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092 統幕との調整―――『簡易多用途任務艦その2』(壱)

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092 統幕との調整―――『簡易多用途任務艦その2』(壱)


「期待してるよツユキ君」

「……ご期待に沿えるかどうかわかりませんが、お手伝いさせていただきます」

「私も手伝うから、頑張れツユキ!!」

「いや、お前も戦隊司令だろ。お前の仕事でもある、いやほとんどお前の仕事だぞヤエガキ」

「えー」


 はい、旗艦『龍田』に呼び寄せられた俺。反省会的食事会の後、早速、ヒャクリに戻る前に今回の戦況報告と次回の攻撃計画を立てるよう、クルリ首席幕僚に命じられた。


 で、幕僚様たちは何をしているかと言えば、統幕に上げるグンマー航路の防衛計画の策定だ。何でかと言えば、この航路の防衛計画自体が星系防衛艦隊では実行不可能だと投げられ、こっちにお鉢が回って来たんだそうだ。

 元々、グンマー宙域は第二宙堡の配備戦力で防衛を行い、航路の安全確保を必要と考えていなかったことが原因。計画が無ければ予算もつかず、その結果、配備する艦船が存在しない。


 現状、民間軍事会社FSKを中心とする護衛船団方式が成立しているが、これはあくまでも臨時の契約であり、宙軍が介入しないということではない。後方における補給及び兵站支援の為の艦隊である『機動支援艦隊』の存在が最も適切だと宙軍は判断した。


 役割には、計画と予算が必須。


『龍田』を常備の旗艦とし、また、新造艦の習熟航海をグンマー航路で行う計画を定着させる為にも、俺達が関わるのが一番良いとナカイも判断した。計画あるところに予算在り。


「でもさ、まず最初になにするのさ」

「速やかにあの要塞艦を攻略するための戦力確保の計画だな」


 宙兵隊にはナカイから既に断りが入れられている。トクシマからヤマトの部隊を『知床』に乗せて連れて来ることになる。強襲揚陸艦仕様の多胴艦を投入する必要がある。FPSもそれなりに必要だからな。





 まず、簡易晴嵐型の仕様を決めておく。


「こんな感じだな」

「……まじで……」


『龍田』の指揮統制能力と、今までのモジュールの仕様から、今回簡易型は『砲艦仕様』に設定する。


 七隻の簡易型それぞれに、『強化レールガンモジュール』を装備させる。これは、装甲巡洋艦や巡洋戦艦、強襲揚陸艦に装備される実体弾兵器であり、要塞やコロニーと言った動かない目標に対しての攻撃に効果が高い。


 レーザーと異なり、相応の速度までしか加速できないが、質量を攻撃力とする分、宙雷よりも手数を増やす事ができる。それ自体では原則、爆発を起こさないのだが、反応弾仕様も存在する。


「まあ、動かない目標相手なら、これが一番かもね」

「『龍田』の戦術副官AIなら、十全に使えるだろ?」


 航宙機による攻撃に対抗するためにも、ある程度の防御力が必要となる。簡易型は標準の艦首シールドを持たないのが弱点でもある。


「思い切って双胴化すればいいじゃん」


 双胴化することで、『強化レールガン』『弾倉・コンバーター』のモジュールと、『防御シールド』『対宙パルス砲』のモジュールを搭載することができる。対宙パルスは固定の三基でも十分だと思うが。


「そ・れ・な・ら、直掩三隻だけ双胴化すればいいんじゃないですかね」


 どっからか涌いた、あくどい情報幕僚が会話に割り込んで来る。


「暇なのか?」

「そんなわけないじゃないですか!! ちょっと用足しですよ」


 あ、トイレね。


「それなら、レールガン装備は直掩以外の四隻にして、直掩は強化陽電子砲にしたら?」


 陽電子砲は亜光速で着弾? するので、レールガンの迎撃に全力を向けさせないためにリソースを割かせる為にそれはありかもしれん。そもそも、同じ装備を七つ揃えるのが無理かもしれないし。


「ともあれ、司令官の最終判断に委ねる」

「幕僚らしいしごとしないとね」

「……誰がだ」


 俺の顔と自分の顔をそれぞれ交互に人差し指で刺すヤエガキ。なにそれ、聞いてないんですけどぉお!!


