086 グンマー訓練宙域―――『簡易多用途任務艦』(肆)
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086 グンマー訓練宙域―――『簡易多用途任務艦』(肆)
「へー 昔から博多人形みたいな女性だったんですねー」
「そうそう、私の子供の頃とかに良く似ているって言われるんだよ!!」
「見た目だけでしょうね。中身は……」
いってぇぇぇぇ!! 思い切り脛蹴り上げられたんですけど。ゴンっていった! 今足がゴンっていったぁぁ。
「写真だと似ているかもしれないけれど、動画では全く印象が変わるからあまり意味がないわね」
あー 静止画なら似ているが、素振りや動きが全然違うって事だよな。解る。静のレイ・ナカイ、動のトワ・カトリって真逆の印象だ。
円卓を囲み、真ん中で炭火焼でじんわり焼き上げていく。俺が焼肉奉行なのは、消去法で俺がやらないとまずそうだったからであって、趣味ではない。デブと行くときは、デブがやるから俺は食べるだけなんだよ。
いま、網の端っこで鶏肉をじっくり焼いております。真ん中では焼き上がりの速い牛肉を最初は塩レモンでいただいております。網が汚れるから、最初はカルビとか乗せちゃダメなんだよ。高級店なんで、網交換無料だけど、普通は有料だから。無駄遣いダメ。ナツキに怒られる。
「塩カルビも美味しいよね。あと、トントロもいっちゃいってよお奉行様」
「いいえ、トントロも塩カルビも後です。最初に牛ロースとか食べてください」
「そうね。脂が多いものは後回しにしましょう」
きゃるぴんがニッコリ笑って同意する。歯に小葱ついてるぞミカミ。
「艦隊司令官命令ですから遵守しますね」
「遵守だねルミちゃん!!」
「……指揮系統は確立できたみたいね。ツユキ君、喧嘩にならないように、四枚づつ焼いてちょうだい」
「了解、第一戦隊、牛ロースさらに焼進めます。四斉射!!」
トングで四枚の牛ロースを網に乗せ、粗塩を振る。ジュワーと焼ける音がして、少し煙が出るものの、無煙炭であることに加えグリルの上のフードの中に空気が吸い込まれていくので、煙くも臭くもない。ナカイはご機嫌である。
「こういうところもいいけどさ、煙で店内が五里霧中になってる下町っぽい焼き肉屋もいいよね」
「あー もう着ない服で行くところですよね。髪の毛も臭いが付くので纏めてキャップの中に収納する下準備必須ですよね」
いやいや、わざわざ山ん中行って小綺麗なキャンプするような無粋なことは止めようぜ。やっぱ、部屋に戻った時に『クッサ!!』って自分の臭いに驚くくらいの方が楽しめるだろ?
「安っぽい肉の脂の臭いがたまらないよねぇ」
「煙が目に沁みますよー 喫煙者が気にならないって感じですね」
そう、煙い店って禁煙の意味がないくらい煙がキツイ。演出なのかと思うくらい煙い。消防呼ばれたりするんじゃないだろうか。
「焼肉しながらする話でもないんだけどさ」
トワさんは、今回の航宙機による襲撃が『宙華』によるものなのか、他の第三国によるものか、もしくはその影響下にあるニッポン人によるものなのか気になるという。
「グンマーってニッポン宙域ど真中ですもんね」
「そうそう。けどさ、明らかに低スペックのAIによる無人航宙機攻撃だったでしょ? タイペイに宙華に対する協力者がいれば、マリアナ星系経由でニッポン宙域に浸透できると思うんだよね」
「一般の大型輸送船にでも偽装してってこと?」
「そうだね。名目は、いろいろ騙れるでしょ。コンテナの中身が一部ルーシ製航宙機の実寸大モデルだったりとかさ」
なにそのお台場感。もしくはMM21。いや、ニュートーキョーの有名なデートスポットだよ。U-TOYOTAの自家用航宙機の試乗施設とかあるんだ。退役したら、是非行ってみたい。今は買わないから見に行かないよ。
「それで旧式のUJ-7がメインだったんですかね」
きゃるぴんが気にしたのは、敢えて古いものにしたのは、数を重視したことに加え、構造が簡易でAIによるコントロールが容易であるからではないかと考えている。『清霜』が回収するであろう航宙機の残骸を分析してみなければ何とも言えないのだが、そう考えるのが妥当ではないかという。
「UJ-7はニッポン宙域内で正規に取り扱える航宙機なのかしら」
「タイペイには放出品マーケットがあるから、そこで廃材扱いで輸入してレストアすればこっそり乗るのは可能だけれど、自家用航宙機として登録するのは面倒だよ。武装は撤去だし、一々構造確認なんかしなければならないからね」
