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009 ツシマで釣り―――『仮想巡洋艦』(参)

ブクマ・評価をありがとうございます!

ジャンル別日間ランキング2位となっておりました。


『ゆきあらしまる』とは何の捻りもないネーミングだ。ニッポン人ならピンとくる名称だろうが、他国の言語を使う人間からすれば固有名詞の意味などというのは分からないはずだ。


 その昔、漢字というものは中国と呼ばれた国と地域で用いられた『表意文字』であった。これは、一つの文字に一つの言葉の意味を込めた『絵文字』を起源とする。その昔、これを知った日本人はとても感心したのだろう。


 ところが、やがてその文字を発明した民族は、北から来た遊牧民族に何度も支配され、やがて民族浄化され『中華』に住んでいる人間のほとんどは遊牧民族の文化を刷り込まれた元遊牧民たちとなった。


 で、漢字の表意文字としての意味が急速に薄れていく。とくに、今の宙華の元となった『共産党』という組織の幹部が行った『文化大革命』という破壊活動により、漢字の持つ奥深い意味が断絶、音を当てはめたり、「簡体字」というインスタント漢字を乱造することで、しっかりした意味が伝わらない言語体系をもつ国となった面があるようだ。


 人口からすれば数か国にも匹敵し、公用語以外にも複数の言語が存在するに匹敵する『方言』があるのだから、文字でも言語でも意思の疎通が難しい国であったのだろう。


 ということで、宇宙に進出しても統制無く星系を開発・自領と主張し、文字通りの乱開発で星々は荒廃した。見かねたニッポン・USAが技術援助をし、多少ましになった途端、軍備を増強し敵対姿勢をとるようになった後今日に至るわけだ。


 言葉は伝わっても、価値観や思いは伝わらない。事務的な関係でのみ成立すると言えばいいだろうか。


 欲しいものがあれば、力づくで奪う。地球上で存在していた『馬賊』というのが中国の北方には存在した。それが、そのまま宇宙で国の皮を被って存在すると思えば大きく間違いではない。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




『警告する。直ちに停船しろ』


 モニターには光学照準器で捉えた拡大された所属不明(中国)船がこちらを狙って砲を向けている姿が見える。


「あれ、片舷何門見える?」

『……四門、軽巡クラスの陽電……いいえ、荷電粒子砲ね』


 随分と重武装だ。とは言え、仮装巡洋艦は軽巡並みの武装に、商船の船体をもち、やや強化された推進器・反応炉を持つ。反応炉を強化するのは砲にエネルギーを回す為でもある。


「推進器と砲と両方潤沢に回せると思うか?」

「……設計上、もしくは計画上はであろうな」


 カタログスペックでは問題なくとも、長い時間ドッグいりもせず、使いっぱなしであれば、エネルギーの回路にも負担がかかる。『晴嵐型』が便利なのは、艦橋以外を交換し、メンテする間も稼働率を下げずに済むという面がある。おまけにお安い。


『撃てるものなら撃ってみろって答えていい?』


 いいわけねぇだろ!!


「回線つなげ。こちら、ニッポン国所属、ゆきあらしまる。カンチョ……船長のツユキだ。そちらの所属と停船の目的を知らせていただきたい」


 と、一応会話が成立するかどうか確認してみる。


『目的? 船は貰う、女は犯す、男は裸でユニバーサル・ダイブだ!!』

『『『ひゃっはー!!』』』


 間違いなく宙賊人だな。一匹宙賊がいるなら、その背後に三十匹はいると思えと言われる黒い何かと同じ害虫だ。


「どうする、今すぐ殺す?」


 副長、マジで怖いんですけど。いやほら、あんま虐めんなよ。


「ツユキ、宙雷発射で様子見を頼む」

『キモいから、近づく前にイ式で黙らせたいんだけど?』


 ヤエガキから宙賊に嫌悪感たっぷりの声と表情で通信が入る。身動き取れなくさせて、近距離から仮装荷電粒子砲で滅多打ちでしょ。




「わ、わかった。こ、降伏する!!」

『反応炉を止めろ』


 えー 反応炉は簡単に止められないよぉ。


「こ、この船の反応炉は30年間フリーメンテで止められない仕様だ。だから、無理だ」

『……ショウリーベンの癖に生意気だ……』


 いやほら、お前らニッポンから資金も技術も恵んでもらって発展したハリボテ国家じゃん。現在進行形でさ。なにいっちゃってるの、そのままそっくりお返しするぞ。宇宙船の推進器だって自前で作れないってのは先日捕獲した軽巡の全バラシで知られてっから。


『この船を解体して、反応炉を盗むのが目的かもしれないわね。キッタない宙賊の船に使われるなんて……考えただけでサブイボものよね』


 AIも鳥肌立つんだとか思っても言わない。慣用表現だ。


 こちらは一旦推進器の出力を絞る。仮装砲の砲身は正対した状態でほぼ見えていない状態だと思われる。


『そっちの合図でイ式二発を撃ち込むね』

「了解だ。発射後は奴の頭を押さえてくれ、『雪嵐』の仮装砲で推進器を撃ち抜く」

『ヤル気出てくるわね!!』

「カスミちゃんにお任せでオケ」


 戦術長が砲撃指揮しろよ。とは言え、調整の面倒な仮装された荷電粒子砲なんてAIに分があるに決まっている。本来の陽電子砲も接近して乱射することになるだろうから、上部甲板にある二門は副長が操作することになる。


 艦の足を止めた後、速やかに海賊船を制圧しなければならない。一応、あまり役に立つとは思えないが、『情報部』の人間が乗っている。宙兵隊の特殊部隊でも載せておけば問題ないんだが、そんな奴らはいま『大鳳』で出番を待っているはずだ。


「ミカミ」

「……なんですか」

「お前、あの船に移乗して情報持ち帰る仕事でこの艦にいるんだよな」

「強いて言えば」


 強いて言えばって何なんだよ。前回は旗艦に戻り損ねたからだったという理由だったけど、今回は何なんだよ!!


