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085 グンマー訓練宙域―――『簡易多用途任務艦』(参)

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085 グンマー訓練宙域―――『簡易多用途任務艦』(参)


 五十機の航宙機による襲撃で95式宙雷をほぼ使い果たし、帰りを考えると暗い気持ちになる。母艦を伴っていない護衛任務では、消費した宙雷や無人機を補充することもままならない。


『第二宙堡にある分をいただかないといけないわね』


 ナカイが正式に依頼すれば、否とは言わないだろう。いろいろ問題起こしている第二宙堡だしな。トワさんからの通信。なんだよぉ。


『無人機ね。それも、ルーシ製? 宙華製? 自称宙賊ってのも怪しいよねー』


 宙賊だと思ったら、宙『華』賊だったということだろうか。ホンシュウ星系にどうやって宙華の無人戦闘航宙機が現れるのか。訳が分からねぇ。


『正式にグンマー宙域の宙域監視を強化しないといけないということよね』

「その仕事、また俺達がやるのかよ」

『FSKじゃ無理だよねー 無人航宙機母艦とかあれば別だけど』


 無人航宙機母艦が欲しいのは『機動支援艦隊』も、同じ気持ちです。今回の任務、ゴトウ宙域の時と似ているかもしれんな。警戒網を設定して、宙賊なのか宙国なのか、ハッキリさせた方がいいし、拠点があるなら潰してしまうべきだ。


 仮に、ヒンドゥやルーシが協力しているというのなら、ニッポンと敵対している勢力が複数という事になる。USAとの協議も政府は必要となるだろうし、宙軍においても今まで以上に難易度の高い問題となるだろう。


「この場で航宙機の残骸を回収して、後で分析する必要があると思うが」

『その通りね。二隻をこの場に残して、航宙機の残骸を回収させましょう』


『清霜』とその僚艦へ、現場に残り、航宙機の残骸を幾つか回収するように命じる。『清霜』のAI副官『セイ』が納得いかない! と宣っていたが無視。仕事だからしょうがないだろ? 俺も帰りたい。安全な後方で、船団にくっついていくだけの簡単なお仕事じゃないのかよと言いたい。





 ナカイに司令官室(という名のモジュール内の居住施設)に呼ばれる。『晴嵐』型モジュール内で唯一まともな居住空間とも言える。


「第二宙堡である程度補給を受けられることになったわ」

「そりゃ助かる。無人航宙機も、宙雷が無ければ戦力的に意味が無いからな」


 推進剤を補給できても、弾が無ければ攻撃能力皆無の標的にしかならない。


「それで、今後の方針なのだけれど」

「暗礁宙域の捜索だろ? 旗艦を持ち込めば長期の捜索は可能になるが、今回のような襲撃を受けた場合、おそらく護りきれない」


 無人機五十機の同時攻撃、船団護衛に半数回した状態で、四隻の護衛で大型輸送艦同然の『知床』を守り切ることができるとは到底思えない。『迅鯨』なら多少ましであるし、直掩艦も用意すれば、なんとかなるだろう。


「少なくとも、第二戦隊がこちらに呼び寄せられるまでは無理だな」

「……それは同感ね。『知床』と第二戦隊を呼び寄せるべきかと思うのだけれど」


 簡易型を移送するには、知床の輸送能力は必須だろう。とはいえ、訓練生の乗る簡易型ばかりを残してしまっては、教導隊として成立しない。増員が為される迄はちょっと無理だろう。


「第三戦隊の発足まで待つべきだな。それと、船団の回数を減らして、規模を拡充、星系防衛艦隊の主力艦を護衛に廻させるか、一時的に新造戦艦などを訓練目的でグンマー船団に同行させるとか……俺達がなんとかしなくても手はある」


 ナカイ組だけが苦労するのは間違ってるだろ? 皆で分かち合うべきだよね。そもそも、護衛に訓練目的とはいえ戦艦や重巡が加われば、宙賊が襲って来る事も無くなるだろう。たぶん、根拠はないけど。


 習熟航海と言えど、艦長を含め既に戦力として発揮できる人員は配置されているのだ。実際、宙賊が出てくる宙域で、実戦を想定した訓練を行える程度の練度には達しているだろう。はったりでもかまわないし、攻撃を受けたとしても主力艦を沈めることができるほどの攻撃力を宙賊の航宙機・艦船が有するとも思えない。


