081 FSKのAI副官―――『哨戒特務艦その参』(参)
評価及びブックマーク、ありがとうございます。
また、<いいね>での応援、励みになります。こちらもありがとうございます。
誤字報告、ありがとうございました。
081 FSKのAI副官―――『哨戒特務艦その参』(参)
――― 求む老兵。栄誉無き戦場、わずかな報酬、絶えざる労苦、生還の保証なし、生還の暁には名誉と賞賛も能わず。
「なんだこれ」
『FSKの新人募集のキャッチコピーだね』
どこのシャクルトンだよ……二千年以上前の探検家・部隊指揮官だ。エンデュアランス号という、すっごく大変そうな名前の船に乗り、南極探検を行い、失敗しつつも多くの部下を率いて生還した事で有名な人だ。
そのパクリ。シャクルトンズ・ウェイ……シャクルトン道ってリーダーシップの心得で名が知られたんじゃなかったかな。映画にもなったしね。
非業の死を遂げた同時代の探検家と異なり、半ば忘れられた人であったし、あまり良い人生を送ったわけでもなかったけど、極限状態における指導者のモデルとして再発見され歴史に名を残している。
UC時代の初期というのは、今よりずっと投機的で危険な時代であったことから、シャクルトンは多くの宇宙探検家・開拓者に信奉された英雄的人物だったそうです。投機で失敗したり、大借金を抱えて死んだりしているから、絵にかいたような英雄ではないのがまた良いのだという。
何事もなく過ごしたい省エネ主義者の俺とは全く合わない。ちょっと多動性向だったみたいだし、良い面ばかりではない。
英雄が平時になると無用の長物とばかりに排除される傾向があるしな。平和で安定的な時代に、冒険気質の人間は受け入れがたいという面もある。軍人なんて言うのは、冒険者と対局なんだけど……あの時代の探検家は軍に所属している事が多い。国家の名誉を担うからってことなんだろうし、スポンサーが国と軍であるという点もあるだろう。
最初に旗を立てた奴の領土って考えもあった時代だしな。それで、変な場所に海外領土があったりしたし、それが紛争の原因になった。UCでは一つの恒星系単位で宙域国家が保有しているので、そういうチマチマした領土争いが起こらない分、ヤル時は恒星系の奪い合いになるということで、厄介だな。
「この募集で集まるものですか」
『集まるよ』
サキシマ回廊の戦い以降、宙華艦隊の侵攻に対する危機感が高まるなか、宙軍も退役将校を中心に、予備役から短期の再任官を打診して、急増する新設機動艦隊の人員確保に進んでいるんだが、如何せん、七十代とか無理なわけだそうな。それはそうだ。
『そもそも、恩給もらっているから、生活に困っているわけじゃないの。困っているのは』
「己の行き場……ですね」
『そうだよ!! だから、船さえ用意してもらえるなら、タダでもいいって老兵を集めて起業したわけ。勿論、軍には戻りたくないが、軍での経験を生かしたいって人も採用している。これは、バックオフィスとか整備部門だね。まあ、家族を持って子供が小さければそういう人だっている』
軍に入ればどこに行かされるか分からないし、辞めるのも難しい。なら、民間軍事会社の支援部門で経験を生かすという選択肢もあるな。造船系技官だと、工作艦に乗せられ前線近くで補修作業をエンドレスでやらされそうだもんね。エリートは前線に出ないから、そういう経験のあるベテランの技術者をぶち込みかねないだろうな宙軍は。
「給料どんなもんですか?」
『……安いよ。宙軍の給料から年金引分引いた額くらいだね。給料増やしても年金支給額減らされて調整されるから、こんなもんだよ』
そういえば、そうだ。現役世代並みに働くと年金カットされるんだよな。理不尽だよね! いくら世代間付与の意味があるからってさ。ゼロはないだろと思う。せめて定額分は払えよと思う。
「艦隊勤務の長かった方からすれば、『青嵐』程度では役不足なのではないですか」
戦艦や装甲巡洋艦の艦長や副長を務めた人からすれば、雑役艦の類いになる『晴嵐型』をベースにした『青嵐型』は「こんなものは」と言われかねない艦艇だ。不満もあるんじゃないかと思う。主砲もショボいし。
