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083 グンマー訓練宙域―――『簡易多用途任務艦』(壱)

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083 グンマー訓練宙域―――『簡易多用途任務艦』(壱)


 二週間ほどの準備期間を置き、シコク星系トクシマから第一戦隊四隻は司令官ナカイ准宙将と共に、ホンシュウ星系『チバラキ』のヒャクリ宙港へ向け移動をする。


 今回は、『巡視船モジュール』を搭載して二期三期の訓練生を載せ『哨戒特務艦』である四隻の簡易晴嵐型を受領し、そのまま、グンマー宙域への船団護衛の任務にFSKと就くという流れになる。


 ナカイは、前倒しで就役する『迅鯨』を受領し、習熟航海を行うついでに第一戦隊の船団護衛任務に同行するということを考えているらしい。


 ヒャクリに仮の司令部を設置する必要もあり、また、今後仕事で協力していくFSKの責任者たちとも意思疎通を図る必要がある為、自ら足を運ぶということになるらしい。星系を跨いだ場合、通信では手紙と変わらないコミュニケーションしかできないため、直接会って会話することが最も適した方法となるので、仕方がない。


 今回、司令部はクルリ首席とヤエガキがトクシマで教導隊を教育し、ナカイ司令と俺がグンマー宙域で訓練兼習熟航海を行うということになる。ヤエガキとはすっかり擦れ違い人生だな。


「狭いけど、落ち着くわね」

「そうか? ま、ワンルームマンションぽいよなこのモジュール」


『雪嵐』は『情報収集モジュール』で旗艦設備を持っている状態でナカイを乗せている、仮の旗艦ということになる。HDゲートを使えば、シコク星系からホンシュウ星系のチバラキまで二日程度で到着する。書類仕事をこなしている間に、到着する程度の時間だ。


「宙賊って、都市伝説なんだと思ってましたよせんぱい」

「俺もだ。ちょっとキナ臭い感じがするな」

「前々から噂としてはありましたからねー」


 グンマーは秘境だ荒野だと言われてきたのだが、その理由の一つは、船団を組まない場合に年に何度か商船の失踪事件が発生するからであった。神隠しとは思わないが、残骸も残さず記録も残さず消えてしまうので、船団を組み、護衛を付けて航行するのが基本であった。


「まあ、チャーター船とかだと仕方ないですけどね」

「なにもない宙域だから、持ち込めるものがあれば、食料でも嗜好品でも高く売れる事は間違いない。挑戦者がいるから、事件も起こるってことかな」


 個人営業の輸送船業者が失踪する事が多い存在であったりする。ハイリスクハイリターンだと思って受けるのだろうが、リスクばかりが大きな仕事であったりするわけだ。


 穿った見方をすれば、依頼人と宙賊がグルで、失った商品は保険が適用され、損は被らないし、商品と宇宙船が手に入る宙賊はそれなりに美味しい目に合うということで、協力者がいるのではないかということだ。


「同じ依頼人が何度も……という事は無いのよね」

「そうだろうな。アレンジャーというか、ブローカーみたいなのがいるのかもしれない」

「ああ、成功すれば宙賊側からいくらか報酬が貰えるってなれば、荷主に協力者として紹介する仲介人はいるかもしれませんね」


 けど、宙賊船を漁ってもそれに関する資料は出てこないだろうな。取引は宙賊と仲介人の間のやり取りだけだし、仲介者と荷主の間も判りにくくなっているだろう。内部告発でもなきゃ、解りようがない。


「難しい事を考えるより、宙賊が割に合わないと思うだけの損害を与え続ける方が簡単ではないかしら」

「確かに」


 何で艦隊司令官も情報幕僚も脳筋なわけ? やるのは俺達なんだが。


 不幸だぁ!! と内心思いつつ、一先ず『ヒャクリ』宙港へと到着したわけだ。





 ヒャクリ宙港には、FSKの警備隊と同じ仕様(塗装以外)の哨戒特務艦装備である四隻の『簡易晴嵐型』が並んでいた。この四隻は、チバラキの造船メーカーで建造されたもので、常総HD系列の会社製らしい。進宙式とか、誰が呼ばれたんだろう? 少なくとも、機動支援艦隊の関係者ではない。


