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090 グンマー宙域の捜索―――『嚮導巡洋艦』(肆)

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誤字報告、ありがとうございました。

090 グンマー宙域の捜索―――『嚮導巡洋艦』(肆)


 久しぶりのフル装備の『改晴嵐型』の宙雷戦隊群……各員のやる気がほとばしる……わけもなく、「暗礁宙域に無人機の発進拠点攻撃しに行くから、遺書書いて発信しとけ」と命令すると、全員衝撃を受けていた。ウケる、いやうけねぇから!!


『不信感持たれるよね、ツユキ司令』

『バッドニュース・イズ・ファーストだろツユキ艦長』


 第二戦隊の次席指揮官である我が妹ナツキ・ツユキ准宙佐。俺より二歳年下で、士官学校も二期下なんだが、出世頭である。俺? ナカイがいるので常に第二グループだ。それでも、相当に早いんだが望んでいるわけではない。給料が上がるのは嬉しいが、死にそうになる、死ぬ対価としてはいささかお安いのではないだろうか。


 人の命は地球より重いとか宣った馬鹿な政治家がいたらしいが、お花畑も甚だしい。人には、命を対価にしてでも守らなきゃならないものがある。一人の命を犠牲にしてでも、大勢の命を守るなら不名誉や批判・避難を浴びても、それに耐える胆力が必要なんだよ。


 そら、「いのちだいじに」ってのは、わかるし、「一人に一つずつ大切な命」ってのも否定できない。テロリストとの交渉は一切受け付けないというのが大前提だ。何故なら、人質をとれば簡単に妥協すると思われたらより危険であるし、テロ=自らの死と思わせることで抑止力になるからだ。


 ということで、どんな卑怯な手段を使ってもテロを行うものを殲滅するという事が重要だ。害虫駆除に慈悲はない。それが基本だ。


 言い換えれば、国民総テロリストの宙華なんてのは、交渉するだけ意味がない。拉致監禁、一方的な戦闘、民間への攻撃、なんてのはテロ行為だからな。尋問? テロの末端構成員が碌な情報を持たされているわけがない。細胞組織というのは、辿れないように形成されているんだよ。


 スパイとスパイマスターの関係と言えば良いかもしれんな。兎に角、遡らせないように、関係を制限しているわけだ。なので、今回の作戦も殲滅一択、情報? とれたらいいねってレベルだな。捕虜は取らない、取る必要性を感じないからだ。いいね。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 装備を更新し、移動を開始してから三時間ほど経過。


「そろそろ設定の宙域か」

『既に察知されたとみていいわね』

「さよか」


 我がAI副官の指摘を受けるまでもなく、俺達は確実に無人航宙機の攻撃を受けることになる。その為、比較的デブリの少ない機動しやすいエリアを航路として設定し移動しているのだ。待伏せの待伏せだな。


『センサーに感ありね』


 大型航宙機、もしくはコルベットより下のサイズ、スループと呼ばれるJD能力を持たない小口径の砲もしくは宙雷を装備した警備艇の機影が確認された。


 熱源を発していない状態で、デブリに擬態して定点監視していたようだ。とはいえ、映像の解析から戦闘艦と判断される程度のそれなんだが。


「旗艦に報告、攻撃の指示を仰いでくれ」

『……観測に留めよ……だそうよ。司令官は本気で殴り合うつもりかしら』


 恐らく既にこちらの存在を通報しているだろうから、そのまま放置で構わないということなんだろうか。欺瞞も隠蔽も行わず、相手が全力で迎撃してくる状態を望んでいるとか?


