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087 グンマー宙域の捜索―――『嚮導巡洋艦』(壱)

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087 グンマー宙域の捜索―――『嚮導巡洋艦』(壱)


「むぅ、これが最新鋭UJ-11型多用途航宙機の残骸か……」

「さっさと持って行けデブ」

「デーブ宙佐、とっとと乗せてしまいましょう。分析がはじまりませんから」

「であるか」


 宙軍内においても、UJ-11とグンマー宙域で交戦したというのはあまり公に出来ない事項となっている。それはそうだろな。宙国の背後に、ヒンドゥかルーシがいるってことだ。無人とは言え巡洋戦艦の砲塔群をマウントした武装商船と交戦したことを考えると、国ぐるみかそれとも、宙華に協力する民間企業もしくは、民間企業に擬装した宙華の諜報機関である可能性もある。


 UJ-7が「当たらなければどうということはない」といった男気仕様の粗悪な模造品の外板であったのに対し、UJ-11は対ビームコーティングも為されたまともなものであったことも気になる理由だ。


 ニカイドウにその辺りを話したところ、直接回収にヒャクリまで輸送艇を伴いやって来たという感じだな。交戦確実なら、グンマー航路に同行させて現場で回収までやらせたいのだが、縁起でもないとナカイにいい笑顔で却下された。


 あいついつの間にか『デーブ』で認識されてるんだよ。あいつの名前にデーブって入ってないぞ。





 軽巡洋艦『龍田』は、ヒャクリに入港しており、現在、ナカイが引き渡しのやり取りをしている最中だ。少人数とはいえ、艦隊司令部が同乗しているというのは、尻のすわりがよろしくない。落ち着かない。


 あいつの命も預かっているというのもな。早急に引っ越ししていただきたい。


「せんぱい、寂しいんじゃないですか?」

「いや。まったくぅ」

「むー まあ、スープの冷めない距離くらいがいいんですよね。あんまり近くにいるのもうっとおしいですから」


 失礼だな。それは、実家の傍に住む奥さんの例えだろ? 子供預けたり、夕飯のおかずやり取りしたり、何かあった時気軽に頼る、頼られる距離だが同居ほど気を遣わずに済むってやつだ。車で五分くらいがベター。


 よう知らんけど。


 きゃるぴんは暇らしく、『雪嵐』でうろちょろしている……わけではない。UJ-7とUJ-11の出現した場所から想定される、母艦の潜在的な配備宙域を計算しているらしい。計算得意だもんなお前。打算女子。


 UJ-11の航続距離はUJ-7の二倍近くあるというのだが、同行したということで、同じ母艦群から発進したと想定し、その位置が凡そ特定できることになる。とはいえ、直径1.5AUほどの球形の範囲となる。かなり広い範囲だな。


「……もうちょっと絞り込めるんじゃないのか」

「賽の目状に宙域を区切って、無人観測機を配置していく感じですかね。グンマー航路をトンネル状に囲めばいいと思います」


 無人航宙機ベースの観測機を1.5AUの範囲に等距離に配置するとして約三十基。一度の往復で数基ずつ交換していけば、ニ三ケ月に一度更新されていくことになるだろう。船団は月二ないし三回の往復が為されているので、船団護衛のFSK艦がその任務を受託してもらうことも十分可能だと思う。


「破壊されれば、その周辺を重点的に捜索するというわけか」

「今回空振りになればですね。二度の襲撃宙域はほぼ重なっているので、無人機の母艦が移動していなければ発見できると思います」


 ナカイ的には旗艦も手に入れたので、本格的に捜索を行うということには乗り気だろう。第二戦隊も呼び寄せ、また、『知床』も補給艦として本格的に運用しつつ、無人機監視網の形成と襲撃拠点・母艦の捜索を並行して行うって感じだな。


 規模も拡大してきたナカイの部隊が、本格運用を始める良い機会だろう。星系防衛艦隊はあくまで防衛の為の艦隊であり、索敵は埒外だというので機動『支援』艦隊が支援してやらないといけないらしいからな。


「艦隊決戦を妄想しているおじさん達にはこの手の仕事、全然向いていませんからね」

「俺達も向いていないんじゃないか? いや、むしろ向いていない」

「なに言ってるんですかぁ!! 索敵用の情報モジュール差し替えるだけで捜索任務もドンと来いなのが『晴嵐型』多用途任務艦じゃありません?」

『その通りヨ!! あたしたちに任せておきなさい』


 遠くで『なのだ!!』と聞こえた気がするが、のだっ子は民間だから今回の任務では協同で関わる事はありません。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