 今回は、『雪嵐』『朝凪』『夕凪』『清霜』と簡易型をバディとする隊を編成し、八隻で護衛任務を行う。『迅鯨』就役後は、四隻を定期船団護衛、残りの四隻と『迅鯨』とで宙賊の探索を行う事になる。


 ニッポンの犯罪組織の系譜なのか、はたまた、宙華や他の宙域国家の息が掛かった反政府組織なのか、その辺り含めて調査をする事になるだろう。


 アンドロイド宙兵は、バイオロイド一に、アーマロイド二の組合せで『雪嵐』『朝凪』『迅鯨』に配属される予定なんだが、今回は全て『雪嵐』のPFSと『情報収集モジュール』にメンテナンスキット迄納めての任務参加となる。


 アンドロイド宙兵はナカイ司令官の身辺警護を兼ねることになる。え、だって、そのまま『雪嵐』に乗り込んで船団護衛に参加するらしい……


「実際に、どのような任務なのかと、新兵の練度の確認も兼ねてよ」


 と言い訳していたが、ヒャクリに滞在する間、地元の有力者との会合という名の「レイちゃん歓迎会」が延々繰り広げられる予感を感じて逃げ出したというのが正しいだろう。兄と姉は既にHDの後継者とその補佐役として活動しているし、姉の夫は衛星自治政府の高官でもある。


 つまり……妹をただ可愛がるために、権力を振りかざしありとあらゆる機会を『宙軍高官との交流』『チバラキの安全保障に関するコンソーシアム』などという名称の公務にぶち込み、妹を公的に構い倒そうと待ち構えていた……らしい。


「それ、思いついた首班に心当たりがある」

「ええ。けれど、FSKの艦船に艦隊司令官が座乗することはないから、少なくとも『雪嵐』の中では安心できるわ」


 アンドロイド宙兵もいるし、無茶なこともされないだろう。だといいね。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




「なかなかいい部屋ね」

「……同じモジュールだと思いますよ」

「だってー レイちゃんが居るじゃない?」


 ナカイはモジュールの備品ではありません。どうやら、警備の打ち合わせという名の名目で、孫娘に会いに来たらしい。いや、警備関係に関しては戦隊司令の俺とトワさんで十分だから。機動支援艦隊司令官の仕事じゃないよ。


「……これからもよろしくお願いします、カトリ隊長」

「やだなー トワ姉様でいいよー」

「図々しいですねおばあ様」


 見えない角度でボディーブロー炸裂!! 悶絶する俺。なんなの、人間凶器なの、もしくは狂気。この人は、香取神道流の師範なんだよぉ。得意なのは小太刀と棒術に柔術……宙兵も真っ青の武術の達人らしい。


 子育ての合間に鍛錬を重ね今日に至る。FSKの構成員……社員には門下生やその係累が少なくないという。警備会社にとっては良い関係者なんじゃないか。


「お揃いの装甲強化服とか作ろうと思ってるんだよね」

「……何のためにですか……」

「それは、宙賊船を制圧してお宝ゲットするためだよ」


 回収した資材のうち、持ち主の現れないもの、現れた場合はその時価の二割を報酬として受け取るらしい。落とし物かよ。


「その回収資産がボーナスになるわけ。宙軍と民間の違いはその辺りだよね」

「宝探しのついでに宙賊を討伐するという事ですか?」

「そんな感じだね。船団護衛で篩にかけて、有能な奴を選抜して宙賊退治に進めようとおもってね。前回の船団護衛で痛い目にあったから、暫くはおとなしくしているだろうから、その間に育てようと思ってさ」

「……よろしくおねがいしますね」

「任せてよレイちゃん!! 孫にも会えてお金も稼げる素敵な商売だね」


 血気盛んな退役軍人を集めて何かやらかしそうな人たちを管理するつもりだったのだろうが、逆の方向に走り出している気がする。が、それを考えるのは宙軍省や政府であって俺ではない。


 暑苦しい祖母との『会合』で一気に疲れ果てたナカイを尻目に、孫を構い倒したトワさんは艶々とした雰囲気となり、『大海』へと戻っていった。『雪嵐』のPFSに送らせて。





『第3686グンマー船団、進発します』


 FSK単独で小規模な第3684-5船団の護衛を行い、今回は少々大きめの船団となったのは、機動支援艦隊が参加する事が事前に知れていたかららしい。とはいえ、ある程度の規模の宙賊を討伐したこともあり、船団がそうそう襲われる事はないだろうと思うのだが。


