093 統幕との調整―――『簡易多用途任務艦その2』(弐)
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093 統幕との調整―――『簡易多用途任務艦その2』(弐)
機動支援艦隊に、ようやく新任の幕僚二名が到着した。よかったよ俺。
「機動支援艦隊戦術幕僚を拝命しました……」
「同じく、航宙幕僚を拝命しました……」
はい、俺とヤエガキの兼任幕僚が解除されました。今までも、AI副官とナカイで凡そ問題なく計画は用意できていたし、俺とヤエガキはチェックするだけの簡単なお仕事だったので、宙軍の人事計画上の問題以外に特に問題は発生していなかったと言ってもいい。
ナカイが挨拶をし、継いで、首席、ミカミ、俺、ヤエガキという順に、艦隊の幹部を紹介していく。そう、俺幹部だから。患部じゃないやい。
「では、早速仕事のとりかかって頂きます」
「……え……」
いやほら、グンマー宙域の不審船を通り越して、怪しい無人攻撃機の拠点を攻撃する準備中だって、聞いてないのでしょうかお二人は。
二人の新任幕僚はナカイより五六歳上の准宙佐。士官学校の卒業年次は解らないが、四五期上だろうな。俺もナカイも最年少で入学している口だから、年齢よりも実際の入学年次は近くなる。
「お二人の情報端末に、これまでの戦闘詳報と今回の掃討作戦の計画を送ります。精査した上で、それぞれの航行計画・戦術プランを提示してもらえますでしょうか。明日の朝いちばんで提出をお願いしておきますね」
「「……」」
「お返事は?」
「「了解しました!!」」
今日のところは、それぞれの執務室で明日以降の計画立案に専念して構わないと伝え、ナカイは二人を送り出した。
「面倒ね」
「これからますます増えるだろ? 慣れるしかないな」
「まあ、足しにならずとも邪魔にならなければ良しとしようかな、私としては」
「手厳しいですねー まあ、ナカイ組のやり方に慣れてもらうしかありませんね」
ナカイ組ねぇ……まあ、宙軍のエリート様からすれば腹立たしいかもしれんが、成果を上げているなら、やり方を変える必要はないということもある。つまり、ナカイが気を使うのではなく、お前らが艦隊司令官に合わせろってことだ。
「まともな計画、上がって来るかしら」
「そりゃ、妥当な内容で仕上がるんじゃないかな? それで、ぬるければ、締め上げればいいんじゃない?」
おっかないんですけど、ヤエガキパイセン。階級は下だけど、あの人たち先輩だよ! もっと優しくしてあげてよね!!
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どうやら『晴嵐型』を主とする艦隊運用が初めてのようで、『戦術』『航宙』幕僚とも計画が立て難いというか……うまく思いつかないらしい。
そらそうだろ。多用途任務艦である『晴嵐型』は、モジュールの組合せ次第で、様々な雑多な任務を遂行するように作られた。本来、それぞれが雑務艦とか特務艦と呼ばれる特殊な艦艇を用意し、その為に訓練された宙軍クルーが運用することが前提だ。
例えば、巡洋艦から戦艦へ配属が変更されたとしても、さほど任務に変化はない。たぶん。
だがしかし、戦艦から宙域観測艦とか、掃海母艦ならどうだろうか。まず、向かう宙域が異なる。戦艦で、掃海の必要な宙雷が撒かれているような狭隘な暗礁宙域に向かう事はまずない。
戦術科の仕事は、陽電子砲の操作や効率的な対宙砲火の訓練などではなく、宙雷を除去するための無人機の運用とかになる。やったことねぇよ!! といった任務ばかりだ。
特殊な任務を司るから「特務艦」なんだなこれが。雑務とか雑役なんて纏めてよい任務じゃない。工作艦や輸送艦の仕事なんて、機動艦隊の一線級艦船を乗り継いで宙軍大学で幕僚教育を受けたエリート様には想像もつかないし、考える必要など今まで一切なかっただろう。