「話の持って行き方次第ね」

「問題ないだろう。そもそも、宙堡で起こっていた不正を放置していた宙軍幹部に問題がある。訓練と船団護衛を両立させる要請くらい受けてもらわないと困るな」

『そうだよ! 訓練と実戦経験両方を体験できる良い機会じゃない!!』

「「……」」


 トワさん乱入。なんで繋がってんだよこの回線。


『暇だから、カスミちゃんに連絡したら、二人がお部屋デートだって言うからさ。

乗り込んでみた★』


『★』じゃねぇ! それに、お部屋デートってなんだよ。お部屋以外で密会するのって難しいぞ。俺とナカイ、インドア派だし。休みくらい家から一歩も出たくない。アウトドア好きって、デスクワーク中心の生活してるんじゃないかと推測する。営林署の人がアウトドア好きとかあんまり聞かない。

営林署の知り合いいないけど。


「……それで、今大事な打ち合わせ中なのだけれど、何か用かしら」

『大事な打ち合わせ……ウエディング的な?』

「ウエンディゴ……UMAの話ではないわね」


 UMAだっけ? インディアンに伝わる精霊じゃなかったか。ニッポンにもあるよね、一人で歩いていると視線を感じる的気配の妖怪。それに似ている。視線恐怖症かもね。もしくは、譫妄。


 トワさんは俺とナカイを男女の関係にしようと、機会があるたびに揶揄うのだが、俺達の関係は上官と部下、そして将来は雇用者と被雇用者の関係になる。予定。たぶん。


 そもそも、そんな色っぽい感情を持てる間柄ではない。


「それで、何用でしょうか」

『ん? あれでしょ、訓練中の新造艦をグンマー航路に廻すって話、それ、在郷軍人会経由で提案しておく。私、監事だし』


 幹事ではありません。各星系の惑星・衛星単位で存在する退役宙軍軍人のOB会だ。地域に根差した活動を行う社会貢献団体でもあるんだが、それなりの政治力がある。監事より上の『理事』になると、定期的に宙軍との交流がある。


 在郷軍人会は初等教育の場や高齢者のコミュニティに深くかかわっていることから、政治家も選挙の為には無視できない存在だ。まして、ナカイの一族なのだからそれなりの影響力がある。


「それは大変結構ですね。新造の随伴艦も相当数進宙しているでしょうし、新設機動艦隊の訓練もホンシュウ星系を母港とする艦隊は、グンマー航路で訓練を行うようにこちらからも意見書を出したいと思います」

『そうだね。FSKもさ、こんなにしょっちゅう攻撃されていたら経費倒れしちゃうじゃない? その辺りも、交渉の余地あるかな』

「……鋭意検討します」


 それ、検討しましたが駄目でしたのテンプレじゃないですか。持ち帰って検討します的な何かだよね。まあ、第二宙堡に出来る限り補給させる方向で負担させよう。そもそも、グンマー宙域が荒れてるのって、星系防衛艦隊と宙堡の責任だから。しわ寄せは馴れっこだが、責任の所在は明確にして更迭なり譴責なり処分されてしかるべきだ。


『その辺、弛緩した上層部にはいい鉄槌になると思うから、しっかり話を通すよ。ピリッとしない奴は、とっとと後備飛ばして予備役なり退役させないと前線で若い宙軍軍人が無駄死にするからね。そういうの、いくないよ』


 仰る通りです。戦艦なんて沈まねぇから、司令部は余裕なんだよ。無駄に死ぬのは航宙機や補助艦艇の駆逐艦とか輸送艦とかコルベットに乗っている若い将来優秀かもしれない奴らなわけで、退役に片足突っ込んでる年寄り提督のせいで死ぬのはかわいそ過ぎる。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




「宙雷ですか、必要なだけお持ちください」

「……大丈夫なのか?」


 ホンシュウ星系防衛艦隊の第二宙堡からドンドコ物資を機動支援艦隊やFSKが譲ってもらって問題ないのかと危惧するのだが、対応してくれた宙尉が快く応じてくれた。


「今、私が最上位の指揮官なんです。それに、護衛の皆さんが装備を整えて船団を守って下さらなければ、飢えるの自分たちですし。宙堡は上を下への大騒ぎですが、申請書さえ出していただければ、余計なことをする幹部がいない分、問題なく補給させていただきます!」


