088 グンマー宙域の捜索―――『嚮導巡洋艦』(弐)
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088 グンマー宙域の捜索―――『嚮導巡洋艦』(弐)
まともな旗艦がようやく配備されご機嫌なナカイ。何故それがわかるかと言えば、やたらと通信が入るから。「今何やってるの?」的な内容が多い。そら、作戦行動中ですよ、お前もだろ。
『レイさんと仲良しなんだね相変わらず』
ナツキ艦長と私用通信中。艦長同士の情報交換だよ。
「主従関係だな。将来的に、俺の安定した老後の為にナカイの実家の会社に雇ってもらう必要がある」
『うーん、主従というより夫婦関係?』
なにその素敵な永久就職! やっぱ、ナカイは政略結婚とかするんだろ。俺は会社で知り合った女子社員と結婚したりするかもだし、街コンとかで頑張る。四十代になったら。
親子ほど年齢が違っても良いって女子を探す必要がある。アンチエイジングの効果で肉体年齢を長く若く保てるんだが、寿命自体は変わらないので、俺が死んだあと二十年以上軍人恩給が相続できるってところが結婚のセールスポイントになる俺達は、意外と結婚率が高い。離婚も少ないのは、俺達が死んだ後の第二の人生に経済的余裕がある人生が配偶者に待っているからでもある。
女性軍人は……まあ、男性よりは良くないが、一般の同世代よりは婚姻率が高い。とはいえ、美人で賢い女を嫁にするという高い壁に挑戦する男は少ないので、男よりも成婚率は低いみたいだ。
『ホント、あと十年は軍人恩給積み立てないといけないから、頑張って生き残ろうね』
ここで死んだら死に損だよなー。両親が相続することになるんだよね、未婚で子供もいないし。親不孝だな。
グンマー宙域に接近、0.05AU間隔で無人観測機という名の航宙機を簡易晴嵐型の各艦が設置を行っていく。これも訓練の一環だ。
そもそも、俺達こんな仕事ばっかりだしな。簡易型各艦は『直掩仕様』として、【95式宙雷】【無人航宙機】【対宙パルス砲】のモジュールを搭載している。無人機の来襲に対抗することも前提とした装備だと言えるだろう。
これに対して、俺達標準型は二隻のバディで編成、リーダー艦が【情報収集】【陽電子砲】【宙雷】のセット、僚艦が【対宙パルス砲】【陽電子砲】【宙雷】の組合せとしている。
「そろそろ最初の索敵宙域だな」
『そうね。セイ、しっかりついてきなさい』
『はいですぅぅ』
我がAI副官が僚艦のAI副官に気合を入れる。脅しているの間違いかもしれん。
今回も『雪嵐』『清霜』がペアを組む。船団護衛と異なり、第一戦隊第二戦隊で四つの索敵隊を編成、無人航宙機をグンマー航路、今回から無人観測機を配置し安全を確保した航路を『グンマー回廊』と呼ぶが、その回廊の中で、無人攻撃機との接触地点から逆算した出撃宙域を四つの隊で捜索し、発見した場合、無人観測機を展開し観察させつつ一旦本隊と合流し、標準型晴嵐と『龍田』で攻撃を試みるということを作戦の骨子としている。
状況に応じては、『知床』と簡易型晴嵐を投入する可能性もあり得る。直掩仕様の晴嵐は『93式宙雷』を装備していないので、大型目標に対する火力が不足しているので微妙なんだがな。
旗艦率いる本隊から『雪嵐』『清霜』は離れ、デブリの多い暗礁宙域へと進んでいく。障害物との接触を避けるため、速度をかなり落とし、艦首シールドを展開しつつ進んでいく。多少のデブリならシールドに触れた時点で消滅するのだが、それを突破した場合、艦首に大きな損傷を発生させかねないので『シールドあるから大丈夫』とはならない。
こっから先は、ゴトウ宙域で行った無人観測機の配置なわけだが、今回勝手が違うのは、そこに無人航宙機を発進させる敵対勢力が確実に存在するということだ。言い換えれば、接敵確実な宙域なわけだ。ゴトウは「かも」ってだけだったが、今回は見つかるまで作戦継続なので、長い話になる。
グンマー回廊を起点に十字方向に四隊に別れて無人観測機を配置しつつ、捜索を継続する。デブリや小天体のお陰で、航路の安全を確保できるほど広範に警戒網を展開する事は難しい。0.05AUごとに0.2AUほど進み、回廊と並行にグンマー方向に0.1AU進み、再び0.05AUごとに観測機を配置し本隊に合流するというお仕事になる。二隻で六機の敷設を一度に行う事になる。