『何いってるの、最初は小さな艦の戦術士や航宙士から始まって、小型艦の艦長や副長を務めながらキャリアを積むわけでしょ? 大きな艦には無い青春の輝きがあるんだよこの手の艦には』
「……なるほど……」
巨大な戦艦には何千もの乗員が乗っている。全員が顔見知りというのが可能なのは巡洋艦でも微妙だ。駆逐艦やコルベットは精々五六十人で、ちょっと大きめの部活動みたいな感じだろう。顔と名前が一致する範囲の集団だ。まして、十人しか乗員がいない晴嵐型ならなおさらだな。
『武装が貧弱な分、考える余地も大きいしね』
主砲をぶっ放せば解決!! というわけにもいかない。回避より防御シールドの性能に頼り切るというわけにもいかない。そもそも、『青嵐型』はシールド搭載していないしな。
『子どもたちも納得してくれているみたいだし、最後に、元宙軍軍人らしく思い出作り? って感じだよね』
という感じでだべっているのは暇だからじゃないよ。これ、どっかで傍受している奴らがいるのではという前提で与太話して油断している振りをしているだよ。他の艦長だと……トワさんに気を使って自然な会話にならないんで、孫の友人の俺が相手をしているわけ。
『出てきたわよ』
「エンゲージです」
『エンゲージリング?』
わかっててボケてるでしょ、後のことはよろしくお願いしますよ、おばあ様。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
小型のPFSサイズの航宙艇か航宙機が十数機だろうか。いやほら、戻りの船は石っころばっかりだろ? なんで襲うんだお前ら。
『母船が控えているわ』
『FSK対宙戦闘用意!!』
船団が中央に密集する形で船列を整えていく。その四方を囲むように四隻の『青嵐型』が外周に対宙パルスモジュールを晒す形で位置を調整する。
『まさか、対宙戦闘の実戦経験するなんて思わなかったよ!』
『頑張るのだ!』
AI副官に若干の不安感はあるものの、装備には問題ないだろう。船足を止める推進器を破壊するため、後方から接近する小型舟艇と、船団の船足を止めるために頭を押さえる位置に出てくる弐つの部隊が接近してくるのが光学・赤外線センサーから見て取れる。速度は正直見るべきものがない。
宙賊の航宙機に宙雷を搭載しているという可能性はないではないが、正直整備とコストの面で固定武装のレーザー砲などを用いる可能性がかなり高いと読んでいる。宙雷の調整は整備兵でも専用の機器と兵が当たる必要がある、一つの無人攻撃ユニットだからだ。
機銃や舟艇用の連装パルスレーザー砲などは、消耗する部品もあるが、そこまで細かい調整をしなくても維持管理できる。なので、単価の安い攻撃手段であるレーザー砲を使うだろうと思われるのだ。
「『雪嵐』は再突入するために船団を通過してきた舟艇を狙い撃ちする。数が多いから当然だ」
『至極当然ね。船団の外周を周り込んで、母船を攻撃できる位置にさりげなく移動しておきましょう』
副官殿もやる気だ。沈めるのであれば、93式宙雷を使う方が効率がいい。恐らく、母船が宙賊の補給基地であり指揮官が座乗している船なのだろう。完全破壊は不味いので、半壊くらいに留めておこう。
『クサブエ達に、出撃用意させないと駄目でしょう』
「そうしてもらえるか? 今回は俺も同行すると伝えてくれ」
『……そうね。幹部の拘束は、その方がいいわね』
また、ばらばらにしちゃうと後が大変だからね。五体不満足なのは、よろしくないだろう。
ディスプレイに表示されるのは、様々な雑役船を改造した攻撃舟艇だ。艦隊内の交通船の役割を果たす『連絡艇』、艦隊内の物資の輸送などを行う艀のような役割を担う『連絡輸送艇』、PFSよりもスマートな形をした、大気圏突入能力を有する楔型の小型舟艇である『偵察艦』に、幾つかの古い形の航宙機は軍の払い下げの連絡機扱いのものに、武装を施したものだろう。
艦隊を構成する艦船の損失は、事故調査も念入りに行われるし、払い下げのあとの追跡調査もニッポンではそれなりに丁寧に行う。なので、この手の内航船・雑役船扱いの小型艇に武装を施す形での『宙賊艇』が最も効率が良い装備となる。