 どうやら、船団護衛を軽視してきた結果、色々詰問されているのだという。その結果、司令もその幕僚も、警戒隊の幹部もホンシュウ星系防衛艦隊司令部に呼び出されており、目の前のただの宙尉が『最先任』となっているのだという。


 お言葉に甘え、FSKから点検と整備・補給をお願いする。前回は民間用の桟橋で簡単な自主点検を行って終わらせたのだが、今回は宙堡の整備兵が行ってくれるのだという。


「それと、ナカイ准宙将がいらっしゃいますから、我々も後から追及されることもありません」


 第二宙堡の司令はナカイと同格の准宙将だが機動艦隊司令官と宙堡の司令では宙軍内部の序列が相当異なる。実際、攻撃を受け反撃した結果の補充であるし、命令書さえ妥当であれば、従う事に問題はない。故に、前回と異なる対応も問題ないのだという。階級社会だよねー宙軍。





 百発強の95式宙雷を確保し、また、整備の必要な無人航宙機を下ろし、代わりに第二宙堡の装備から充当してもらう。陽電子砲や外装などの損耗は許容範囲であるので、必要であったものはその辺りで回復できた。


「さて、美味しいごはん屋さんにみんなでGo!! だね」

「……ご一緒するんですか……」

「そうそう、偶には孫とごはん食べないとね。いつ、お迎え来るか分からないし」


 年齢的には問題ないが、流れ弾一発で消し飛ぶ命であることを考えると、祖母と孫の食事の機会は確保した方がいいのかもしれない。ナカイの感情を度外視すれば。


 子供の頃からカトリの祖母には笑顔で厳しく躾けられたナカイは、ニコニコ顔の祖母がとても苦手だ。しかし、そんな顔をすれば相手に腹を探られると教え込まれたナカイは、祖母の意地悪や罠を笑顔で回避することに慣れている。宙軍士官学校では祖母から隔離され、肩肘張らずに楽しく無表情で過ごせたのだが、食事の時も様々な課題を暗に投げかけられるトワさんとの食事は、あまり食べた気がしないという理由で避けたいらしい。


 軍人の楽しみというと、食事くらいしかないのだから、その時間を祖母に邪魔されるのは気にいらないのだという。


「もちろん、ツユキ君も歓迎してくれるよね?」

「……他の幕僚も同席させてよろしいでしょうか」

「大歓迎だよ! レイちゃんの司令官っプリをまじかで見ているウラヤマけしからん人の率直なご意見感想もどしどし聞きたいからね」


 どんなMCだよ。上官の感情さかなでるようなこと、部下が言うわけねぇだろ。そんなことを考えた時もありました。





「トワさんって、ナカイ閣下の年上の従姉さんとかですか?」

「あはは、この子可愛いねー。私はレイちゃんの母方の祖母だよ」


 今回同行させているのは、きゃるぴん情報幕僚こと、ルミ・ミカミ准宙佐だ。見た目は美少女JK、中身は腹黒アラサー情報士官という残念な存在。


「母方の従姉? ではなく祖母ぉぉ!!」


 ああ、宙軍のアンチエイジングは確かな技術だろ? 安心しろミカミ。お前の労苦は無駄にならないっぽいぞ、たぶん。


「FSKのお偉いさんだから、くれぐれも失礼のないようにな」

「身内が迷惑をかけるかもしれないのだけれど、あらかじめ謝っておくわミカミさん」


 いや、多分余計な事をトワさんに言って謝るのはミカミだと思う。


「何か楽しくなってきたねー やっぱり焼肉屋さんとかかな?」

「そうですね、肉食って元気出すのは良い考えですトワ姐さん」

「あはは、調子が出てきたねルミちゃん、気に入ったよー」

「恐縮です姐さん!!」


 二人が先を争うように前を進む。どうやら、よさげな焼き肉屋の目途は既に立っていたようで、阿吽の呼吸で歩調を合わせてズンズンと進んでいく。

 

 そもそも人口的に万に届かない小さな街なので、高級焼き肉店は一店舗しかないので確定なのである。


「……ツユキ宙佐」

「なんでしょう、閣下」

「む」

「む?」

「無臭ニンニクとか使っているでしょうから、臭いは大丈夫よね」


 確かに、ナカイ准宙将がニンニク臭いとかイメージダウンも甚だしい。たいていお高い焼き肉屋は臭い対策しているから大丈夫だと思うぞ。そもそも、俺達、行軍演習とかで数日入浴しないとか普通だっただろ? 臭いとか気にしてないぞ、今さら。





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