 ナカイが機動支援艦隊司令部経由でホンシュウ星系防衛艦隊司令部に確認したところ、第二宙堡は一時機能を凍結、直轄の宙雷戦隊を送り込み、また複数のフリゲートを小惑星帯周辺の航路で巡回させ、不審な宇宙船の捜索を行っているようだが、めぼしい成果は上がっていないとのことだ。


「内部協力者がそれなりにいるんでしょうね」

「宙堡だけではなく、船団関係者やグンマーの住民・港湾関係なんかも含めれば」

『キリがないわね。やっぱ、宙賊は浄化するしかないわ』


 モヒカンの人かよ。そんな簡単にはいかないし、投入する戦力に対して得られる成果が恐らく少なすぎる。FSKがやる気になっているのであればそこに一任する方が効果的だろうとは思う。


 FSKの護衛が船団の十字方向に展開し護衛をしているのに対し、俺達の艦隊はXの位置でバディを展開、周辺宙域を捜索しつつ、不審物があれば無人機を飛ばして偵察している。


 今回は二隻でセットの運用をテストするために、『雪嵐』以外のモジュールは組み替えている。


二隻運用時のモジュールセット

哨戒特務艦モデルA 【情報収集】【陽電子砲】【無人航宙機】

哨戒特務艦モデルB 【95式宙雷】【巡視船】【対宙パルス砲】


 Aは分隊指揮、Bは救命救助の装備を中心にしている。船団護衛には、備砲の単装陽電子砲で十分対抗できると考えているが、重巡洋艦以上の主砲レベルの陽電子砲を持つような存在は前提としていない。そもそも、砲自体の流通量が極端に変化するので、大型陽電子砲自体が民間に流れず、管理も厳重なので考えずとも良いという判断だ。


 出てきたら、時間を稼いで遁走するしかないだろう。


 FSKは船団の動きにピタリと追従しているのに比べ、第一戦隊は……


『戦隊旗艦から各位。船団の動きがトレースできてないわよ。こちらから改めてデータを送るので、それぞれの分隊指揮艦は僚艦に自身の動きを事前に伝達し機先を制して動くように。以上!』


 簡易晴嵐型のAI副官は、今までのAI副官と異なり、人格を持っていないFPS用のAIをベースにしているものだ。なので、親機子機のような感覚でバディを運営する方が良いと、今の練度では判断したようだ。


『清霜・第一二号了解でーす!』

『朝凪・第一三号了解しました』

『夕凪・第一四号了解』


 フラフラとした動きが改善される。AI副官同士の関係と、分隊指揮艦と僚艦の関係が明確になって艦隊運動の精度が増した。今までの訓練成果が出ているとは思う。


「戦隊司令艦のAI副官次第というのは、促成艦隊であるから仕方ないのでしょうけれど、戦隊司令艦が撃沈されたり戦列を離れた場合は心配ね」


 ナカイの不安はその通りだろう。が、それは大型艦の戦隊でも同様の事は起こりうるし、単艦行動時の混乱は不可思議ではない。問題は、再編成できるかどうかになるだろう。


「そう考えると、簡易型の比率を半数以下にする方が良いだろうな。四隻に三隻が簡易型である等というのは、指揮できない可能性もある。AI副官が優秀とはいえ、同時に三隻と自艦のコントロールを行うのは無理があるだろう」

「一対一でも十分効果があるのだから、これ以上はダメージコントロールの観点からも無理がありそうね」


 二対二から一対二に標準と簡易の比率が変化するのは何とかなるが、一対三から〇対三になったなら、指揮系統が崩壊するだろう。現実には二対二から〇対二という環境もありえるが。


「簡易型を導入するのも良し悪しね」

「FSKは簡易型であの艦隊運動なんだから、乗員の練度は二期三期より遥かに上なんだろうな」

「老兵は死なずということろね」


 消え去ってもらうには惜しい人たちだってことだな。この人達、所謂年金生活してたってことを考えると、先のことはともかく、今この時点での戦力としては年齢制限撤廃で再就役してもらうって事も大事なんじゃねぇの。特に、予備役艦であった戦艦は、新人より経験者を載せた方が即戦力になるのではないかとも思う。どうなってんだろうな。



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