回廊に接近する不審船を早期にチェックし、出現地域を更に特定することを主眼にした作戦なので、今回は拠点捜索の下準備兼、宙軍としてグンマー航路の安全確保のための行動となる。無人機を並べる簡単なお仕事だと言いたいところだが、正直「またかよ」と言いたい。
UC以前の惑星上における戦争では、海底ケーブルを用いた機雷戦闘という物も存在したらしいし、それ以前には鎖でつなげた機雷網で航路を確保すると言った時代もあったと士官学校の座学で聞いた記憶がある。
まさに、UCにおけるそれだな。面倒だ。
確か、『機雷敷設艦』といった艦種や、それに類する工作艦が使用されたらしいが、大東亜戦争開戦後は船団護衛任務などに転用され、空襲や潜水艦の攻撃、触雷などで失われていると記録されていたな。
貧すれば鈍するとでも言えばいいのだろうか、『雪嵐』ら晴嵐型駆逐艦はその手の補助艦艇と似た、いや、最初から様々な雑用を押付けるための多用途艦として設計されているだけにたちが悪い。「本職じゃないんで」と言い逃れすら許されない。俺達の本職ってなんなんだろうな。雑用! だよね。
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一往復あたり0.1AUの安全宙域をグンマー回廊に設定するために、二隻の駆逐艦で六時間ほどの時間がかかっている。無人観測機の補充の時間を踏まえると、一日当たりその三倍、0.3AUの距離を進む事になる。だいたい。
とは言え、三交代で十分に対応できる作業内容であるから、四時間ごとに当直を変わりながら、数日間敷設し続けることに問題はない。
旗艦を含む本隊は、その間を使用して演習を行いつつ進んでいるらしい。AI副官が簡易型であること、リンク先が不十分なため、人間による操艦の占める割合が多いため、商用宇宙船による経験の豊富な教導隊出身の士官たちも苦労しているとのこと。
『たいへんですよ』
「お前じゃねぇだろ」
『それはそうですけど、へらへらしてみてらんないじゃないですか。講評とかわ・た・し できませんから。情報士官ですよ!!』
きゃるぴんは暇そうにしていたのをナカイに気付かれ、「各艦の艦隊運動の講評をお願いするわね」と仕事を承ったらしい。それ、適当でいいだろ?
『そんなわけいきませんよね!!』
『ふーん、大変ね』
『わかってもらえますかぁ! カスミちゃんヘルプ・ミー』
トラスト・ミーじゃねぇのかよ。
我がAI副官が、何やらミカミの情報端末にデータを送った。
『基本的なAI副官のサポート演算を送ったわ。それに当てはめれば、どのような動きが理想であったか推計できるし、どの時点で判断すれば良かったのかも推計できるわね』
『へぇ、艦隊の運動ってこんな感じでリンクしてるんですね。流石優秀な副官』
カスミ自身が自律型AIであるので、独自の思考と演算能力で艦隊運動をカスタマイズできるということはある。
『じゃあ、これをそのまま……』
『PFSだと、リアルタイムで同期させるのは無理ね。ある程度、行動を決めておいて、パターンを組ませる方が対応できると思う』
旗艦・僚艦の位置関係や、装備、対処能力を踏まえて最適行動をとる事ができるのは自律型AI副官の搭載されているタイプであり、簡易型ではそれは不可能。故に、『進行方向から航宙機接近』であるとか、『大型宙雷の飽和攻撃』といった想定される戦況を定めて、それに適した行動を直掩艦でとれるようにするのが先決らしい。
『そのまま艦隊司令官に上申します』
「多分、ナカイは既に手を打っていると思うけどな」
『なんで、こんな課題、わたしに与えたんですか』
そら、暇そうだったから、なんか仕事させようと思ったんだろ。ナカイが直接命ずるより、幕僚からの意見具申を採用したとする方が、何か問題発生した時に責任を分散させられるしな。きゃるぴんはスケーブゴートだな。
『ひどいはなしです』
「司令官が不信感持たれるよりはましだ。それも給料分のお仕事だと割り切れ」
『うう、お嫁に行けなくなったら、せんぱい責任とって下さいね』
「任せろ、責任とってナカイの実家の会社に再就職できるように頼んでやる」
俺ともまた同僚になるってことでOK?
