲』モジュールを各艦装備させ、継戦能力より一撃の威力を重視した93式宙雷を撃ち逃げした形で戦闘を終了させている。接近するつもりも、揚陸するつもりも無かったのだからそれでいい。


 しかし、今回は、じっくり炙り出すつもりで戦闘を行う。潜んでいる可能性のある駆逐艦ないしコルベットを引っ張り出す必要性もある。


 その為、『龍田』率いる簡易型七隻の本隊を「長距離射撃戦仕様」、第二戦隊を「中距離支援仕様」、そして、揚陸部隊を擁する第一戦隊を「近接戦仕様」として仕上げている。個々の艦艇ではなく、それぞれの部隊単位で機能するようにモジュールをくみ上げていると言えばいい。


 機動艦隊のように、固定武装により、敵主力を叩くといったドクトリンの定まった艦隊ではなく、作戦により武装を差し替える『航宙機』に近い運用を行うのが『晴嵐型』を主力とする艦隊の在り方だ。


「では、お二人はこちらの資料に目を通してください」


 二人の個人端末に、これまでナカイが率いた『晴嵐型』多用途任務艦の実行した作戦と、その際に用いたモジュールの組合せ、作戦の推移についての簡単な纏めが送られる。これ作ったの、俺だから。良く読めよセンパイ!


「……随分と作戦ごとに装備を入替えている」

「一個の駆逐隊や戦隊においても、装備の組合せを変えて機能を分けているのだな」


 そうだ。射撃統制する艦とそのデータリンクで射撃を行う艦とか、モジュールの切替で『仮装巡洋艦』『揚陸艦』『工作艦』『掃海艦』『輸送艦』『無人機母艦』と多種多様な『雑務』をこなす事ができる。


 大型艦なら複数機能を有するのは当然だが、コルベット並みの大きさでこれを行うのは本来はかなり難しい。コルベットは武装も装甲も貧弱、航続距離も限られ速度は艦隊行動にかろうじて随伴できる程度。機動艦隊においては雑役艦扱いだ。


「今回は、複合要塞という名前の実質『宙華製天照宝珠』に強襲をかけることになります。一度発射したらお終いの93式宙雷を装備し、その宙雷による攻撃が終われば豆鉄砲と揶揄される57式陽電子砲しかもたない『晴嵐型』二個戦隊でどうやって攻略するのか。考えての提案でしょうか?」

「「……」」


 考えてないよね。宙雷戦隊とはこういうもので、その為の運用が定まっている。つまり、攻略対象・作戦ではなく艦種の持つ表面的な能力を前提に作成した。艦隊随伴型の『吹雪型』であれば、要塞攻略なんかに主力として投入されるわけがない。


 機動艦隊であれば、戦艦・装甲巡洋艦による遠距離攻撃、宙雷戦隊による中距離支援、強襲揚陸艦か宙母の艦載航宙機による近距離支援と揚陸が行われることになる。


 これを機動支援艦隊は全て『晴嵐型』多用途任務艦で置き換えるわけだ。


「駆逐艦を巡洋艦はともかく、戦艦や宙母の代わりに運用するとか馬鹿げている」


 航宙幕僚ホンダ准佐が不満を口にする。


「馬鹿げている? ミカミさん、あなたどう思うかしら」

「確かに馬鹿げていますけど、馬鹿げているのは新任のお二人の方ですね」


 オッサン二人がきゃるぴんに顔を向ける。こっちからは見えないが、多分、怒りをあらわに睨み付けてるんだろうな。ほら、そういうのハラスメントだから。感情を表に出してはいけません。どんな淑女教育だよ。


「まあほら、馬鹿げているからナカイは英雄扱いされてるんだろ? 階級で物言いたいわけじゃないが、実績があるんだからこの艦隊の幕僚なら、自分の過去の経験で物を推し量るのではなく、多用途任務艦の運用を模索する形で提案するべきではないかと『愚考』します」

「ましな愚考ね。その通り。そもそも宙雷戦隊なんていうのは、宙軍が勝手につけた名称ですもの。多用途任務艦なのだから、時には掃海や工作活動だって行っているのに、宙雷戦隊=駆逐艦としているのは便宜上他に表現方法を考えられなかった故の方便。駆逐艦の役割を果たせるから駆逐艦とされているだけで、駆逐艦でしかない他の艦種と一緒にするのはどうかと思うわね」

「それはそうね。まあ、今回の課題は、論より証拠というか百聞は一見にしかずというか、機動支援艦隊というのは役割りが定まっていないってことを理解してもらうために二人には運用計画を策定してもらったんだよね」


 首席幕僚クルリ宙佐がナカイの言葉を引き継ぐ。


「そもそも、機動支援艦隊って、雑用係何でも屋な扱いを受けているわけ。だから、要塞攻略なんてどう考えても任務外じゃないのかって役割を押付けられる。多分、第四機動艦隊辺りが適役だろうね」


 第四機動艦隊は宙母『信濃』と『利根型』二隻を含む重巡洋艦三隻を持つ部隊だ。十分な航宙支援の下、『信濃』を強襲揚陸母艦として使い、制圧することができるだろう。何なら、戦艦一、二隻を臨時に支援隊として指揮下に加えるのもありだろう。


「でも、実際は多用途任務艦二個戦隊と軽巡一、大型補給艦一で実行

することになる」

「……無理です」

「そう言えるのは艦隊司令官じゃないからね。上がやれと言えば、諾と返すしかない私の立場はどうなるのかしらね?」


 いやほら、出来ない事は出来ませんとはっきり言う教育を受けた世代だから。できませんは、嘘吐きの言葉なんじゃないかな? 伝説の暗黒企業の経営者の言だが、軍隊だと「不可能を可能にする」みたいな、カッコよく変換された言い回しになる。言ってることは同じだからね!!