日本製やUSAで使用されている航宙機は、軍用と一般用と両方のモデルが存在するのだが、軍用を自家用に行うには武装の撤去など含め簡単に転用することは出来ない。非可動にする処置を行うとか、それを証明する必要もある。
「と考えると密輸?」
「そもそも、どこからはともかく、どうやってが問題ね。仮に、タイペイ経由でJDを用いずに通常航行で移動するとしても、年単位で移動時間がかかるでしょう」
「そう考えなければいいんじゃない?」
どういうことかと問うと、トワさん曰く、通常航行でも星系の位置さえ指定出来れば時間はかかってもグンマー宙域のどこかにある宙賊の拠点まで送り込めるのではないかというのだ。
「無人輸送船に多数の無人航宙機仕様のUJ-7を詰めて送り出す。UJ-7ならメンテも簡単だし、数を出すにも容易でしょ? 場所を指定して送り出したあとは、こっちで受け取る奴さえ知っておけば問題なく対応できるよね」
無人輸送船を勝手に送り付けて来る、その中に武器が詰まっているということだろうか。大宙華帝国の領事館が一応、ニッポン星系にも存在する。ほとんど連絡事務所扱いなんだが、現在は宙華への通信施設があるだけの無人の拠点だ。
しかし、数年前までは少数ではあるが人が配された有人拠点だった。タイペイ侵攻のしばらく前に領事館員は予告もなく退去し、どこかへと立ち去っている。もしかすると、そこを窓口として密かに装備と人員が持ち込まれているのかもしれない。
「それに、コールドスリープだってやるでしょ、宙華だもん」
「あー 今時、こっちでは無理ですけどねー 人権無視ならできますよね。兵隊も送り込めるし」
UCの初頭、JD技術が未発達であった時代、星間航行はコールドスリープ技術が主に利用されていた。とはいえ、正常に蘇生できないことや、その状態を利用した殺人事件なども発生することがあった事に加え、JD技術の発達によりコールドスリープを行う事はほとんどなくなった。
しかしながら、JDを行わずに星間航行をおこなうとするのであれば、コールドスリープにより長期間の航行を無人艦に担わせることで潜入も可能となり得る。
「ということは、年単位での長期計画が前提という事だね」
「タイペイ侵攻はその長期計画の前哨戦ということですかね」
サキシマ侵攻も忘れないでください。
宙華圏に近い、ゴトウやオキナワにはさほど時間をかけずに通常航行で接近できる反面、宙域深部にあるホンシュウ星系には数年がかりで無人艦を使い、相応の戦力を忍び込ませているこということになる。
「もしかして、グンマーを占拠する計画があるのかもしれないわね」
「なんでですか? こんななにもないところ占領してもあんまり意味ないですよね」
「そうとも限らないと思うよ」
宙国人は、自分たちが棲んでいるところが『宙華』であるという思想がある。領域国家ではないんだよな、発想が。元が遊牧系が大いに混ざった結果かもしれない。モンゴルとか、匈奴や鮮卑だな。
「つまり、宙国人が住みついて『ここは宙華の領土だ』って騒ぎ始めるってことですか」
「そうそう。そんな感じ。それが困るから星系国家になって宙域ごとに独立させたのにね」
「背乗り上等ですからね。まあ、起源主張しないだけましですけど」
最初からそこに住んでいたかのように振舞い、先住者に成り代わる行為が『背乗り』だ。ニッポン人の中にも、宙国人が成り代わっている場合がないわけではない。出生時にDNAを登録することで、背乗りは困難になって久しいが、DNAによるチェックの機会が少ない辺縁域では侵入されやすいと考えられる。
そういった人間に弱みを握られるか、金銭等を受け取り協力するニッポン人がいないわけでもない。第二宙堡上層部で発生している可能性がある職務怠慢による宙賊発生は、その辺り影響しているのではないかというのがトワさんの推測だ。
「JDIAが動いているから、私たちが考える必要ないわ。けど、留意は必要ね」
JDIAはニッポン宙軍内に設置されている情報機関のことだ。宙域内外の情報収集や防諜、USA情報機関との情報交換、大使館・領事館への駐在員の配置など、宙兵隊同様、ちょっと毛色の異なる部隊だ。
