084 グンマー訓練宙域―――『簡易多用途任務艦』(弐)
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084 グンマー訓練宙域―――『簡易多用途任務艦』(弐)
船団護衛をしつつ、艦隊行動の訓練中。を見学している俺。実際の細かな指示は、我がAI副官が行っている。PFS並みのAIしかない簡易型に対する指示命令は、今までのやり方より、具体的な操艦プログラムを通達する方法に変更されそうだ。
人間の航宙士は、その際に発生するトラブルがあれば、早期に指摘し事故を起こさないかどうかを監視するような役割となる。なので、今まで操艦に自信のあった航宙士にとっては不満がくすぶっているとみた。
「贅沢な不満ね」
「実際、何もない時には人間が介入する余地があまりない」
ただの船団護衛なら、決められた航路を極められた速度で運航する船団の周囲で警戒し、問題がないかを確認するという簡単なお仕事だ。特に、今回、宙賊が出没するとも思えないので、『見てるだけー』に等しいだろう。楽して稼げるの、何が不満なんだよ。
「いい年して宙二病か」
「老人になっても変わらないようね。サンプルは」
FSKの元気なご老人たちだ。外見は四五十代くらいに見えるが、実際はその親の世代なんだなこれが。
船団護衛をしながらなので、細かい訓練課題を与えることは難しい。
「『清霜』『朝凪』『夕凪』に命ずる。船団のさらに外周に無人機を配置し、船団の周辺に対する索敵を実行せよ」
『『『了解』』』
無駄な監視業務だが、艦隊の眼となる「無人航宙機」の操作に熟達して貰う事も大切だ。もっとも、簡易晴嵐型ではAIによる操作を自艦の管理と同時に行う事が難しいので、手動か無人機操作に専念させるかの二択になるので、今回の船団護衛の際には行わない。
『雪嵐』を含め、無人航宙機を各一基発進させ、船団の左右の広い範囲で索敵を行わせる。船団の位置からではデブリで隠蔽されていても、書割のように別の角度からなら潜んでいる宙賊船が発見できるかもしれない。
その為、船団から離れた位置からの無人機による観測・索敵も必要となる。また、機動支援艦隊として、無人哨戒機の敷設も必要な任務となるため、こういった機会に無人機操作に副官AIを慣れさせる必要もある。
とはいえ、あくまで訓練の一環。四基しか各艦搭載していない無人機で推進剤だって消耗品なのだから、幾度も訓練することは出来ない。実際、訓練で全部消耗した状態で接敵されたら、何の役にも立たない。今回、95式宙雷は無人機に装備されたものだけであることもある。使いたいときに使えないのはよろしくない。
無人航宙機の航続距離は短く、その索敵範囲は狭い。グンマー宙域のようにデブリや小天体が多い場所であれば致し方ないが、そうでなければ艦隊に随伴させるには整備や燃料の補給含めあまりコスパが良いとは言えない。
モジュールには数度の燃料補給ができる程度の簡易的な整備ユニットが内蔵されているだけで、使用した宙雷の補給や破損した場合の修理などは有人艦、航宙機母艦などで行う必要がある。完全な使い捨てではないが、使えば損耗する度合いが大きな装備だ。動かせば金がかかる。数が多くなるにつれ、その辺りの予算確保がナカイやクルリ首席幕僚の悩みの種になりつつある。
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グンマーまであと半日ほどの距離まで近づいたとき、再び、索敵に複数の機影が映し出される。デブリじゃないの? ホンシュウ星系防衛艦隊のフリゲートとか何やってたのと問いただしたい!