ミカミは不服そうであったが「よろしくおねがいします」といって、通信を切った。簡易型の副官AIレスって、相当しんどそうだな。
「やっぱり簡易型は簡易型か」
『商船に乗せているものと同等だから、商船経験者からすれば慣れた設定だと考えたんでしょうね。けど、戦闘艦としてはネットワークで戦えない分、弱点になると思う』
商船が同期するのは、HDゲートで周囲の艦船と同時にJDする時くらいで、あとはあまり無いはずだ。戦闘艦は群れで戦うのが基本だから、一人はみんなの為にってのが当たり前にできないと役に立たない。
孤立した動きをする戦闘艦は狙われるという世知辛い事実が背景にあるんだけどな。
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どうやら、今回の『龍田』と簡易晴嵐型の艦隊行動の演習は、今一つ、役割りがあったらしい。
『最初から、そうしてくれていれば、良かったんですよー』
「いや、比較して体感させるのも大事だろ? 旗艦が先に撃沈されてコントロールできなくなったら何も出来なくなるからな」
『それはそうかもですね』
ミカミの課題の背景には、『龍田』の搭載している旗艦用副官AIによる直掩艦支援システムの稼働実験があったらしい。
『晴嵐型』の場合、二ないし四隻の同期までが搭載するAI副官の指揮できる上限であった。全てが副官AI搭載艦なら四隻、簡易型の場合、自艦と僚艦の二隻まで有機的に指揮することができる。
これが、改阿賀野型である『龍田』の場合、八ないし十六隻までの同期による艦隊の有機的運用が可能となるという。簡易型の場合、八隻が上限となる。言い換えれば、簡易型は「二隻分」とカウントすることになるようだ。
『まあ、おかげで、新人艦長たちも正直ほっとしたみたいです』
『だよねー、ホント、簡易型だけで直掩任務とかいろいろ無理あるし。うける』
うけねぇよ。ヤエガキ、テンション高いな。なんか拾い食いしたのか。
『けど、「龍田」が健在なら、直掩七隻に、「知床」含めて本体の防衛は問題なさそうです』
「それはどうかと思うぞ」
『なんでですか!』
『ルミちゃん、簡単だよ。二百も三百も航宙機が殺到したり、大型宙雷が発射されたら、この程度の規模の艦隊ならオーバーキルもいいとこだよ』
『あー それは……』
ヤエガキの言にミカミがしょぼんとする。直掩仕様とはいえ、七隻の駆逐艦で守れる能力は正規の航宙母艦一隻分の航宙機が良いところ。それも、一度にではなく、何波かに別れて攻撃してくることになればである。
「一度に二百機とか……どんだけ戦力隠してるんだよ宙華(仮)」
『宙華(仮)ですからね。大型戦艦とか、こっそり派遣していてもおかしくないです』
『補給度外視なら、無人機多数積んで最低限の生身の人員で航行させれば一二年でタイペイ星系から侵入できるんじゃない? 前回の侵攻のどさくさで上手くグンマー宙域に辿り着いてるのかもね』
嫌な予想だが、それほどおかしくもない。
「なら、真面目に捜索しないといけないな」
『時間かかりそうです。けど、演習を兼ねているなら悪くないかもですね』
お前は謎の「講評」するだけだからいいだろ? 俺達も、無人機敷設するだけのいつものお仕事だ。けどさ、『雪嵐』『清霜』だけで無人機の群れと遭遇したりしたら……すっげぇ嫌だな。
そういう意味で、93式宙雷を下ろして、対宙パルスや陽電子砲のモジュールを装備しているわけだ。撃ったら終わりの装備は今回外しているというのは、数の多い敵を想定しているからでもある。変なフラグたたなきゃいいんだが。
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