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089 グンマー宙域の捜索―――『嚮導巡洋艦』(参)

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089 グンマー宙域の捜索―――『嚮導巡洋艦』(参)


 作戦開始から数日経過、もう馴れっこだよ無人機発進させて敷設するのも。なんて日常業務を行っていると、少々大きめのデブリを発見したと報告が入る。


「珍しくもないだろデブリくらい」

『あれ、多分、大型戦闘艦の外装だと思うわ』


 AI副官が電波を照射したところ、反射の具合から表面を耐レーザーコーティングした戦闘艦、それも主力艦クラスの外装だという。最近破壊したこの宙域の艦船は、輸送艦かコルベットクラスであり、外装の仕様に当てはまらない。


 因みに、晴嵐型は艦橋前面だけ耐レーザー加工されている。ピカッているともいう。光るコケシ健在也!!


 今回の任務には工作艦モジュールを積載していないので、回収するとすれば、パワードスーツによる手作業になる。大きなものは無理なので、部分的に切除し、格納することしかできそうもない。


『回収をお勧めするわ』

「スケジュールの遅滞を旗艦に通達してくれ。『清霜』、こちら『雪嵐』。戦闘艦の外装と思われるデブリを回収するために停止する」

『清霜了解。周辺の警戒を行います』

「よろしく」


 ということで、パワードスーツと言えば俺。尻でイスを磨く仕事も飽きたので、そろそろお出かけしたいと思っていたので丁度良い。


 戦隊司令自らなんて今さらだな。俺は現場主義だから。人がいないからってだけじゃないんだからね! まあ、パワードスーツに一番慣れているの俺だってのもある。操艦は副官頼りで何とかなるが、パワードスーツはそうはいかない。


『頼んだぞ』


 もう一機のパワードスーツを伴い、『雪嵐』の半分ほどの大きさもあるだろう外装と思わしきデブリに取り付く。指示をしながら、比較的損傷の少ない面を畳ほどの大きさに数枚切裂き整える。レーザーブレードでスパッと本来は切れるのだが、コーティング面は威力が減退する為、裏側から切裂くことになり面倒であったりする。


『こんなもんでいいか』

『艦長、ワイヤーで括りますね』


 俺のことを、余所の人間は『宙佐』と呼ぶし、艦隊内なら『司令』と呼ばれる事がほとんどだ。ツユキ宙佐にツユキ司令。けど、『雪嵐』の乗員は、昔ながらに『艦長』と呼ぶことがほとんどだ。兼任だからどっちでもいいんだが、俺の仕事って艦長なのか司令なのかよくわからんしな。大体、副官任せだから。


 ワイヤーで束ねた宇宙戦艦クラスの外板を牽引し、俺達が『雪嵐』に戻る途中に通信が入る。


『現在、旗艦「龍田」及び本隊が、無人航宙機による攻撃を受けていると通信が入ったわ』


 警戒網の設定されていないグンマー方面からの強襲らしい。慌てても二時間は帰投に時間がかかるのだから、今さらだ。


『損害状況は不明か?』

『今のところは連絡は受けていないわ』


 1AUは五百光秒の距離、本隊とは0.2AUの凡その距離だから、百秒ほどのタイムラグがある。星系内でも数十分連絡にかかる場合もあるし、異なる星系間での通信はHDゲートを経由する通信船による伝達を除けば、生きている間に伝わることはない。


『雪嵐隊は本隊の支援に向かうと伝えてくれ。「清霜」にも伝達、遭遇戦を前提に戦闘準備』

『清霜了解!!』


 艦首を回頭させ既にグンマー航路に向けて発信準備が済んでいる。パワードスーツと回収した外装材を収容し、二隻は帰路につく。二時間後も戦闘継続中とは限らないが、逃れた無人航宙機と遭遇するなら撃ちもらすわけにはいかない。嫌味を言われるからな多分。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 その後、本隊との遣り取りで解った事。二十機前後の集団による五波に渡る攻撃が繰り返され、直掩艦二隻が大破したものの、『知床』『龍田』は損傷軽微、大破した第二一、二三号艦も自力で航行は可能であるとして、第二二号艦を護衛に付け、ヒャクリへ戻すことにしたのだという。