と思っていると、FSKからの通信。トワさんからだ。
『そっちでも確認できてるよね』
「確認できています」
『指揮権をレイちゃんに一時的に委譲するね』
今回は、最初から機動支援艦隊のFSKカトリ隊が指揮下に入るという体勢には入っていない。完全戦時下であれば、宙軍省の内部に『宙域護衛総司令部』が設置され、その指揮下に戦時徴用された民間の宇宙船とその護衛が『機動支援艦隊』を中心に編成される予定なのだ。これは、機動支援艦隊設立の背景にある宙華との戦争時における、民間宇宙船の防衛計画や星系間輸送の戦時体制整備を理由としている。
FSKと輸送船団護衛任務の契約を締結するに当たり、平時においても必要と認められる場合、どちらかの指揮官からの要請で一時的に戦闘指揮をFSKは宙軍に委ねることができるとされている。
これは、将官の承認を必要としており、普通はグンマーの第二宙堡の司令か、ヒャクリの司令である准宙将以上の要請・承認で認められるはずなんだが、今回はナカイが同行しているので、彼女の承認でその場で成立することになる。
『引き受けるわ。戦隊司令、こちらのAI副官の指揮下に、FSKの統制システムAIを収めてちょうだい』
「ツユキ了解。副官、よろしく」
『任せておきなさい』
FSKの艦船が四方に展開していた配置を、船団の前後に二隻ずつバディで配置するように変更していく。前後にFSKを、船団の周囲を六角形の頂点になるように宙軍艦艇八隻を配置していく。
接近してくる存在は小型航宙機の集団であることが判明する。前回と変わらず航宙機による襲撃とは進歩がないのか、何か策があるのか。
『航宙機の数、凡そ五十機、三隊に別れ接近中。接触まで凡そ三百』
三百秒、五分少々ということだ。船団の側面、そして、前後を遮るように小型航宙機が散開する。今回も偵察して、晴嵐型が戦闘艦だと判別できなかったのだろうか。それでも、前回の三倍の航宙機を良く集めたもんだ。
『無人航宙機全機発進。95式宙雷の発射用意』
カスミが次々指令を与えていく。とても楽ちんだ。FSKののだっ子副官は見学だろうか?
『無人航宙機の指揮は、ユズカ!!』
『了解なのだ!!』
いた。遠距離での交戦から始まるので、タイムラグを考えた指揮を容易にこなすAI副官が無人航宙機を掌握するのは悪くない。カスミが船団の直接防衛、ユズカが無人機のコントロールと役割分担したわけだ。
「航宙機の型式わかるか?」
『USAとニッポン製じゃないことくらいね』
「そらそうか」
宙華とヒンドゥ連邦の航宙機はルーシからのライセンスもしくは模造品が殆どで、外観上の差異は多少あるものの、似たり寄ったりの性能だ。多用途を求めない代わりに、小型で安価な航宙機であり、USAやニッポン製の半額程度のコストで製造されるが、相対する場合それ以上の数を必要するとされている。有人機の場合、三倍ないし四倍の数で当たれと命ぜられているということだ。航続距離も短く、搭載可能な宙雷もニッポンなら四発だが、ルーシ製は二発でしかない。小型故に、被弾しにくいというメリットはあるものの、損害を受けた場合、搭乗員の生命維持に必要なリソースを削って小型化したデメリットが理解できるようになる。
当たれば確実に死ぬ……といった兵器だ。
『八割方はUJ-7型航宙機ね。でも、中にUJ-11が混ざっているわ』
UJ-7はベースとなったルーシが製造したUMG21型形航宙機を範とする楔型形状の軽航宙機で、数万機製造されていると言われるベストセラー航宙機だ。兎に角お安い。軽量小型の機体に相対的に大きな出力の推進器を搭載し、パルスレーザーによる一撃離脱を得意とする迎撃航宙機だ。本来は、艦隊や軌道ステーションの防衛などの任務に用いられる。
小型故に推進剤の収容が少ないため、攻撃機としての武装搭載能力や長距離侵攻などには全く向かない。
しかしながら、UJ-11型は航宙機母艦にも攻撃航宙機として搭載される機種であり、宙雷四発を装備できる高機動航宙機だ。
「迎撃はUJ-11中心に指定しろ」
『了解。宙雷装備なら、何隻か沈むかもしれないわね』
それは避けたい。ナカイからも同様の指示が飛ぶ。宙軍含めて十二隻の護衛を備えた船団に襲ってくる宙賊って、どれだけ自信あるんだよな。
船団の進路前後方向に展開したのは軽航宙機UJ-7、その側面に展開するのは、UJ-11を半分含めた航宙機群だと判明。進路を塞いで船足を落とさせてから、宙雷をUJ-11に打ち込ませて推進器を破壊し輸送船を足止めするという作戦だと推測する。
船団の周囲に均等に展開していたのでは、浮いた駒が生まれると判断したAI副官が配置を変えていく。六角形の配置から、コの字型に護衛隊列を修正する。宙賊機が襲ってくる側の防備を固めたのだ。これで、多くの砲が航宙機迎撃に指向できる。
『船団各位は、回避行動がとれるよう速力を抑えておきなさい』
全力で前進していては回避運動もままならない。速度を七分目まで抑え、船団の速度をやや低下させながら、航宙機の突入に対応できるよう修正する。
対宙パルス砲を回避するため、密集隊形を解き、バラバラに船団に突入しようとする宙賊機に無人機の95式宙雷が発射されていく。護衛艦の隙間を抜けようとすると、そこには配置された無人機が待ち構えていたというわけだ。
BONNN!!