 既に百五十機の攻撃を受け、大半を撃墜もしくは撃破していることから、さほどの航宙機戦力に残がないと判断したのか。


『敵を見くびると、手痛いしっぺ返しがあるわよ』

「どうかな」


 ニッポン宙軍の『戦艦』であれば、一隻でも航宙機ないし小型戦闘艇を二百から三百機搭載している、小型移動要塞のような存在であったりする。また、航宙母艦であれば砲兵装を減らした分、整備・修理工廠能力を強化しており、同数程度の航宙機の連続戦闘を可能とする支援機能を有する。


 この宙域に展開している無人航宙機の母艦が、戦艦もしくは航宙母艦であるのであれば、航宙機の半数を撃墜ないし撃破した可能性が高い。


 また、搭載機全機を同時に運用できるわけではない。発艦・着艦のキャパの問題もある。一度に五十機というのは普通の範囲であり、百はかなり準備した上、目標宙域で合流できるように先発隊と後発隊で速度差を設けたのだろうと推測される。


 余計な戦闘で時間のロスを避け、迎撃機を発進させる時間を削り、攻撃を行う事を優先させる為、敢えて小型戦闘艦を見逃すということだろうか。母艦を叩けば、枝葉は勝手に枯れると判断したのかもしれない。





 先行する無人航宙機からの映像、十分ほど進めば直接その姿を捉える事ができるだろう。


「思っていた以上にデカいな」

『航宙艦ではなく、小天体を利用した複合要塞ね』


 航宙艦、おそらくは大型戦艦に小天体を幾つか接合したことで、側面、推進器周辺を堅固に守るように配置されている。移動は困難になったが、移動要塞としての堅牢度、耐久性は大幅に改善された事だろう。


 先行する無人機の映像が途絶する。


『こちら旗艦「龍田」、第一戦隊第二戦隊所属艦に命ず。対航宙機統制射撃を行う。射撃コントロールを旗艦に集約せよ』

「第一戦隊『雪嵐』了解」


 復唱する声が各艦から聞こえてくる。統制射撃といっても、要は旗艦の戦闘指揮による対宙射撃を行うというだけのことだ。


『楽でいいわ』

「操舵に専念してくれ。流石に回避運動は統制してくれない」

『回避運動による偏差修正もね』


 旗艦と九隻の駆逐艦が一つの大型艦のように対宙防御を行うということ行為は、目標の重複が発生せず、自艦の防御面が確立するので、指揮する側からすれば効率が良い。が、回避運動など、狭い範囲で行うので操艦に難があると言えばある。


『ぶっつけ本番にちかいけど』

「どうだろうな。戦術副官として独立しているから、その辺は我が副官より負担が軽いんじゃないか?」


 旗艦『龍田』のAI副官とは別に、機動艦隊のAI副官として「戦術」「航宙」「情報通信」で役割分担した形で運用されている。因みに、ノゾミが「戦術」副官、カナエが「航宙」副官、タマエが「情報通信」副官となる。


 因みに、現在運用している『晴嵐型』の陽電子砲は短砲身で威力の低い57式単装陽電子砲だが、対宙機銃と同期可能であり、連射性能の高い高性能の対宙両用砲として評価されている。宙雷の迎撃から、軽装甲目標の攻撃までが守備範囲だ。


 相手は戦艦並の主砲を装備している可能性のある複合要塞であるから、航宙機は主砲の射程範囲内で支援を受けつつ迎撃を行いたいのだろう。敵の航宙機群は距離を一定に保ちつつ、こちらの様子を見ているようだ。


『時間を稼いでいるのかもしれないわね』

「……まだ増えるのかよ……」


 既に二群、五十機ほどの恐らくAJ-7とみられる無人航宙機が観測されている。


『主砲、射撃開始』


 九隻の陽電子単装砲合計二十七門が敵航宙機の群れに向け射撃を開始する。亜光速の光線が航宙機の集団に注がれる。数機にダメージを与え、その半分ほどが爆散した。


「当たればどうということはないな。コントロールは大したことがない」

『さすがに小口径とはいえ戦闘艦の主砲が当たればね。けど、このペースで連射していたら、砲身も加速器も持たないわよ』


 最初の三十秒ほどは最大速度で連射していたものの、弾幕というほどの数を放てないため、投網を投げるように同時に二十七門が三連射する形に射撃のリズムが変わる。


 こちらの射程から逃れるように無人航宙機が後退しつつ、後続の部隊と合流し、その数は百に届くほどに増加する。仮に要塞砲の射程外であったとしても、百機の同時攻撃を受ければ何隻かは沈められるかもしれない。