「あー せんぱい気が付いてなかったんですかぁ。せんぱいが戦術幕僚、ヤエガキ宙佐が航宙幕僚です。戦隊司令と兼任ですけどね」

「それ、給与に反映されてるんだろうな」

「先月から、明細に載ってたよ。ま、大した額じゃないけどね」


 宙佐自体がそこそこ高給取りなので、幕僚だからといって極端に給与が上がるわけがない。それに、戦隊司令の手当の方が高額だったはず。あまり良く見てないけどな。まあ、恩給が雪のように降り積もってると信じて頑張ろう。


 



☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★





「モジュールの組合せに関しては、この案で行きましょう」


 幕僚会議という名のいつものメンバーでの会合。不足するモジュールと艦船の補充を待って、再びグンマーの暗礁宙域を目指す事は決定している。


 『知床』をグンマー航路上に残し、『龍田』と第一第二戦隊で複合要塞を攻撃する事となる。


『龍田』に、簡易晴嵐型七隻を加えた本隊、これは、三隻が『強化レールガン』『弾倉・コンバーター』『防御シールド』『対宙パルス砲』モジュールを組合わせた双胴艦、残りの四隻が『強化陽電子砲』『防御シールド』を備えた単胴艦で構成される。


 第一戦隊四隻のうち、『雪嵐』は三胴艦とし、PFSと『強襲揚陸』『防御シールド』モジュールの組合せ。他の三隻は、『無人航宙機』『95式宙雷30連装』に『対宙パルス』モジュールを装備した強襲支援仕様。

 第二戦隊は、『掃海掃討』『工作』『医療避難』などのモジュールに、『陽電子砲』『強化陽電子砲』を加えた制圧仕様だ。


 後方から本隊が、中距離で第二戦隊が、そして近距離で第一戦隊が制圧を行う。


「考慮しておきたいのは、あの規模の戦艦ないし要塞に、固有の補助艦艇が配されていないのかという事ね」

「ああ、コルベットなり駆逐艦クラスの直掩艦がでてきてないもんね」

「それはそうだね。宙兵隊を揚陸させる前に、十分に制圧攻撃が必要だね」


 ナカイの確認に、ヤエガキとクルリ首席が同意する。


「収容されているとかですかね」

「それはあり得るけれど、周辺に潜んでいる可能性もかなりあると思うの」

「数は四ないし八隻か」

「ええ、妥当な所だと思うわ」


 戦力的にはほぼ互角。無人航宙機があとどの程度出撃してくるか不明だが、駆逐艦八隻と戦艦の組合せは、正直、かなりきついと思う。


「前回出てこなかった理由は?」

「接近しなかったからでしょうね」

「制圧するために近寄れば、背後から包囲されるってことか」


 無人航宙機だけだと判断し、ある程度撃破した後に要塞に近寄れば、背後から宙雷でも撃ち込まれるかもしれない。当然、まともに回避運動もできないだろうし、揚陸も頓挫する。