BONNN!!
旋回して逃げようとする航宙機の内側をより小さな半径で旋回した宙雷が次々に突き刺さっていく。対艦用としても用いられる95式宙雷は、速度の不足を機動性で補う設計思想で作られている。着弾直前の対宙砲火を回避するため高機動用スラスターを装備している。故に、航宙機の旋回に容易に追従できるうえに、コントロールはAI副官が担っている。お手軽航宙機に乗った宙賊に回避できるわけがない。
BONNN!!
BONNN!!
爆発する宙雷、そのたびに宙賊が数を減らしていく。
『UJ-11が宙雷を発射!!各員、宙雷を迎撃!!』
95式と似た性格を持つ『UAS-17』対艦宙雷だろうか。射出直後の加速前に迎撃するのが吉だがそうはいかないかもしれない。
『陽電子砲も使用し、想定される通過経路に弾幕を展開』
船団側面に展開する四隻のFSKと同数の第一戦隊艦合計八隻の四十門の四連装対宙パルス砲、二十四門の単装陽電子砲が『雪嵐』のAI副官にコントロールされ、一つの戦闘艦のように船団に到達する宙雷に向け砲火を放つ。
『95式宙雷一斉発射!!』
二隻のFSK艦『内海』『肩衝』から、六十発の95式宙雷が側面から接近する宙雷と航宙機に向け発射される。このコントロールは勿論、のだっ子AI。
『逃がさないのだ!!』
対艦宙雷を囮に突入してくる航宙機に、95式宙雷が追尾していく。また、UAS-17に正面から95式宙雷がぶち当たっていく。宙雷をすり抜けたと思えば、後方の軽航宙機に向かい命中する。
BONNN!!
BONNN!!
俺は艦橋に座りモニターを見ているだけの簡単なお仕事。とはいえ、戦術士は装備の損耗状態を確認しつつ、あとどの程度戦闘が継続できるかを確認しているし、航宙士は船団全体と自艦の推移情報を擦り合わせ、最適位置に位置しようと推進器を調整している。通信情報士も船団の損害を確認しつつ、周囲の艦船にこちらの捉えた情報を共有するように処理を続けている。
けど、同じことをAI副官は単独で艦隊全体と統合しつつ指揮している。俺達の仕事とは独立しているので、齟齬は起こらないが。
大多数の航宙機・宙雷を迎撃完了し、船団の被害は軽微。何機かの航宙機が突破に成功し、輸送船に銃撃を行ったが、無人機と対宙パルス砲で迎撃されている。
『戦隊司令、ちょっといいかしら』
ナカイからの通信。
「どうぞ、司令官閣下」
『……この襲撃、無人攻撃機ではないかしら』
ナカイの疑問にカスミが『そうね』と答えた。
これにて『民間武装会社』終了となります。お付き合いいただいた方、ありがとうございました☆
次幕『嚮導巡洋艦』投稿開始いたします。
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