宙軍大学校でも輸送や掃海の研究をしている人はいるが、教育を受ける者はほとんどいないだろう。
士官学校でも習う事は習うが、基礎の基礎。その後、宙軍省や宙軍の輸送総隊と言った部署に配属された中で資質のある奴らがテクノクラートとして選抜され教育される。
機動支援艦隊やFSKの主な顧客だな。
機動艦隊の『戦術』『航宙』畑出身者が触れ合う機会のある部署ではない。俺達も、艦隊設立後、顔合わせと情報共有を行っている最中だし、専業の輸送艦隊ではないので、その辺は後回しにされているのが現実だ。
戦争はロジスティックだと言われて久しいが、地上の戦闘と宙域国家に置ける空間戦ではかなり視点が変わる。なにからなにまで持ち歩く必要があるような補給の方法をとる事が適切ではないということだ。
ある意味現地調達。例えば、暗礁宙域を抱えるグンマーを重視している理由、それは、鉱物資源を最も安価に惑星軌道上にある生産拠点に持ち込むことができるからだ。
惑星や衛星上で採掘・生産するのは地産地消できる物に限られる。宇宙迄完成品を運ぶには、軌道エレベーターなり、マス・ドライバーなりで打ち上げてもコストも歩留まりも悪くなる。宇宙で使う物は宇宙で製造する方が良い。
で、『輸送総隊』の中では、この現地調達を行うための資源調査も任務に含まれている。遠征先で、水もしくはヘリウム資源を確保できる天体や、【大型支援艦】【拠点建設母艦】に持ち込んで現地製造する補給部品の素材となる鉱物資源天体などを宙域図にマッピングするお仕事もこなしている。
補給全般を司る縁の下の力持ちであり、十全な遠征戦力を確保する為に必要な部隊なのだよ。とはいえ、専守防衛を主任務とする宙軍にとって『補給』は軽視されがちであるし、本来花形とされてもおかしくない部門が、大艦巨砲主義的機動艦隊閥に押されているのが現状だ。
戦艦なんて飾りなんですー マッチョな人にはそれがわからないんですーって感じだな。戦場迄移動し、完全な状態で戦力を投射できるかどうかはロジスティックに掛かっていると思わないのかね。と、ナカイが言っていた。
「この任務って、奪還作戦の予行みたいなもんだよね」
ヤエガキがそうつぶやく。宙陸両用作戦、敵前上陸だ。ゴトウやツシマ、
オキナワの要塞を宙華に制圧された場合、その奪還作戦を行うとするなら、
似たような状態になる。
最初に、敵の機動艦隊との艦隊戦、それを排除した後に、要塞へ取り付く揚陸作戦を行う事になるだろう。オキナワもゴトウもツシマも、接近する経路が限定されている。HDゲート自体のないゴトウ、恐らく宙華艦隊の接近と防衛作戦の中で、HDゲートが破壊されるツシマとオキナワ。下道で接近しなければならないんだが、これ、補給って大事な状況になるよね。
暗礁宙域での戦闘も参考データとして有効かもしれないし。まあ、『晴嵐型』だと、ちょっとイレギュラー過ぎて機動艦隊には当て嵌められないかもしれないが。
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「こんなもの、どうすればいいんだ」
「……それを何とかするのが幕僚の仕事だろ」
『龍田』士官室で、新任幕僚二人がナカイの宿題に頭を抱えている。
「くっ、先例がないんだから、戦術的に難しいのは当然だが。航宙幕僚だって、難易度高いだろうが」
「前回、グンマー宙域で活動した実績をベースに規模を拡大したもので対応できるだろうさ。航宙計画はそれで立てる」
戦術幕僚なんて何で置いたのかと思うのだが、ナカイには相応の考えがあるのだろう。普通は、『航宙幕僚』が戦術面を含めた『運用』をケアするのだが、今回は戦術・航宙と役割を二分した。これは、外部の幕僚教育を受けた高級士官に、どのように機動支援艦隊が見えているのかを確認すると同時に、統幕や宙軍大学校のおっさんたちとどのように付き合って行けばよいのかの試金石とするつもりなのだと考えている。
けど、机上の秀才ってのはイレギュラーを想定していないのだろうか?