 結論から言って、俺達の合流前に敵は撤退しており、前回と比べ無人航宙機の攻撃パターンはこちらの反撃を前提として工夫されたものであったという。


『攻撃方向を分散し、若干の時間差をつけたものの、ほぼ同時に襲撃を受けた形ね』

「大破二隻だが、人的損失は無かったのは幸いだな」

『だけどさ、賢くなっているのは問題だよね』


 艦隊司令官と第一第二戦隊司令の通信会議中。復旧作業を行っている本隊の周囲で警戒しながら同じ宙域に待機しているので、三人とも暇なんだよ。とはいえ、再度の攻撃を警戒しないわけにいかない為、旗艦に集合せず、こうして各艦に残って会議をしているわけだ。


 気になるのは、攻撃に参加する航宙機の数が前回の五十機から今回は約倍の数となった点だな。撃墜した数は前回を下回っていることから、無人航宙機による飽和攻撃は、危惧していたような効果を生じさせたと思われる。


『今回の補給を終えた時点で、『知床』に簡易型の四隻を付けて先にヒャクリに戻す事にするわ』


 防御力に難がある『知床』を、いつ戦場になるか分からない宙域に戦闘艦と同じように展開させるのが気になるのだという司令官。


『でも、そうすると、警戒網の設置がすすまないじゃん。どうするのさ』「それこそ、統幕に報告して上の判断を仰ぐべきだろ。後方支援の艦隊が対応できる戦力じゃない」


 百機にも及ぶ航宙機の攻撃で、駆逐艦二隻大破ですんでいる事自体が幸運としか表現できない状況だろう。全艦撃沈でもおかしくない敵戦力であったが、無人航宙機であるがゆえに、戦果の確認と反復攻撃の判断が出来なかったことが幸いしたのだろう。


 とはいえ、ナカイの性格からすればそう容易な事ではない。やられっぱなしってのは気にいらないだろう。


『艦隊幕僚で出現地の推定を進めたの。既に三回の襲撃を受けているわけで、無人航宙機の航続距離から推定したこの宙域に、無人機の発信拠点があると推定されるわ』


 AJ-7は機銃しか積んでいなかったのは航続距離の問題があったからだろうと推定される。宙雷装備のAJ-11と同程度の距離になるからだ。今回も同様の戦力構成であった事から推測すると、拠点が移動していなければ、前回と今回の戦場を航続距離を基にする円を描いた重なる宙域にそれが存在すると推測できるだろう。


 動いていなければ……だ。


「このまま強襲するってことか」

『やられたままで、おめおめと帰還できるとでも言うのかしら』

『戦力的にどうなのってことだよね。軽巡一、駆逐艦九で要塞や戦艦相手に出来るほどの戦力じゃないと思うんだけどさ』


 今回の無人観測機設置に合わせて、俺達の艦からは宙雷を下ろしている。また、軽巡の主砲では到底、主力艦の防御を抜く事も出来ない。それは当然ねという代わりに、ナカイは『こんなこともあろうかと』と、いいつつ、無人機のモジュールを93式宙雷モジュールに差し替える用意をしてあるのだという。


『「知床」に九隻分の93式宙雷モジュールを用意してあるわ』


 九隻の装備を、93式を二セット、対宙四連装パルスモジュール一セットに揃えるという。


「無人航宙機と、対大型艦用に割り切るということだな」

『用意だけはするという事よ。なにが出るか分からないのだし、戦闘艦が多ければ、咬み合わせが悪くなるのは承知の上よ』

『大型移動要塞的戦艦か、小天体を利用した無人航宙機基地のどっちかだろうから、これで対応できるんじゃない? 遠距離から93式を全投射して無人機で弾着観測でも仕事したことになるじゃん』


 ナカイは不満そうだが、ヤエガキ、お前冴えてるぞ!! 仕事はするがリスクは最小限にって事だな。


『相手も無人観測機は配置しているでしょうから、無人機の群れが待ち構えている場所に強襲することになるのではないかしら』

『それはどんなことあっても一緒でしょ? 待ち構えてるよね』

「……待ち構えてるのかよ……」


 それはそうだな。グンマー航路にも無人偵察機は配置されていて、ある程度の規模の船団を狙って無人航宙機群を発進させたんだろうから、近づく戦闘艦群だって見逃すはずはない。行けば、無人機の群れがあるってことは想定内か。