宙兵隊や宙軍内にも配置されているのだが、通称『ナカノ』出身者として教育を受けた者の存在は秘匿されている。専科学校として、『情報技術学校』という名称で存在するのだが、一般軍人にはその存在が秘匿されている。きゃるぴんは『わ・た・し 違いますからぁ!!』と断言していたが、所属していた事は秘匿されるので、その証言に意味ないんだよな。
とはいえ、普通は駐在武官のような形で宙域外に派遣されたり、各省庁への出向者に紛れて情報収集している。いわゆる『草』のような存在だな。親兄弟や配偶者にも、仕事内容を説明することは禁じられている。その代わり、給料は二人分もらえるらしい、噂では。家族用と本人用だって。
「グンマーに紛れ込んでいても人の出入りも多いし、人間関係も希薄っぽいからな」
「鉱山街ですものね。余所者ばかりで、良く知らない者同士が生活しているから、潜入するにはもってこいよね」
「危険ですよ! けど、ここに来るのも今はお仕事ですもんねぇ」
危険と知っていて押付けられたのかまた!! JDIAはとっくに把握してるんだろうな。だから、外様の新設艦隊や民間企業に船団護衛を押付け、影響を受けにくくしているってことかもしれない。いや、たぶんそう。
「まあ、船団護衛するだけだ。無人航宙機なら無人標的機みたいなもんだしな。敵の予算で演習させてもらってると思えば悪くない」
「宙雷とか自腹じゃないですかぁ!」
「え、第二宙堡とか星系防衛艦隊持ちでしょ?」
「それはそうね。ふふ、助かるわ」
焼き肉屋にワインは似合わない。やっぱりサワーとかじゃないでしょうか。と思いつつ、ナカイやトワさんにはあんまり似合わない。宙華の浸透はあくまで俺達の推論で会って、事実かどうかは分からない。けど、当たらずとも遠からずであるのだろうとは思う。
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一足遅く、グンマーに到着した『清霜』と僚艦は、何機かのUJ-7とUJ-11の残骸の回収に成功していた。制御用の電子機器やAIを主に回収し、製造場所が特定できそうな推進器などを主に持ち帰る事とし、外板やその他の装備は第二宙堡で保管してもらう事にしている。
とはいえ、解析するための資材が無いので、全てはヒャクリに帰投してからの仕事になる。
「外板も素材が良くないよね」
「ですね」
復路の出発日前日、回収保管するはずのルーシ製航宙機であったでろう残骸の外板をトワさんと確認しつつ、宙堡で時間を潰している。ナカイは司令室を借り、宙軍省と何やら交渉中で、ミカミも帯同している。幕僚だからね。
「今時、この外板じゃ、対宙パルスで粉々になっちゃうよね」
ニッポン製であれば二世代は古い素材を使っているからだ。レーザーを反射したり拡散吸収する塗料をコーティングしているのが当然であり、宙雷ですら、電波吸収・レーザー拡散コーティングされているので、簡単に対宙パルスで破壊することができなくなっているのがニッポン品質だ。
「数で飽和攻撃って、技術いらないもんね」
仰る通りだ。命の値段が安い宙域国家は、その辺り気にしないであろうし、無人機であればなおさらだ。生命維持機能だってオミットできる。今までの宙華が為してきた人間の『機械化』技術も、この辺りに理由があるのかもしれない。
今はまだ無人機だが、人間の『脳』を副官AIのように戦闘艦に配置する技術は確立しているようであるから、小型の戦闘艇や航宙機にまで載せる事ができ、一定の練度を作り上げられるのであれば、導入される可能性は高くなるだろう。
とはいえ、単機の戦力が低い航宙機・戦闘艇に訓練された『脳』を乗せる効用は低いので、無人戦闘艦に副官『脳』を配置し、有人艦並みの戦闘力を確保し、その上で、単純な戦闘行動を担える無人航宙機・戦闘艇を多数発進させ数で押し切るというあたりが、奴らのやりそうなことだ。
同じことを有人で行うには、リスクが高いのだろう。主に、逃亡や交戦意思の問題で。数年がかりでコールドスリープさせられ送り込まれたうえで、死ぬまで戦えという命令を国民意識の低い宙国隷民が従うわけがない。
人権の保障された国の軍が、そうではない国民の軍より強いのは、自らの権利=国を守るために戦う意思かがるかどうかだろう。押しなべて、人権意識の低い国の国民は攻める時は暴力的で強いのだが、守りはからっきしである。国に守られている意識が低いからじゃないかと思う。国が国民を守ると同時に、国民も国を守っているってことだよ。
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