「久しぶりだねツユキ」

「おう、新人さんたちはどうよ」

「あー 揉まれればなんとかなるんじゃないかな。経験だけはあるから」


 第二戦隊がヒャクリに合流。第一戦隊八隻に加え、更に第二戦隊八隻が合流する。さらに、『知床』も同行している。JD能力のない簡易型を輸送する為でもあり、無人機を多数収容し、警戒網を形成するための作業を行う必要があるからでもある。


「実際どうなのさ」

「なにがだよ」

「宙華以外の宙域国家が関係しているかもって話」


 正式な内容ではないが、今回の任務が『AJ-11型航宙機を含む無人攻撃機の発進母艦の捜索』とされていることから、宙華だけでなく、ルーシ連邦も今次の紛争に関わっているとヤエガキを始めお留守番組では話題になっていたらしい。


「で、どう?」

「無人機なので、編隊単位でテンプレートな襲撃を受けたな。AJ-7中心のレーザー機銃掃射だったから、さほどの脅威ではなかった。が、宙雷を装備しているAJ-11が紛れ込んでいたんでそれが危険だったな」

「無人機じゃなかったらヤバそうだね」


 その通りです。機動が単純で回避行動も定型化されている無人機だから、先を読んで迎撃ができたわけで、裏をかくような人間的な発想があれば、FSKと俺ら素人エスコート艦隊は防御できたかどうか怪しい。五十機の襲撃というのは、十分輸送船数隻を撃沈できる程度の戦力である。


「なのでそれを探せって事だよね」

「ホンシュウ星系防衛艦隊って何やってんの!! って話なんだが」

「ほんとそれね」


 船団護衛に戦力を割くので、捜索はナカイに押し付けるということらしい。ナカイ的にも、『龍田』『知床』と二戦隊を投入した実戦訓練になれば良いと思っている節がある。スパルタすぎだろ。


「FSKってどう?」

「大ベテラン宙軍OBの集団。船団護衛だけなら、俺達より優秀」

「そうなんだ。助かるじゃん」

「星系防衛艦隊がな」


 FSKが「使える」戦力であると分かった為、船団護衛を引き受けることにしたというのが今回の真相だろうな。


「簡易型とのバディって危ないよね」

「今回は、直掩艦に簡易型を回して予備戦力としておくみたいだな。少数で捜索中に襲撃受けたらシールド無しは危険だからって判断だ」

「それはそうか。よかったよ」


 第一戦隊『雪嵐』以下、『朝凪』『夕凪』『清霜』第二戦隊の『浜嵐』以下、『神嵐』『松嵐』『朝霜』『秋霜』が捜索任務を引き受けることになる。


 簡易型の第一一、一二、一三、一四、二一、二二、二三号が『知床』『龍田』の直掩艦となる。第一戦隊が『知床』、第二戦隊が『龍田』の直掩を行いつつ、航路に無人索敵機を配置していくことになる。これも、訓練の一環であると言えば良いだろうか。


「ナツキは元気か」

「そうだね。おじさん相手に上手くやってるよ。おじさん転がしも実の兄で慣れたもんだよね、あははは」


 あはははじゃねぇ!! 確かに、おねだり上手な妹ではあるが、おじさん転がしの達人じゃないよね。まあ、年下の女の子にいいところを見せたいという男心には理解を示そう。


「はぁー また小天体やデブリだらけの宙域でお仕事か」

「そういうとこばっか行かされるよね私ら」


 サキシマ、タイペイ、ゴトウ、そしてグンマー……敵が潜みやすい藪に足を踏み入れている感が激しいよなナカイ隊。色々宙軍内では揶揄される存在だが、替わってやるからお前らやれ! と是非言いたい。宙佐にしてやるから、俺の代わりにデブリの中で巡洋艦や装甲巡洋艦と撃ちあいしろってな。