「では、ツユキ宙佐。あなた達の本来の計画をお二人に説明してもらえる

かしら」


 ヘイトがこっちに向くだろ!! そういう言い方やめてくれませんかね。


「では、手元の攻勢計画案を確認してください」


 さて、どんな『愚考』扱いされるんだろうか。心が折れないことを祈るぞ。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★





「最初からこれがあるなら……」

「課題という物があるのではないかしら」


 インプットではなくアウトプットも必要なのが幕僚のお仕事。今までの過去の常識や基準で自己判断された場合、ナカイの指示が歪んでとらえられ、その下に出す命令が間違ったものになる可能性が高い。


 士官学校・軍大学、統幕を始めとする主流派の考え方で機動支援艦隊を捕えれば「大して役に立たない雑役艦を集めて支援させる艦隊」という役割りになる。多分、その中で『駆逐艦なんだから駆逐艦の役割りを与え、出来ることをさせれば十分』という発想になる。


 だが、『晴嵐型』は、数を揃えれば、十分巡洋戦艦か装甲巡洋艦並みの砲撃能力を発揮できるし、無人航宙機母艦や強襲揚陸艦の真似事も組合わせれば不可能ではない。つまり、『艦種』ではなく、どのようなまとまりで『装甲巡洋艦』『強襲揚陸艦』の役割りを果たさせるかという考えになる。


「今回は、『龍田』旗下の七隻の簡易型をまとめ、『強化陽電子砲』『強化レールガン』『対宙パルス砲』モジュールを組合せた装甲巡洋艦仕様で遠距離から攻撃を行い、敵の戦力を要塞から引きずり出すのを初手と考えます」


 俺は、策定した計画書を読み進める。いつものことだが、きゃるぴんとヤエガキは聞いていない。まあ、読まなくても想像がつくからだが、ちゃんと会議に参加しろよ! そういう事やぞ!!


「つまり、モジュール次第で装甲巡洋艦の遠距離砲戦能力を持てると考えればよいのでしょうか」

「ええ、その通りです。尚且つ、装甲巡洋艦では速度を維持できない暗礁宙域においても、小型の『晴嵐型』であれば、その推力偏向ノズルを用いて機敏な機動により短時間での通過が可能となります」


 火力×速度²だっけ? 単純な速度では機動艦隊を編成するような主力艦に劣るものの、複雑な引力や障害物がある宙域において、推力重量比に優れた『晴嵐型』は、大型艦のそれを大きく上回る使い勝手の良さがある。


「『龍田』の有している小型艦を統合運用するためのAI副官ら、指揮統制システムもその為のものです」

「ああ、それで、新造軽巡が機動艦隊には回されないか」


 いままでであれば、新造艦は機動支援艦隊にまず配備される。そして、型落ちが星系防衛艦隊、更に型落ちが支援関係に廻される。その際、多くは艦種変更され『特務艦』やら『雑役艦』とされる場合が多い。


 今回、改能代型二番艦『龍田』が、機動支援艦隊に配備されたことは主流派から問題視されたらしい。贔屓だとかなんとか言う者もいたとか。


「機動艦隊の宙雷戦隊では統制射撃など行わないでしょうから、無用の長物になりかねません。今後増加する、『晴嵐型』多用途任務艦を率いる旗艦任務を担える艦艇として『改能代型』は建造されていますから」

「適材適所ってやつだよね」

「確かに。『矢矧』と比べると設備はショボいのは、大型支援艦が付いてくる前提だからですかね。納得いかないんですけど」


 確かに、食堂や士官室、風呂場とかが簡素になっている気がする。戦時用だからあんま無理言わない方がいいんじゃねぇのミカミどん。


「機動支援艦隊はあんまり長期の任務無いから、その辺は多少簡素でも問題ないよねー」

「問題ありまくりです!! 短い任務でもストレスは極厚ですから!!」


 同じ情報通信幕僚でも、戦隊司令と艦隊司令官付きでは強度が異なる。まして、新設艦隊であるこの艦隊では、情報も通信も大いに増えているのだろう。そら、逃げるように『雪嵐』に時たま現れて好き勝手やって帰って行く理由が理解できる。嬉しくはないが。


 戦隊司令はあまり仕事が変わっていないので、特に気になっていなかったが、きゃるぴんは随分と仕事が増えているらしい。目が血走っているのはそのせいか。正直怖い。


「まずは、それぞれの戦隊司令の乗艦に乗って頂いて、実戦を経験するのが良いかもしれませんね。いかがですかお二人とも」


 なんだよナカイ。おっさん二人が煙たいからってこっちに廻すんじゃない。ヤエガキの艦なら「あたり」だが、『雪嵐』なら「はずれ」ってどういう意味なんだよ。俺だっていやだわ、軍大学出ているエリート様に横で見張られて戦闘指揮取るなんてのはさ。


 でも、まあ、仲良くしないとね。艦隊派の方々に目の敵にされるのはナカイにとってよくないことだからな。



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