『対宙パルスの弾幕が効果的ならいいけどね』

「やってみないとわからんな」


 密集した隊形を維持し、機動支援艦隊は無人航宙機の攻撃を待ち構えている。


 百機が完全に同調して襲撃してくれば俺達はかなり危険な状態になる事が容易に想像できる。が、いままでの傾向からすれば、それは難しいようだ。


『無人機統制艦がいないようね』

「そうすると、数機単位で同一行動をとるような、簡易な指揮システムでしか統制できないか」


 無人機が個々の判断で攻撃できるほどの能力がないので、指揮機と同期して簡単な行動を行い、一斉に機動・攻撃する程度の攻撃を行うのだろう。航続距離が短くて済む分、今回のAJ-7には短距離宙雷が装備されていると旗艦から観測データが転送されてくる。


「対宙機銃もリンクされてるんだよな」

『そのはず。けど、相手がちょっと多すぎるかもしれないわね』


 AJ-7が四方向に別れて来襲、タイミングを少しずつずらしながら、次々に宙雷を発射し退避行動にでている。その旋回のタイミングをとらえて、陽電子砲が航宙機を破壊していく。流石専業副官の射撃指揮だ。


『あのくらいあたしでも余裕よ!』

「だよな」

『……思ってないでしょ』


 単艦なら、我がAI副官の能力の方が上だが、旗艦の索敵能力と指揮統制能力が乗っかる分、ノゾミの指揮が優秀であるのは当然なんだ。比較してどっちが上かといえば、この仕事に関してはあっちに軍配が上がるが、それは役割りの違いだからな。


「こんな時くらい、花を持たせてやるってことでいいだろ」

『そうね、でも、あたしもできるわよあのくらい』

「わかってるし、疑ってないからな」


 役割を三分割している点で、若干同期にラグがあるんだよ、あっちは。だから、一隻丸ごと預かっているカスミと、艦隊全部の火器管制を行うノゾミでは完成度が異なる。が、数で押された場合、艦隊全体を有機的に統合して反撃する仕事がより効果的だってだけだ。


「たまにしかない見せ場なんだから、こういう時は黙ってみていてやるのが

良いと思うぞ」


 楽だし。


 発射された宙雷がキルゾーンに入るタイミングで対宙パルスが効果的に発射され、船体に近寄る前に爆散する。たまにギリギリで迎撃する場合もあるのだが、それは御愛嬌。


 宙雷の数は百を超えたと思われるが、十隻、六十二門の対宙四連装パルス砲により、次々と撃破され宇宙空間に極小の火球を形成し消えていく。


『一桁不足していたわね』

「どんだけだよ」


 千発撃ち込まれたら確実に艦隊全滅しただろうが、航宙機五百機が必要なんじゃないかな。たぶん。そんな数揃えるには、数個の機動艦隊が必要だ。


「爆散してるな」

『ええ、余裕よ』


 今回、対宙パルスモジュールを全艦装備して待ち構えていた甲斐があったというもんだな。小さな火球を次々作りつつ、俺達はなんとか軽微な損傷・至近弾による外装の損傷程度で済ませることができた。


『敵要塞、主砲の展開を確認、各艦、自動で回避運動開始』


 無人機の攻撃を受けている間に、要塞との距離が近づいてしまい、どうやら主砲の射程内に入り込んでいるようだ。慌てて、艦隊は散開するように各艦が独自の回避運動を取り始める。航宙機攻撃の防御とは反対に、艦は距離を離し、一撃のまぐれ当たりで全滅しないように機動する。


 とはいえ、宙華の装備する強化陽電子砲の艦載データからすると、射程のギリギリの辺りであるし、正面だけなら、『晴嵐型』の標準防御シールドで一発程なら相殺できる。


 閃光が宇宙空間を切裂き、ナカイ隊各艦の間を突き抜けつつ消えていく。威力は装甲巡洋艦より格上、恐らくは戦艦の陽電子砲の砲撃だろう。


『無人航宙機の攻撃と連動していなくて助かったわね』


 確かに。無人航宙機ごと、密集隊形の艦隊を薙ぎ払うという選択も、宙華ならとれるはずだもんな。損害度外視で結果を取りに来るスタイル、こういう時には恐怖ではあるな。






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