「まあ、仕方ないね。敢えて貧乏くじを引く司令官の部下だから」

「そうだな。だがそれがいい」

「レイらしいって事だよね。あんたも大概、めんどくさい女に惚れたよね」

「めんどくさくない女なんていないだろ?」

「……私、めんどくさくないよね」


 いや、お前は一見サバサバ系だが、そう扱うとメンドクサイだろ!! お前を見て『サバサバ系』ってさばさばしてないって理解したんだよ俺は。


「めんどくさくない女の子なんていませんよって名言知らないの?」

「知りたくない。知りたくもない」


 ナカイ隊、女子率高いからな。めんどくさい艦隊であることは確か。君は生き残る事ができるかぁ!! と言いたい。





 第二戦隊とヒャクリで合流した翌日、『龍田』に各艦艦長が集められた。今後の行動計画の説明と、あとは『龍田』をナカイが見せびらかしたいと言ったところだな。


 サキシマの頃とは異なり、『知床』が母艦として同航するので補給や整備の心配のない長期の作戦が可能だ。長期ねぇ……嫌だなおい。


「以上です。何か質問があるかな」


 首席幕僚のクルリ先任宙佐が締めの言葉を口にする。話は事前の予想通りの内容。グンマー宙域での無人機母艦の捜索活動にして実戦訓練。簡易型は『知床』『龍田』の直掩任務という役割分担。いきなり実戦の可能性があるお仕事なので、新人が離職しにくいように配慮している。三年離職率って大事だから。あと一年くらいは優しくしていく方向。宙軍は常に人手不足なので、離職率の高い艦隊や基地は内部監査が入る事がある。


 いやほら、面倒ごと押付けているナカイ隊にそれはないんじゃありませんか? 辞めない奴らが集まってるとか統幕や宙軍省は勘違いしているのではないかと思わないでもない。ナカイが辞めたら、俺達みんな辞めて、常総HDに転職すると思う。ナカイもOKしてくれているので問題ない。


「首席幕僚、作戦期間はどの程度をめどにされているのでしょうか」

「問題が改善される迄だね」

「……え……」

「無人攻撃機の発信拠点が宙母か、戦艦か要塞かはわからないけれど、ホンシュウ星系内に宙華かそれに与する武装集団が盤踞することを許す事は出来ないからね。宙軍軍人なら当然だよ」

「……」


 国家と国民の安全と財産を守る組織が『宙軍』なわけだから、その安全を脅かす存在を排除するのに期限はない。できるまでやるの精神だ。


 簡易型を今回の捜索活動に参加させない理由は、AI副官が僚艦を指揮するケースにおいて、デブリが多い宙域であるゆえに、データリンクが上手くいかない可能性がある事に配慮してとのことだ。


 簡易型僚艦の戦闘力は、標準型のAI副官が指揮する事で戦力を発揮できることにある。障害が多い宙域において、通信能力が万全とは言えない『晴嵐型』の能力ではサポートに障害が発生することが懸念される。


 旗艦能力を有する『龍田』『知床』であれば、簡易型の指揮統制に問題が生じるリスクは少ないし、そもそも、データリンクに障害が発生する宙域に侵入する可能性も著しく低いと言える。故に、直掩任務を割り当てることにしたのだ。


「簡易型の艦長の皆さんも、暗礁宙域の捜索任務に割り当てられなかったからと言って腐る必要はありません」


 ナカイ司令官が不穏な発言を始める。


「捜索に当たる駆逐艦と、そのバックアップを務める艦隊主力のどちらを無人攻撃機が攻撃しやすいかと言えば、後者でしょう?」


 障害物の多い宙域での戦闘より、開けた宙域で行動する母艦・旗艦を攻撃する方が、無人機には命じやすい。となれば、直掩艦は戦場の真っただ中にぶち込まれる可能性が高いとも言える。


「ある意味、旗艦は囮を務めることになるでしょう。皆さん、覚悟を決めて置いてください」


 にっこり良い笑顔のナカイ准宙将。これが、不穏当な戦場と予想される宙域に向かうことにならないのであれば見惚れるんだが、要は「死ぬ気でついてこい」って檄を飛ばされたわけだからな。簡易艦の新人艦長は凍り付いた顔していたな。後ろ見たらそんなだったよ。



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― 新着の感想 ―
[良い点] >にっこり良い笑顔のナカイ准宙将。 笑顔は威嚇が起源とも言われますからね! 自分的には星○の紋章でヒロインが地方星系領主に笑いかけるシーンを思い出しました。
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