「『龍田』のコントロールで対応できるという判断か」

『その通りよ。「知床」と簡易型を守らなければならない前回と異なり、今回は、正規の晴嵐型だけで編成し、武装も均一化するので、運用はより高度に出来るという判断ね』


 簡易型のAIでは処理できない質と量でリンクするデータを送り込むことになるので、反応対応に速度差が生まれてしまい、十分に有効な反撃ができなかったのが二隻大破の要因だという。


『本来の晴嵐だけでリンクすれば違うってことだよね』

『二百機くらいまでなら、確実に対応できるそうよ』


 二百機同時ってことじゃないよな。


 その昔、大東亜戦争の末期、『大和』率いる遊撃隊が沖縄突入の為に出撃した際、約四百機の攻撃を受けたんだが、この時は三波の攻撃を受け壊滅した。いくらUCとはいえ、軽巡と駆逐艦で、重目標攻撃&無人航宙機の待伏せに突っ込むのは無理じゃありませんかナカイ司令官。


『それに、統幕や宙軍省に報告を上げた所で、暗礁宙域に貴重な主力艦を送り込むとも思えないじゃない?』


 それはそうだと、俺もヤエガキも頷く。『いのちだいじに』コマンドを連発するのが第一機動艦隊とかだからな。そもそも、そんな事をするために整えた戦力じゃないと言われ、結局、ナカイに仕事が振られる事になる。


 時間がたてば、前回今回で撃破した無人航宙機の補充もなされるだろうし、今回の襲撃から間を置かず逆襲するというのは悪くない気がする。いやほら、後で改めて命令されるよりはという比較の上でだよ。


『女は度胸だよツユキ』

「俺は女じゃないから。司令官の判断に従うのは吝かではない」

『そう、なら準備が整い次第、想定の宙域に進発しましょう。最後に美味しい物を食べておくことをお勧めするわ』


 なにその死刑執行前の最後の食事的な提案。どの道レトルトなんだから、大して変わらないと思うが、好きなものを食べて休息をとるようにクルーには伝えようか。


 俺も、とっておきのカニチャーハン大盛を堪能するとしようか。あれって、胃の中で水分吸って膨張するから、後で食べ過ぎると後悔するよな。


 そんな事を考えつつ、最後の晩さんのカニチャーハンを食べ終え、装備の換装状態を確認しつつ、艦橋で今後のことについて考える。今まで、カスミが指揮を執る事はあっても、旗艦の副官AIに指揮される事は無かったんだが、その辺りどうなんだろうか。率直に聞いてみる。


『楽よね』

「楽なのか」


 旗艦の副官AIは『戦術』『航宙』『情報通信』で三つに分かれており、単純に言えばそれだけなんだが、分析の深堀は三分の一で済む分、単艦の全てを管理するカスミとは異質なレベルで統制が採れるのだという。


『例えば、航宙機の襲撃、大型宙雷の飽和攻撃があるとするじゃない。その場合、各艦のポジショニング、有効な火力面の形成、相互のカバーリングを三つのAIがそれぞれ自艦を含めた十隻を使用して有効に形成することになるわけね。敵味方の数が多くなればなるほど、その効果は桁上りに効力を発揮するわ。旗艦用のAI副官というのは、少数では有効に機能しないから、今回その能力を十全に見せつけたいんでしょう。ムカつくけど、有能なのは否定できないわ』


 恐らく、旗艦を中心としたX型のフォーメーションを各二隻の駆逐隊で形成し、推進器側の死角になる後方に一隻を配置するのではないかという。


「位置的な高低差を付けて死角を無くす形か」

『今まで数が少なくてまともな指揮ができていなかったから、今回はちょっとヤル気なんでしょ。気持ちはわかるわ』


 副官AIの気持ちね……まあ人格を有しているAIだから、その辺り共感性もあるのかもしれんな。


 性格的にナカイに寄せて設定されているとすれば、負けず嫌いだし徹底して反撃する気なのはよくわかる。あいつしつこいんだよな、負けたら勝つまで何度でも勝負を挑んで来る。それこそ、ジャンケンですら。


 あいつ、自分が癖を持ってるって気が付いていないから、絶対負けないんだけどな。疲れるよな相手するのは。




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