「まあ、いると思って行動すれば問題ないよね」

「ええー」

「簡単に仰るけど、むずいよねツユキ」


 いる前提なら、第二戦隊に迎撃してもらうのがいいかもしれん。もしくは、引っ掛かったふりをして反撃する。


「宙雷による攻撃なら、こっちの95式と対宙パルスで何とか迎撃できるんじゃねぇかな」

「発射された時点で、着弾迄宙雷は時間がかかるから、うちらの強化陽電子砲で反撃・追撃に入ればいいよね」

「つまり、第一撃を第一戦隊独自で耐えられれば、あとは第二戦隊と本隊で仕留められるというわけね。できるかしら?」


 俺は黙って頷かざるを得ない。それが俺の仕事だからな。


「なら、決まりだね。囮兼主役だから、頑張れ第一戦隊!!」

「なんか戦隊もののヒーローっぽいかもです」

「なにそれ、うけるー」


 うけねぇよ、それに、ヒーローは孤独だろ? そういえば、孤独だったな俺。大丈夫、未来の嫁がいるから。問題ない。


「それで、この規模の要塞だと、完全無人とは考えにくいんだが、捕虜はどうする」

「そこは、宙兵隊に任せてもらっていい」


 会議中完全空気であったヤマト宙佐が割って入って来る。いたんだよ。


「統幕の見解だが」


 統幕としては、宙国人の士官の生存者がいれば、積極的に捕虜として捕えて欲しいということなのだという。


「生身の情報が欲しいという事ね。聴いているわ」

「なら、話が早い」

「捕まえるのは良いが、PFSの格納庫内に捕虜収容スペースを作れよ。俺達の艦に直接乗せるリスクを負うつもりはない」

「……勿論だ。君の艦に乗せるFPSには二艇とも、数人の捕虜を収容できる留置コンパートメントが設置されている。勿論、防音・個室だ」


 統幕的には、機動支援艦隊に何らかの情報を、宙国軍士官がもたらすことで、再び手柄を立てたりするのが嫌らしく、宙兵総監経由で現場の指揮を執るヤマトに『接触させるな』と婉曲に命じたらしい。ここで、伝えたので何の意味もないが。


「却って助かるな。こっちは艦隊編成で手いっぱいなのに、余計な裏庭の清掃まで命ぜられて参ってるんだからよ」

「ええ、その通りよ。統合幕僚本部の方々の配慮には痛み入るわね」

「ほんと、小細工ばっかり得意だよね、だから禿げるのかもね」

「あー 太るってのもありますね。頭脳労働は意外とお腹がすくんですよ」


 いや、あれはストレスのよる満腹中枢が壊れている結果だろ? 人間、生命の危機を感じると三大欲求が拡大するらしい、食欲性欲睡眠欲だな。英雄色を好むってのは、その辺が関係してるんじゃないかと思う。


「燃える毛根だね!」

「それ、闘魂ですよクルリ首席幕僚ぉ」


 え、そうだっけ? 『あん時の息吹』だったか、大昔の職業格闘家兼政治家の人のテーマ曲だよね。赤い手ぬぐいマフラーにしている人。


「統幕の思惑が気になりますね」


 きゃるぴんの一言。ナカイがそれに言葉を返す。


「幕僚が不足しているから、しかるべき人材を送るそうよ」

「人罪ですか」

「どんな罪だよ。働き過ぎの罪か? 過労罪って親告罪なんだっけ」

「そんな犯罪はないよ、あったら面白いけど」


 猫に鈴をつけるってやつだろうか。何でも反対野党みたいな存在でなければいいんだが、第一機動艦隊や統幕のおっさんたちの思惑で色々仕掛けてきたりするのは困る。


「司令官でもなく首席幕僚でもない、ただの幕僚だもの。問題ないよ」

「艦長と戦隊司令、更に艦隊の幕僚迄兼任というのは、この先問題になりかねないことですもの。今は創成期だから兼任も致し方ないのだけれども、艦隊司令部幕僚は別の人員を配置するのは当然ね」


 艦隊司令部の幕僚は、先任宙尉や准宙佐級の宙軍大学校を出た幕僚コースの宙軍士官にとっては欲しいポスト。機動『支援』艦隊とは言え、一二年の経験先としては入り込みたいだろう。


 ポストを変えながら次はもっと良い艦隊幕僚なり、戦隊司令なりを経験したいと考えている奴らが沢山いるはずだ。


「使い潰してやるわよ」

「お、懐かしいねぇー レイの人使いの荒さは、ちょっとお目にかかれないレベルにあるからね」


 ヤエガキがニヤニヤと笑い、俺は心の中で「ご愁傷さまです」とまだ見ぬ幕僚たちに手向けを送るのである。




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