「冗談です。ちゃんと、情報部謹製装甲強化服を持ってきてます。先導して貰えれば、あとはわたしが処理しますよ」


 装甲強化服というのは、宙華の宙兵が来ていたような人工繊維の筋肉と強化外骨格を装備した「誰でもマッチョマン」なスーツだ。情報部の仕様の場合、情報分析用の端末や送信器・探査機なども装備されているものだろう。


 その分、戦闘向きの機能のいくつかはオミットされているだろうが、如何にも文系養殖女子に荒事をさせるわけにはいかない。


 その時は、俺の赤く塗られたパイルバンカーの出番になるだろう。


「我も付き合うぞ」

「……バンジー・ユニバーサルで?」

「何故、我何故そのような目に」


 宙賊どもが言っていた『ユニバーサル・ダイブ』というのは、地上で言うところの「紐なしバンジー」のような言い回しで、気密服を着用しないで宇宙空間に飛び出す仕様のことだ。息を止めて目を塞いて何秒かは生き延びられるはずだ。バンジー・ユニバーサルも似たような言い回しである。


「新型の工兵用パワードスーツを持ち込んでいるのである」

「あそ」

「腕部に高出力レーザーブレードを装着してあってな。軽巡の外殻程度ならスパッと切れる優れモノなのだが」

「採用」


 これで多少は突入の時楽ができそうだ。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 所属不明の大型艦船が接近してくる。


「大きさだけなら大型輸送船クラスか」

『JDの燃料を自力で抱えないといけないんじゃない? ハリボテよ』


 AI副官の分析に内心納得する。


『おい、じっといい子にして待ってろ。今すぐ死ぬか、男だけが後で死ぬか……選ばせてやる』

「わ、わかった。お、大人しくしているから……」


 俺は声を震わせ、精々怯えているように見せる演技をしてみせる。


『ビっとしなさいよ! あんた艦長でしょ』

「情けない、副長としても妹としても」

「……まあ、そんな情けないところも含めてせんぱいだと思います。好きではありませんけど」


 最後さりげなく「どうでもいいです」って小声で加えたミカミの声がさりげなく俺の心を傷つける……。


「お、お願いだ……命だけは……」

『男は死ね。女は……あきらめろん』


 AIによる自動翻訳のはずだが、誰だこんな訳ぶち込んだ奴は。俺は、演技いらずの悲しい気持ちで宙賊と対話をする。


『船を寄せるぞ。無駄な抵抗は……』

「悲しい気持ちを一気に吹き飛ばす、イ式宙雷発射」

『待ってたよ!! 宙雷発射!!』


 バスッと船体上部から二発の誘導宙雷が発射される。恐らく、数秒で着弾するだろう。寄せるために推進器の出力を絞っていた所属不明艦(宙国)に向かって二発の宙雷が突進する。


「敵艦の後方に向け加速、その後、敵艦に向け艦首回頭!」

『わかってるわよ!』

「タイミングで射撃開始します」


 敵艦から発砲、移動前の位置を光の粒子が通過する。


『まともな照準器も安定器も積んでなさそうだわ』


 射撃の具合から、AI副官様が判断する。止まっているも同然の商船を射すくめるのに、精緻な照準装置は不要なのだろう。解体した軽巡もあまり良い射撃システムではなかったと報告書にはあったな。


『イ式宙雷着弾、三、二、一……敵艦砲旋回停止、推進器沈黙……』

「我、言い訳レポート回避!!」


 デブが横の補助席で暑苦しいガッツポーズを決める。フィストバンプってニッポン人言わないアルよ。そういう慣用句なのだが、何故か理由は伝わっていない。


「上部甲板単装砲、射撃開始します!」


 副長と戦術士が各一門を担当し、それぞれ仮装巡洋艦の動力のありそうな場所を避け、中心線付近に狙いを定め撃ち抜いていく。


『艦首回頭!! 仮装砲……発射……いま!!』


 ズんと射撃の反動が艦全体に伝わる。軽巡洋艦の主砲から放たれた光の帯が艦首の上を通過し、宙国仮装巡洋艦(所属不明)に向け伸びていく。亜光速のエネルギーが艦後方に吸い込まれ、小さな爆発を伴い貫いていく。


『砲身冷却開始、発射可能まで十、九、八……』


 艦首を更に振り、推進器の出力で前進方向を相殺し敵艦後方に位置をとる。


『仮装砲、発射可能。敵船の推進器……沈黙しそうね……』


 通信が入る。


『こ、降伏する!!』


 なに言ってんだ。所属を明かさない便意兵に降伏なんぞ許されるわけねぇだろ。船のガラは預かる。だが、お前ら便所虫はいらない。




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