非武装の商船ばかりであれば、デブリ破壊用の対宙パルス砲であっても十分脅しの道具になるというわけだ。
『第3683グンマー船団、こちら日章戦隊。攻撃されたくなければおとなしく減速し、航宙機の案内に従い進路を変更しろ。抵抗の意思を示せば攻撃する』
旭日の次は日章かよ。賊の分際でニッポンの象徴名乗るとはふてぇ存在だ。
『船団、FSKの指示に従い減速』
抵抗する気を見せないと思わせ、近づいてきた航宙機を撃墜する気だろうと推測する。その間、『雪嵐』は船団の大外を回り、船団の先頭の先、宙賊の母船らしき大型輸送艦を攻撃できる位置まで前進を開始する。
「無人機発進。デブリに紛れて海賊の母船らしき大型輸送艦に接近させろ」
『了解!』
船団は速度を低下させながら、更に密集隊形を詰めていく。その方が、対宙パルス砲の射程内に船団が収まるようになるからだ。対宙パルスモジュールを積んだ『内海』『肩衝』が船団の前後を固める。攻撃コースに遷移する宙賊舟艇を攻撃しやすい位置を占めている。
『船団の運航指揮官に命ずる。船団を、先行する偵察艦の後をついて移動するよう速度と方位を同調させろ』
三角のスマートなシルエットの偵察艦が船団の進行方向を示すように船団の前に出る。
『こちら、船団の警戒警備を依頼されているFSKの『大海』カトリだ。そんな話は聞けないよ。それ!!』
陽電子砲モジュールに搭載されている76式陽電子砲の砲撃を受け、前方の偵察艦が爆散。途端に船団周囲を遊弋していた戦闘艇が攻撃行動へと移行する。
『日章戦隊からグンマー船団と、その護衛! お前たちは、やってはならないことをした罪を償ってもらう!!』
いや、やってはいけない事をしているのお前らだろ。
「93式宙雷、牽制の為に一発、大型輸送船に向け発射。推進器をできれば狙ってくれ」
『注文が細かいわね。でも、やれないことはないわ』
無人機の進発に続き、大型宙雷を前方に潜む大型輸送艦に向け発射。巡洋艦なら一発轟沈という事もあり得る威力だが、ハリボテ感の大きな輸送艦であれば、威力が拡散すのでそれはないだろうと思う事にする。
「続いて、93式の命中のタイミングの後に、無人機の95式宙雷を全弾、輸送艦に打ち込め」
『……了解。無力化が目的ね』
その通り。95式は撃沈が狙いではなく、艦船の通信機器や操舵の為のスラスターなどにダメージを与え、逃走や回避を困難にするために痛めつけることがその目的になる。
「カトリ隊、95式集中発射します!!」
モニターに映る映像には、二隻の『青嵐型』哨戒特務艦の戦隊から、十数発の小型宙雷が接近する航宙機・戦闘艇の集団に正面から撃ち込まれていく様子が映し出されていた。
小さな爆発が幾つも発生し、回避に専念し始める航宙機を、57式陽電子砲と対宙パルス砲の弾幕で次々破壊していくカトリ隊の面々。
「船団の速度低下させたお陰で、あいつら回避の難易度自分たちで上げたよな」
四隻の火砲を恐らくはAI副官が情報収集モジュールで得たデータとリンクさせ、一隻のシステムのように運用し、無駄なく宙賊の小舟艇を撃破していく。舟艇の対宙パルスを受けた輸送船が多少のダメージを受けるものの、積載されているのは『鉱物資源』なので、大した意味はない。
そんなさなか、進行方向で大きな爆発が観測される。
『予定通り、宙賊母艦の推進器に93式が命中、大破、航行不能というところね』
95式の発射を各一発に制限し、『雪嵐』の無人機に加え、『大海』『茄子』の搭載機である無人機各四基が、宙賊の母艦を包囲するように配置についたのだった。
【作者からのお願い】
更新できるように頑張りたいと思います。応援していただけると嬉しいです。
一日一(・∀・)イイネ!!もお願い申しあげます!
『わりと読めた』、『この続きを読みたい』と思われましたら下記にある広告下の【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、執筆の励みになります。よろしくお願いいたします!