確かに、前回の暗礁宙域での戦闘、前々回のグンマー回廊での戦闘で無人航宙機や戦闘艇の攻撃には対応できた。けどさ、今回も同じ戦力内容で攻撃されるかどうか不明だし、こちらの艦艇数も増えている。
同じ航路を倍の数で航行するには、長蛇のような途中の航行になる。そこに宙雷発射機や無人戦闘艇などを伏せられていたらどうなるだろうと考えないのだろうか。
それよりも、本隊と第一、第二戦隊をそれぞれ進軍させ、予定の宙域で展開までして待ち構えた方が良い。即座に戦闘に入れるし、時間差で戦場に突入することができれば、奇襲効果も発生する。
今回は、出来るだけ戦力を引き摺りだして消耗させ、揚陸作戦を安全に実行する必要がある。本隊、第二戦隊を先行させ、第一戦隊はその後に突入し、揚陸にそのまま繋げた方がいい。
「なに言ってもダメ出しされるかもしれん」
「若い司令官のマウントを取りか、あるかもな」
自分の計画が否定される=マウント取というのは、短絡的だろうな。まあ、あいつなら一言『却下』と笑顔で言いかねない。
「プランも二つ三つ作って、比較して司令官に選べるようにするくらいの配慮がないとね」
「めんどくせぇ」
「まあ、ツユキのプランならレイなら一択で済ませるだろうけど」
「そして、俺が貧乏くじを引く。強制的に引かされるまである」
ですよねー。まあ、サキシマの時もそんな感じだったしな。駆逐艦乗りが先陣を切る行為は、自己犠牲なんて言わせない。そんなことを言い出したら、宙軍軍人全般が自己犠牲の塊まである。
「あの人たちの建てた計画ってどうなるんだろうね」
「徹底的にダメ出しされ、教育される」
「だよねー 士官学校時代を思い出すわー」
グループディスカッション的なものであれば、確実にナカイに詰められるのが俺達の日常。そのお陰で、戦術的視点が俯瞰的複眼的に見られるようになった……ような気が……しないでもない。
戦争ってのは相手の裏をかいてなんぼのお仕事。セオリーがあって、それを相手に合わせてどの程度外すかという問題がある。
戦力の分散・逐次投入とみれば失敗であるし、相手の防御を混乱させ、奇襲効果を高めるための速度重視の分合進撃とすれば同じ作戦でも問題とはならない。
意図してコントロール下に行えるか、その状態を敵に強要され不可避に行っているかでは相当異なる。
あの暗礁宙域で戦力を分けないなんて、考えるのもばかばかしい。今回は、簡易型も連れて行くのだから操艦レベルも一段二段下がると考えてもおかしくない。その辺り考えれば、運用の条件付けも明確になる。
戦力の集中は戦場で行う。それまでは、分散して速度重視で暗礁宙域を抜ける。ということになるか。
俺とヤエガキは聞き耳を立てつつ、士官室の隅っこでドリンクタイムしている。
「外からどんどん人が増えていくね」
「それはそうだな。幹部の面子はサキシマの頃から変わっていないが、
規模は十倍二十倍になるんだから当然だ」
「けど、レイのやり方についてこない奴も増えていく」
「それは仕方ない。鈴も付けられたし、干渉も受ける。が……」
「「そんな事でどうこうできるレイ・ナカイではない」」
そこまで悪意のある人間は、この時期に機動支援艦隊に来ることはないと思われる。なので、二人の新任幕僚は『相互理解』が高まればいいかなと俺は思っている。
宙軍・統幕の考えている対宙華戦争と、ナカイの考えるそれは相当違う。
姑息に消耗戦を仕掛けてくる奴らが、一度の艦隊決戦で勝敗がつくような戦闘を行うわけがない。
どうせ、司令官の首を挿げ替えて、今の皇帝が死ぬまで何度でもニッポン宙域に戦闘を仕掛けてくるだろう。チマチマとだ。
ニッポンの不利な所は民主主義国家であるということだな。不平不満は選挙の投票行動で反映される。言い換えれば、不平不満を高めることで、政治運営を不安定化させることができるという事だ。
勝って当たり前、勝ち続けねばならないニッポン宙軍と、負けても相手を消耗させ、政治的基盤を揺さぶる事で長期的に有利となる宙華ではそもそも土台が異なる。その辺、どう修正するかという問題だ。
消耗戦をどうとらえるか、そこがずれていると俺は思う。
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